2020.08.31
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意外と知らない"GIGAスクール構想"(第2回) 実現のためのポイント

第1回では、1人1台端末環境実現のための財政措置を中心に解説しました。第2回はGIGAスクール構想の実現を考えるにあたっての具体的なポイントについて紹介します。

GIGAスクール構想における考え方のポイント

(1)安価な端末×適切なネットワーク×クラウドの活用

「端末1台あたり上限4.5万円の補助」ときいて、皆さんは高いと感じるでしょうか。それとも安すぎると感じるでしょうか。これまでの教育現場では通常4.5万円よりも高価な端末が導入されてきました。その背景には教育向け専用に作られた教科ごと・学年ごとのたくさんのソフトウェアを端末にインストールして使う…という運用が一般的であり、そのためにスペックの高いPCが必要であったということがあります。(そんなある程度スペックの高いPCでも、「授業中に動作が止まった!」ということも多く、苦労された先生も多数いらっしゃることと思います。)これに対し、文部科学省では「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ )」(令和元年6月25日)の中で次のように述べています。

「学習者用コンピュータは先端技術を取り入れた高価・高性能な機種である必要はなく、むしろ安価で一般に普及しているものを時代に合わせて更新していくことが望ましく、また総コストも下げられる」「そのためには、従来の端末に集中したオンプレミス型よりも、適切な通信ネットワークとパブリッククラウドに基づくクラウドコンピューティングが極めて有力な選択肢となる」

文部科学省「GIGAスクール自治体ピッチ紹介ページ」より

つまり、適切なネットワーク整備を行い、端末側にはソフトウェアをインストールせずクラウド上のサービスを利用することで、端末のスペックを下げることができ、1台当たり4.5万円以内の端末でも十分に教育現場で利用できる、ということです。

2019年12月末にはこうした内容を実現するために必要な端末・校内通信ネットワーク等の標準仕様書が文部科学省から示され、2020年3月に実施された「自治体ピッチ 」(「ピッチ」とは、その分野の知識が無い相手を対象とした短時間のプレゼンテーションを指します。)の中では、30以上の事業者・団体から、GIGAスクール向けの4.5万円以下の端末パッケージが75件提案されました。補助対象で構成される「基本パッケージ」と、補助対象とならない要素も含まれた「応用パッケージ」があります。「基本パッケージ」でも4.5万円を超えた部分は自治体負担、「応用パッケージ」では4.5万円未満でも補助対象とならない要素については自治体負担となります。

(2)学習用ツール(ソフトウェア・アプリ)について

子どもたちが端末を利用して学習を行うためには、学習用ツールつまりソフトウェアやアプリが必要ですが、学習用ツールについては補助がついていません。GIGAスクール構想における学習用ツールはどのように整備すればよいのでしょうか。これまで、教育現場では教育に特化したソフトウェアを有償で購入することが多かったと思いますが、これについては前述の通りクラウド上のサービスを利用することが推奨されています。文部科学省では、OS各社が提供している教育用に教科横断的に利用できる無償の学習用ツールについて紹介しています。ここでは各社が提供する無償の学習用ツールについて簡単にご紹介します。

各社が提供する無償の学習用ツール
OS各社 ツールの内容
Microsoft教育機関向け(Office365ライセンス) Word、Excel、PowerPointといったオフィス機能やForms(アンケート・小テスト機能)がブラウザ上で利用可能。Teamsという機能を利用して、クラスごとに課題を回収・採点したり、ファイルを同時に共同編集したりすることができる。(MicrosoftがGIGAスクール向けに新たに発売した「Microsoft 365 Education GIGA Promo」が含まれるパッケージの場合、Officeソフトのデスクトップアプリを利用することも可能。)
Google(G Suite for Educationライセンス) ドキュメント(文書作成)、スプレッドシート(表計算)、スライド(プレゼンテーション)や、自動採点が可能な小テスト作成アプリのフォームなどが利用可能。また授業支援ツール「Google Classroom」を利用することで、課題の配布・フィードバック・採点・返却・集計を一元管理することができる。
Apple(Apple社が提供する無償の教育用App) Pages(文書作成)、Numbers(表計算)、Keynote(プレゼンテーション)といったアプリや教育現場で使える動画・音楽編集アプリ、プログラミングアプリなどが端末内のローカルでも利用可能。また、教育向けに無償提供されている共同学習ツール「クラスルーム」を利用すると、教員用端末から一覧で学習者用端末の状態を確認したり、画面をコントロールしたりできる。

オフィス機能だけでなく、従来パソコン教室などで多く使われていた「授業支援ソフト」の機能の一部についても、こうした無償のツールで代替することができそうに見えてきませんか。「(これまで使っていた)どの機能を使いたいか」ではなく、「その機能を使ってどんな学習をしたいか」という機能を利用する「目的」をベースに、これから何を使ってどのように実現できそうか、考えることが重要です。

▼考え方の例
従来の授業支援ソフトの機能 機能を利用する目的 無償ツールに置き換えると…
子供の画面を教師が一覧で確認 子供達の活動の進捗状況をリアルタイムに手元で確認したい ファイルの同時編集機能を利用し、教師・子供が1つのファイル内で作業することで活動の進捗を確認

(3)補助の対象外となるものの整備について

GIGAスクール構想にひもづく補助金には「有償のソフトウェア」「有償の保守保証」など、補助対象外となるものもあります。これらについては「これまでパソコン教室で使っていたから同じようなサービス内容で」と考えるのではなく、本当に必要なものを精査した上で購入を検討していく必要があるでしょう。また、「学校外のネットワーク」についても補助の対象外となります。校内LANが教育委員会や自治体のデータセンターを経由してインターネットに接続している場合は、学校と教育委員会・自治体の間の回線の強化も必要な場合があります。今回の「安価な端末×適切なネットワーク×クラウドの活用」を実現するためには、学校外についても「適切な通信ネットワーク」の構築が必要不可欠です。こうした補助対象外だけれども必要なものについては、地方財政措置等を活用して、整備を進めていくことになります。(新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用することも想定されます。)

(4)活用について

「GIGAスクール構想」はただ環境を整備するという構想ではありません。環境整備はあくまで手段であり、大切なのは整備された環境をどのように活用していくかです。一方で「1人1台端末環境」がこれまで整備されていた学校はごくわずかで、先生方の中には「どのように使ったらいいのか分からない」という先生も多いことと思います。文部科学省ではそうした活用に関する悩みの相談窓口として「ICT活用教育アドバイザー事務局」を設置しています。こうした制度を利用し、教育委員会等を通してまずは知りたいこと・分からないことをアドバイザーに相談してみるのもいいかもしれません。

また、地方財政措置の中には「4校に1人分のICT支援員」の整備についても含まれています。ICT支援員を整備することで現場の先生方にICT活用の提案を行ったり、活用研修をしたり、といったことも考えられます。「環境を整備するだけでなく、どう日常的に使って、どう学びを深めるか」を考えていくことがこれからの課題になるでしょう。

参考資料
  • 文部科学省「GIGAスクール構想の実現 標準仕様書」
  • 内閣府:新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 吉澤 日花里

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