2022.08.15
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もっと知りたい"GIGAスクール"(第1回) 1人1台環境実現までを振り返って

2021年2月、萩生田文部科学省大臣(当時)は、同年4月から1人1台環境下での新しい学びが本格的に始まろうとしていることから2021年度を「GIGAスクール元年の始まり」とする動画メッセージを配信しました。今回は、この国のICTにまつわる政策の変遷をたどり、1人1台端末が整備されるまでの歴史をひも解いていきましょう。

ICT環境の整備状況

直近の公表値

『1人1台端末は令和の学びの「スタンダード」』というスローガンで推し進められたGIGAスクール構想。これまでの教育実践の蓄積とICTを適切に組み合わせることで学習活動の一層の充実を図ることを目的とした、文部科学省主導の政策の一つです(図1)。新型コロナウイルス感染症の影響により実現が前倒され、いまやほぼ全ての学校に1人1台端末が整備されました。

まずは、文部科学省『令和2年度学校における教育の情報化の 実態等に関する調査結果』(2021年3月1日現在)を基にICT環境の整備状況の推移を見ていきましょう。例えば、2020年から2021年にかけ教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数は4.9人から1.4人と推移し、1人1台端末の整備という目標は急速に実現することとなりました。

また、普通教室の無線LAN整備率は48.9%(2020年3月)から78.9%(2021年3月)に増加、インターネット接続率は2021年3月時点で98.2%に達しました。

そして文部科学省『義務教育段階における1人1台端末の整備状況』(2021年7月末時点)では、2022年3月には全自治体の98.5%が1人1台端末の整備を完了(見込み)することが公表され、GIGAスクール構想の第一目標であるICT環境の整備が概ね実現したといえるでしょう。

「コンピュータ教育元年」はいつ?

1人1台端末構想の歴史

さて、これまでICT環境の直近の整備状況の推移について見てきましたが、そもそも教育現場におけるICT環境の整備にはどのような歴史があったのでしょうか。本記事では、堀田・木原(2008)、林(2012)、教育と情報の歴史研究会(2019)の整理を参考に振り返ってみましょう。

初めに、日本の教育におけるICT環境の整備は、1985年度から5年間「教育方法開発特別設備費」が国庫補助として計上され、初等中等教育でのコンピュータ導入が進められたことから始まります。この年、教材費国庫負担制度が廃止されましたが、カットされた額の約1割が1985から87年度に20億円、88年度に29億円、89年度に34億円と、コンピュータやワープロ、ビデオディスク、映像機器などに投資されたようです。

続く1990年度からの5年間では「第一次コンピュータ整備計画」が進行し、主に中学校を中心にコンピュータ教室の整備が進められるようになりました。この時期に、文部科学省より「情報教育に関する手引」が発布されたり、また1989年に告示された学習指導要領の改訂により中学校の課程技術分野に「情報基礎」が選択領域として導入されたりするなど、教育課程にコンピュータ活用が徐々に位置づけられるようになりました。

1995年度から2000年度にかけては「第二次コンピュータ整備計画」が策定され、今度は主に小学校のコンピュータ教室の整備が進められました。

次に2000年度から始まる「第三次コンピュータ整備計画」では、普通教室におけるコンピュータ整備に重点がおかれました。実はこの時期から既に「すべての小・中・高等学校等のすべての授業においてコンピュータやインターネットを活用できる環境を整備すること」がコンセプトとして掲げられていました。

第一次整備計画(1990~1994年度) 第二次整備計画(1994~1999年度) 第三次整備計画(2000~2005年度)
小学校 3台〔児童用(慣れ親しませることを目的とした整備)1台、教員用2台 〕 22台〔児童2人に1台、教員用2台〕 42台〔児童1人に1台、教員用2台〕
中学校 22台〔生徒2人に1台、教員用2台〕 42台〔生徒1人に1台、教員用2台〕 42台〔生徒1人に1台、教員用2台〕
普通科
高等学校
23台〔生徒2人に1台、教員用2台、校務用1台〕 42台〔生徒1人に1台、教員用2台〕 42台〔生徒1人に1台、教員用2台〕
特殊教育諸学校 5台〔生徒2人に1台、教員用2台〕 8台 〔児童・生徒1人に1台、教員用2台〕 8台〔児童・生徒1人に1台、教員用2台〕
普通教室 2台〔全学校・教員用〕
特別教室等 6台〔全学校・教員用〕

その後2006年からは下記を目標とする「学校教育情報化推進総合プラン」が発表され、この時期から校務の情報化の推進、情報モラル教育、高度IT人材育成などのキーワードが現れました。

  • 児童生徒3.6人に1台のコンピュータ整備
  • 普通教室の校内LAN整備率100パーセント
  • 超高速インターネット接続率100パーセント
  • 教員の校務用コンピュータ整備率100パーセント
  • すべての教員がICTを使って教科指導ができる

その後、2010年からの総務省「フューチャースクール事業」ではICT機器を用いて、学校現場における情報通信技術面における課題を分析するための実証事業が実施されました。実証では、児童生徒、教職員1人1台「タブレットPC」や全普通教室の配備した「インタラクティブホワイトボード」、校舎内外で通信可能な「無線LANネットワーク」の可能性について調査が行われました。

また2014年「教育のIT化に向けた環境整備4か年計画」や2018年「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」では、教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数、大型提示装置・実物投影機の整備、超高速インターネット及び無線LAN整備、校務システム整備、ICT支援員配置などが目標水準の項目として設定されました。そして2019年、「GIGAスクール構想」が発表され、全国に1人1台端末とネットワークが整備されることになっていきます。

以上これまでICT環境の整備に関する政策を振り返り、現在1人1台端末が整備されるまでにどのような変遷があったかを確認しました。これらの過程は、大きく3つの段階(林 2012)に集約されます(図4)。

1つ目は、コンピュータ教室等の情報機器の設備化。2つ目は、普通教室等で使う教授学習用の情報機器の備品化。3つ目は、ネットワーク上での情報のやり取りを可能にする情報環境のクラウド化です。特に3つ目の情報環境のクラウド化については、先に見てきたように構想としては約10年前からあったものの、なかなか実現がかないませんでした。それがGIGAスクール構想によりいよいよ実現し、より充実した教育実践ができる準備ができたのです。

いかがでしたでしょうか。昨今、広く話題になる教育ICT環境の整備は、20年以上も前から取り組まれているのです。筆者は1998年生まれですが、生まれる前からコンピュータ教室の整備が始まっていたことにとても驚きました。当時、当たり前に使っていたコンピュータ教室での授業は、実はその数年前の政策によって整備された新しい環境であったということを知りました。同じように、いまの子どもたちも1人1台端末を「当たり前」のように使ってくれていれば嬉しいですね。

次回は、いよいよGIGA2年目を迎えた学校がこの整備されたICT環境をいかに活用しているのか、また活用事例を広めるために各自治体で工夫していることについて、ご紹介します。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 佐藤 智文

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