2024.08.19
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意外と知らない"学力調査のCBT化"(第2回) 文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)の活用

第1回では、小中学校対象の大規模学力調査でのCBT利用状況等をご紹介しました。第2回では、文部科学省CBTプラットフォーム「MEXCBT」について、概要や利用方法等を紹介します。

1 MEXCBT(メクビット)導入状況

MEXCBTとは文部科学省が開発したCBTプラットフォームです。MEXT(文部科学省:Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology)とCBT(Computer Based Testing)を組み合わせた名称です。

「GIGAスクール構想により、児童生徒1人1台端末環境が整備されたことを踏まえ、児童生徒が学校や家庭において、国や地方自治体等の公的機関等が作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができる」よう、コロナ禍の2021(令和3)年12月から運用されています。

公立学校・私立学校を問わず、教育委員会・学校法人・国立大学法人等の設置者が利用登録を行うことで無償で利用でき、2024年2月の時点で、公立小学校の80%超、公立中学校のほぼ全て(ほぼ全ての自治体、約2.7万校、児童生徒等約850万人)が利用登録しています。

中学校では、令和5年度の全国学力・学習状況調査の中学校英語の「話すこと」調査でMEXCBTを利用したことから、公立学校のほぼ全てで導入されています。第1回でご紹介したように、全国学力・学習状況調査は、2027(令和9)年度までにCBTへ全面移行する方針であることが発表されています。全面移行を前に、小学校でも導入が進むと考えられます。小中学校の他、高等学校や大学の教員養成課程(教員としての利用体験)等でも利用されています。

2 MEXCBT開発の背景とメリット

公的CBTプラットフォームとして文部科学省がCBTシステムを開発・運用している背景には、よりよい教育を提供していくための教育DXの推進があります。

「国全体で教育DXによる学びの環境を実現するには、教育データの利活用に必要な知見や成果を共有することができる基盤的なツールを文部科学省が整備する必要がある。」との背景から、教育DXの三本柱の一つに「ツールの整備」を据え、ツールの一つとしてMEXCBTが構築・運用されています。

<教育DX推進における三本柱>

  1. 教育データの意味や定義を揃える「標準化」(ルール)
  2. 基盤的ツールの整備(ツール)
    CBTシステム:MEXCBT、WEB調査システム:EduSurvey
  3. 教育データの分析・利活用の推進や、教育データ利活用にあたり自治体等が留意すべき点の整理(利活用)

各自治体でバラバラとなっていたルールやツール・その仕様の標準化が進められており、MEXCBTも、問題やデータの相互運用が可能な国際技術標準に対応した汎用的なシステムとして開発されています。

現在、約900の地方自治体において独自の学力調査が行われており、文部科学省はそのCBT化を推進しています。第1回で紹介した埼玉県や京都府、広島県の他、北海道や岡山県、福岡県春日市、埼玉県加須市等でもMEXCBT上で学力調査が実施されています。文部科学省「地方自治体の学力調査等のCBT化検討研究会」には、約530の自治体が参加登録しているそうです。

<文部科学省によるツール整備のメリット>

  1. 各自治体・学校はシステム構築のための経済的・人的コストをかけずに、CBTシステムを利用することができる。
  2. 問題の共有が可能になる。
  3. CBT利活用における知見の共有を行いやすい。

3 MEXCBTの仕組みと利用方法

MEXCBTを利用するためには、学校設置者による利用登録だけでなく、10社いずれかの学習eポータル標準準拠ソフトウェア(以下、「学習eポータル」とします)の導入が必要です。MEXCBTは個人情報等を持たず、学習eポータルを入口として利用します。

学習eポータルを導入済みの場合は文部科学省へMEXCBTとの接続申請だけを行い、未導入の場合はMEXCBTの利用申込と同時に各社へ学習eポータルの導入も申し込むことができます。

学習eポータルとMEXCBTの接続手続きが完了し、教員と児童生徒に学習eポータルのアカウントが配付されたら、次のような手順で利用できます。

<MEXCBT利用の基本的な流れ>

  1. 教員が学習eポータルにログイン
  2. MEXCBTに搭載されている問題を選択し、児童生徒に配信(下図①)
  3. 児童生徒が学習eポータルにログイン
  4. 自身のマイページに配信されているMEXCBTテストを選択し、開く。
    ※学習eポータルとMEXCBTとのシステム間については、データ連携が行われているので、それぞれのシステムで都度ログインする必要はありません。学習eポータル上で、テストを選択するとMEXCBTへ自動的に遷移します。
  5. MEXCBT上で問題に解答(下図②)
    ※問題を読み、解答を選択・入力後、右下の右向き矢印で次の問題へ進みます。前の問題に戻ることができる場合は、左向きの矢印も表示されています。画面の拡大・縮小や、マーカーで印をつける機能といったツ―ルも左下に表示されており、CBTでの解答を補助しています。
  6. 解答データを送信
    ※決められた時間が経つと自動的に送信される場合もあります。
  7. 採点結果が学習eポータルに届く。(下図③)
  • ①教員が問題を選択・配信(学習eポータル上)

  • ②児童生徒が解答(MEXCBT上)

  • ③教員が結果を確認(学習eポータル上)

  • ③児童生徒が結果を確認(学習eポータル上)

4 日常的な利活用事例

MEXCBTには、日常的な利活用向けに約4万問の問題が搭載されており、全国の小中高等学校で確認テストやデジタルドリルとして活用できます。

コンテンツが続々と増えており、例えば「文部科学省_英語学習問題」には、英語教育改善プラン推進事業で開発されたCBT問題が今年5月に追加されました。英語4技能をバランスよく育成するために、特に課題となっている「話すこと」「書くこと」の力の強化を目的としたコンテンツです。

全ての学校が利用できる問題の例
  • 国、検定協会等が作成した問題
    MEXCBT入門問題(基本的操作に慣れるための問題)
    全国学力・学習状況調査(過去問)
    全国学力・学習状況調査を題材とした動画問題(小6理科)
    中学校/高等学校卒業程度認定試験(過去問)
    PISA(国際学力調査)の公開問題(2015、2018)
    英検/数検/漢検(過去問)
    情報モラル学習問題
    英語学習問題
  • 地方自治体等が作成した問題
    北海道「ほっかいどうチャレンジテスト」(小1~中3)
    岩手県「岩手県学習定着度状況調査(小5、中2)」「岩手県中学1年生英語確認調査」
    さいたま市「基礎学力定着プログラム」(小1〜中3)
    幸手市「パワーアップシート」「確認テスト」(小1〜中2)
    千葉県「ちばっ子チャレンジ100」(小1~小6)「ちばのやる気学習ガイド」(中1〜中3)
    横浜市「はまっ子学習ドリル」(小1~中3)
    大阪府「STEPS in OSAKA」(小・中・高)
    高砂市「高砂計算検定」(小1~中3)
    岡山県「学力定着状況確認テスト」(小4)
    広島県「ひろしま大雨防災」
    山口県「やまぐち学習支援プログラム」「学力定着状況確認問題」(小5、中1〜中2)
    佐賀県「さがんば」(小5、小6、中2)

30分間の月例テストとして、その月に学習した内容の問題等をピックアップし、小学校3~6年生に配信している、学級閉鎖時の家庭学習課題として100問配信し、1日1時間程度取り組ませたといった活用事例が、文部科学省のページで多数紹介されています。

子供たちが観察実験で撮影した実際の画像を使用して問題を作成するなど、学校で開発した独自の問題をMEXCBTに搭載し、利用している学校もあります。「MEXCBT記述式採点システム」を利用して、記述式等の問題を教員が採点することも可能です。

家庭学習課題の例
北海道釧路市立景雲中学校の夏休みの宿題
1年 数学)ほっかいどうチャレンジテスト1年方程式①、方程式②
社会)ちばのやる気ガイド1年古代までの日本(2)日本列島の誕生と大陸との交流〈応用問題1・2〉
2年 数学)ほっかいどうチャレンジテスト2年式の計算①、式の計算②、連立方程式①、連立方程式②
社会)ちばのやる気ガイド2年古代までの日本(3)古代国家の歩みと東アジア世界〈応用問題1・2・3・5〉
理科)ちばのやる気ガイド2年化学変化と原子・分子(原子・分子)〈基本問題1・2〉、(化学変化)〈基本問題1・3〉
千葉県香取市立栗源小学校の週末の宿題
国語)ちばっ子チャレンジ100
算数)ほっかいどうチャレンジテスト、さいたま基礎学力定着プログラム、ちばっ子チャレンジ100
※前学年までの復習を中心に、自動採点可能な問題を配信

5 まとめ

2回にわたって初等中等教育段階のCBTの動向について、全国学力・学習状況調査だけでなく、地方自治体の学力調査や日々の学習でもMEXCBTを活用できることをご紹介しました。GIGAスクール構想による1人1台環境の整備とMEXCBTの開発・運用により、小学校から高等学校段階まで、どの学校も「パソコン・タブレットで問題を解く、テストを受ける」仕組みを利用できる環境が整いつつあります。

「共通基盤」という特性を活かし、導入や利活用に関するノウハウ、学力調査等の問題の共有が進むことで、より多くの教育現場で教育DXが促進されていくと考えられます。自分にとって最適な場所・時間・コンテンツで学べる個別最適な学びの場が広がることが期待されます。

10月には、「大学入試」でのCBT活用について、大学入学共通テストのCBT化が見送りとなった背景等を、高大接続等の大学入試改革の情報を交えて紹介する記事を公開予定です。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 大山 恵夢

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