2012.10.23
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著作権の基礎から実践までを学ぶ(vol.1) ―横浜国立大学の免許更新講習から ―前編

新学習指導要領では、「情報モラル教育」としてだけでなく、教科の学習の中でも、子どもたちに著作権教育を行わなければならなくなっている。情報化の進展に伴って法令順守が求められる中、これまで学校現場では「教育目的なら何でも複製が認められる」という誤解が生じがちだった。正しい著作権の解釈、そしてその指導法とは? 今夏、横浜国立大学で行われた免許更新講習(選択)「小中学校における著作権教育実践入門」(私的録画補償金管理協会寄付講座)の模様をリポートする。

講座リポート

著作権教育とは? 意識させ、繰り返し学び活かす

講師:横浜国立大学 教育人間科学部 附属教育デザインセンター
   野中陽一 教授

各教科等で「情報モラル」扱うことに

野中 陽一 教授

この日は朝から夕方までの長丁場。午前中に「著作権の基礎知識」について講義があり、午後からがいよいよ「実践」編だ。まずは野中陽一・横浜国立大学教育人間科学部附属教育デザインセンター教授が、著作権教育についてレクチャーする。

「著作権教育について教えたことがある人は?」と野中教授が問い掛けると、受講35人中、一人だけ手が挙がった。それも中等教育学校の男性教員で、数学と「総合的な学習の時間」の論文指導に関連してとのこと。「調べ学習をする時、引用について指導しますよね。『著作権』について直接指導しなくても、そういう指導は結構しているのです。ただ『著作権教育』というと皆さん『えーっ、知りませんよ』となるのが現実でしょう」。

そうした抵抗感も無理からぬところだ。野中教授によると学校現場で著作権教育がクローズアップされたのは文化庁の「著作権教育研究協力校」指定(2003年度~)からと、比較的新しい分野だ。関連図書も野中教授が編集した『教育の情報化と著作権教育』(三省堂)が目立つ程度で、本格的なものはほとんどない。しかし情報教育や情報モラル教育の導入に伴って、必然的に著作権を扱うことが迫られている。

文部科学省の『教育の情報化に関する手引』では、情報教育の目標を(1)情報活用の実践力、(2)情報の科学的な理解、(3)情報社会に参画する態度――の三つの観点に整理。このうち(3)では「情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度」を育てることを求めている。野中教授は「情報教育というと『技術・家庭の技術分野で扱うことでしょう?』と言う人もいますが、そうではなく、いろんな教科で行うものなのです」と注意を促す。

意図的、計画的な指導が重要

野中教授は新学習指導要領で、小・中・高校を問わず情報モラル教育が導入されていることを改めて確認する。著作権教育は、この情報モラル教育の一環という位置づけだ。例えば小学校の指導要領解説には「知的財産権など自他の権利を尊重し」「情報には自他の権利があることを考えさせる」(総則)、「情報を生かすときの法やきまりの遵守」(道徳)とある。総合的な学習の時間でも、他者の作成した情報を参考にしたり引用したりする場合には作成者の権利を尊重し、出典を明記することを学ばせる必要がある。

また、情報化に「光と影」があることは、よく指摘されることだ。情報モラル教育では「影」の部分への対応として、情報社会で適正に活動するための基となる考え方や態度を養うことが求められる。「モラル」というと知識を必要としない“心構え”のように受け取られることもあるが、「知識も必要。メディアの特性や情報社会の在り方について、子どもたちが知識に基づいて判断できるようにすることが重要なのです」と野中教授は力を込める。

指導要領上、「情報モラル」は総則や道徳、中学校の社会や技術・家庭に、「知的財産権」は中学校の音楽や美術に、「著作権(引用)」は国語や技術・家庭に位置づけられている。このように「教科指導の中にも埋め込まれている」著作権教育だが、野中教授の印象では「体系的にではなく、入れられるところに『入れた感』が強い」。だからこそ「意図的に引き出して教えないといけない」という。各教科の学習内容と関連づけながら、繰り返し学習させることが求められる。

それには学校として各教科や学年での位置づけを体系化した指導計画を作成し、各教員が担当する授業で扱いながら徐々に高めていくことが必要だ。野中教授は、著作権を意識させるためには、まず▽漫画やアニメのキャラクター、(c)マークなど身の周りの著作権や、自他の作品にも著作権があることを理解させる、▽調べ学習等の学習場面で、引用の手続きだけでなく、人格権や財産権など著作者の権利を尊重することを意識させる――などを提案した。

先生が著作権を学ぶことって? ―小学校調査から

講師:内田洋行教育総合研究所
   中尾教子 氏

教員も知識だけでなく関心を

中尾 教子 氏

野中教授の後を受けて、内田洋行教育総合研究所の中尾教子氏が、同大学との共同研究の一環として行った実態調査結果を基に講義した。

中尾氏は、調査でも行った質問のいくつかを受講者にも尋ねた。イエスかノーかの知識問題は、(1)アーティストを応援するウェブページを作るために、好きなアーティストの公式ウェブページから写真をコピーして載せるのは構わない(調査での教員の正答率94.1%)、(2)死後50 年以上経過している日本人作家の文学作品は、自由に自分のウェブページに原文をそのまま載せても違法ではない(同48.7%)、(3)アイディアも著作権で保護されている(同19.7%)――かどうか。午前の講義のかいがあって、多くが正解できた((1)と(3)がノー、(2)がイエス)。

しかし調査結果からは、小学校教員が著作権に関する正しい知識を持っているだけでは、実際の著作権指導にはつながらない可能性があることがわかった。その一方で、著作権に関心が高い教員ほど授業で指導をしており、そうした教員から指導を受けた児童ほど知識問題の正答率や意識が高くなることも明らかになった。

中尾氏は「著作権に関する意識を総合的に高めるには、他者の著作物の利用に関する手続きについての指導だけでは十分ではありません。著作権の概念を、具体的な事例によって理解させることが重要です」と強調した。

講師に聞く

まずは引用の仕方から

――野中陽一 教授

野中陽一 教授

かつて学校現場は、著作権に関して無頓着でした。しかし最近では結構気にしているようで、教育委員会にもよく問い合わせがあると聞きます。校内研究に講師として招かれても、皆さん熱心に学ぼうとしていることを実感します。これまで興味がなかった人も、やはり新学習指導要領で各教科等に著作権に関する内容が入ったことが大きく影響しているようで、興味を持たれたのでしょう。
 教科書に載っていても、教える側に自信がなければ、つい飛ばしてしまいがちになります。教員に知識が十分でなければ、授業にも深まりが出ません。情報モラル教育の教材を1回でも授業で使ってみることが、始めの一歩です。
 調べ学習も今や本よりインターネットが主流になっていて、子どもたちはすぐコピー&ペーストしてしまいます。まずは引用の仕方だけでも、きちんと指導してみませんか。その上で優れた実践事例に目を向け、切り口などを学びながら、少しずつ指導を増やしていけばいいと思います。(談)

記者の目

かつて旧文部省・文化庁の担当記者をしていた時、「著作権は魔物だ」と聞いたことがある。一度はまると抜け出せないほどに専門的な興味が深まるということだが、裏を返せばゼネラリストのキャリア官僚でさえ手を出すには覚悟が要る行政分野だということでもある。しかし国際的にも知的所有権がますます重要視される中、著作権の知識が関心のある人だけにとどまっていてはいけない。次代で活躍する子どもたちのためにも、先生方の頑張りどころだ。

取材・文:渡辺敦司/写真:言美歩

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