2012.11.27
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著作権の基礎から実践までを学ぶ(vol.2) ―横浜国立大学の免許更新講習から ―後編

横浜国立大学で行われた免許更新講習(選択)「小中学校における著作権教育実践入門」(私的録画補償金管理協会寄付講座)の後編は、小学校と中学校の教員によるワークショップの様子を紹介する。いずれも公益社団法人著作権情報センター(CRIC)の「著作権教育の実践事例」(文化庁後援)の最優秀賞や優秀賞を受賞した実践事例だ。

実践リポート

〔小学校〕まねした・された気持ちにまで踏み込んで

教科・学年:総合的な学習の時間(3年生)、国語(6年生)
タイトル:著作権の概念を教える(総合)、資料の引用について考える(国語)
講師名:吉野 和美・静岡県富士市立丘小学校主幹教諭
授業のねらい:国語科や総合的な学習の時間の中に著作権教育を位置づけ、責任を持って情報を発信させるために、引用することの良さや引用の仕方を理解させ、自分の考えや著作物を大事にしようとする態度を養う。

メディア社会に生きる子たちに必要な教育

吉野 和美 主幹教諭

吉野主幹教諭が著作権教育に取り組むきっかけは10年ほど前、研究開発学校で「情報科」の研究開発に携わってから。今回発表した実践は、「著作権教育の実践事例」最優秀賞を受賞した前任校の富士市立田子浦小学校時代から磨きを掛けてきたものだ。

 「メディアとのつきあい方学習実践研究会」(顧問=堀田龍也・玉川大学教職大学院教授)のメンバーでもある吉野主幹教諭は、「子どもを取り巻くメディアには、インターネットや新聞、ケータイ(携帯電話)やスマートフォン、パソコンやテレビ、本、パッケージ――筆箱や洋服だってメディアに入るのでは――と、様々なものがあります。そういうメディア社会に住む子どもたちに、どう教育をするかを考えています」と述べる。世の中は表現物にあふれていて、いずれにも著作権がある。そこに気づかせることが第一歩だ。「調べ学習をしても簡単にコピー(&ペースト)ができてしまい、自分のものと人のものとがわかりにくくなりがちな時代、子どもたちにどうやって気づかせるかです」。

実は難しい“まね”の是非

ワークシートでは具体例として、「空」と題された二人の子どもの作文を並べる。「ぐーんと高い/秋の空/いわし雲を泳がせて」という書き出しは、まったく同じだ。その後が「余裕の顔して/いばってる…」「すずしい風が/ふきぬける…」などと違う。後者が、隣の席にいる前者の作文をのぞいて、少し変えたのだ。ワークショップでは受講者が小学校3年生になった気分で、まず同じ部分に線を引いた上で、まねをした子の気持ちを想像して答える。中には少し考え込む教員もいたが、発表では「一人じゃ書けないよー」「詩を書くのは嫌だ。まねしよう」「題が浮かばないなあ」など、子どもの気持ちを代弁した解答が次々と挙がる。

次は、まねをされた子の気持ちだ。今度はみなスラスラと筆が運ぶ。「まねされたら嫌だ」「私がまねしたと思われる」「ずるいな」……。吉野主幹教諭が「まねされて光栄だ、と言い切った子もいたんですよ」と紹介すると、教室に感嘆が広がる。ここで隣の人と「人のまねをしてはいけないのか」について話し合った。吉野主幹教諭は「著作権は『まねじゃいけないよ』という話ですが、(普段の授業では)『友達のいいところを取り入れましょう』とよく言いますよね。そこが小学生に教える難しさです」と指摘する。

吉野主幹教諭は難しい著作権の基礎知識は、紙芝居にして教えている。3人の小学生と担任の先生との会話を通して、キャラクターを勝手に使ってはいけないこと、自分たちの作品にも著作権があることを伝え、そこから身の周りの(c)マークに注目させ、世の中は著作物であふれていることに気づかせる。「45分(の授業)でできますので、ぜひやってみてください」。

正しい知識を基に繰り返し、定着を

続いて吉野主幹教諭は、6年生が修学旅行で見学した国会の仕組みを、5年生にわかりやすく伝える授業を紹介した。自分の見聞と、現地でもらったパンフレットに書かれた情報を加えながらリポートした、複数の発表原稿を比較しながら、引用して説明する良さや引用の仕方を学ぶのがねらいだ。

「引用の仕方は国語で教えればいいのですが、それだけでは十分ではありません。一回では身につかないので、生活場面に返しながら、繰り返し教えなければなりません。子どもたちに判断のための正しい知識を教えるには、まず私たち教員が正しい知識を持っていることが必要です」

実践を通した、吉野主幹教諭の実感でもある。

〔中学校〕引用の特徴や効果に着目し、良さを味わう

教科・学年:国語(1年生)
タイトル:中学校国語科における「引用」の授業 ~豊かな言葉『光と風からもらった贈り物』~
講師名:金 隆子・山形県米沢市立第二中学校教諭
授業のねらい:筆者の考えを効果的に表現するために、宮澤賢治の詩「高原」を引用していることを理解させる。また、引用の目的や方法を学び、実際に書く活動を取り入れることで著作物に対する意識を高める。

心配な行為は子どもたちの日常の中に

金 隆子 教諭

山形県米沢市は、各学校の体育館に上杉謙信と上杉鷹山の絵が掲げられているほど、旧米沢藩の伝統が残る地域。藩校で漢文を教えたことから、金教諭も国語の授業でも熟語のしりとりをしたり、故事成語ならぬ「己事成語」で自分らしい座右の銘を作って発表したりするなど、遊びの要素も取り入れながら言葉の感性を育んでいる。

その延長でインターネット上の名言集から好きな言葉を選ばせ、その名言を選んだ理由を作文に書かせる授業を行っており、受講者にもナポレオンの名言10個を示して取り組んでもらった。

そんな金教諭でも、野中教授の指導を受けるまでは引用の指導をそれほど意識していなかった。しかし生徒の実態を振り返れば、インターネットから気軽に音楽をダウンロードしたり、写真メールを交換したりと、著作権法上心配な行為が多々ある。「教科指導の中でも適切な行動をするための知識や態度を育てることが求められている」と気づいたという。

教科書こそ最良の「著作権」教材

そこで着目したのが、教科書に載っている教材『光と風からもらった贈り物』(高橋世織、光村図書『国語1』=2011年度使用版まで)。「宮澤賢治の詩『高原』を引用することで、詩の言葉の豊かさに触れ、賢治の世界へと導き、さらに人間と自然が共生する世界へと視野を広げさせる文章」(金教諭)だ。ワークショップでも受講者に教科書を配り、「この文章を書いた人は?」「詩を書いたのは?」と質問していく。「なぜ(宮澤賢治の詩が)引用だとわかりますか?」と問うと、受講者からは中学生になったつもりで「行が(前後で)空いています」「1字下がっています」「活字の大きさが違います」「(引用の前に)読んでみましょう、と書いてあります」などの解答が挙がる。金教諭も「そういう風に工夫して、自分の文章じゃないということをわかるように書いてあるんですね」と応じる。

ワークシートには「引用の目的と方法を確認しましょう」「他の事例など大事なことをメモしましょう」などの課題が書かれ、引用について1時間で効果的に学べるよう工夫されている。

金教諭は教科書の目次に講習者の注意を向けながら「(引用の指導として)教材化できるものが、教科書にはたくさんあるのです」と強調。▽子どもたちの生活レベルに合わせ、作文など体験を通して身につけさせることで身近なものになる、▽他教科に目を向けさせれば、教科書や資料集の見方も変わる、▽引用の効果に気づかせることによって、主題に迫ることもできる――といった成果を挙げた。

新指導要領の実施を指導充実の契機に

金教諭は現在、2・3年生の授業を担当している。アンケートを取ってみると、1年生から指導している生徒では引用の目的や方法、引用部分はどこかなどについては理解しているものの、原文を尊重する態度や効果的に伝えることなどについては依然、課題も見られた。「やはり繰り返して教えてこそ定着するのだなと実感しました」と金教諭。教科間の連携や、学校としての全体指導計画も必要だと指摘。「新学習指導要領になって、教科書の教材も生き生きしたものが増えました。とてもワクワクしています」と今後の授業実践に意欲を示してワークショップを締めくくった。

受講者に感想を聞いてみると、横浜市内の中学校で国語を担当する50代の男性教諭は「著作権については以前から関心がありましたが、授業で正面から取り上げたことはありませんでした。(模擬授業を受けて)そういうやり方があったのか、と勉強になりました。さっそく授業でやってみたいと思います」とほほ笑む。私立の中高一貫校で専任の司書を勤める女性教諭は「学校に帰ったら、教科の先生にも伝えます」と述べた。

記者の目

今回の講習は免許更新制という半ば強制的なものだが、実際に取材で同席してみて「最新の知識技能を身につけることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得る」(文部科学省の説明)という点では、更新講習もいい機会なのだと実感できた。同時に、10年に一度と言わず、現場のニーズや悩みに即応する講座をもっと受講しやすくできれば……とも、改めて思った。

取材・文:渡辺敦司/写真:言美歩

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