2015.08.04
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意外と知らない"学校での1人1台のタブレット活用"(vol.1)

意外と知らない

文部科学省は、2020年度に向けた教育の情報化に関する総合的な推進方策として発表した「教育の情報化ビジョン」に沿って、全ての学校で1人1台の情報端末による学習を推進しています。これを受け、各地で、1人1台のタブレット端末を整備する計画が活性化しつつあります。すでに教育用コンピュータは、ほぼすべての学校に整備されていますが、新たに1人1台のタブレット端末が配備されることで、教育現場はどのように変わっていくのでしょう? アクティブ・ラーニングや情報活用能力・21世紀型スキルの育成との関連も踏まえながら、期待される効果や課題について、以降5回にわたってご説明します。第1回は、教育用コンピュータがどのように教育現場に普及し、活用されてきたのかを振り返りながら、日本の教育の情報化の歴史について、おさらいしてみましょう。

いつから学校にコンピュータが導入されたのか?

日本における教育の情報化の動きが知られるようになったのは、1970年代(昭和40年代後半)に高等学校の専門教育として情報処理教育が行われるようになった頃からでしょう。その後、機械制御のための基礎的なプログラミングや、製図(CAD)、商業実践といった分野でも授業の中で、コンピュータが利用されるようになりました。1980年代に入ると、CAI(Computer Assisted Instruction)やCMI(Computer Managed Instruction)という概念が教育界に急速に広まります。一部の先進的な小中学校でも(多くは情熱的な先生方と、支援を惜しまない研究者の方々にけん引されて)、パソコンを使った教材作りやそれらを活用した授業が行われるようになり、徐々にその効果や可能性に期待が寄せられるようになりました。

学校(特に小中学校)へのパソコン導入が一気に進み始めたのは1985年(昭和60年)からです。臨時教育審議会や教育課程審議会、情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究者会議などで、学校教育における情報化への対応やその基本的な考えについて議論・提言等が行われました。加えて、学校教育設備整備費等補助金(教育方法開発特別設備)として、学校へのコンピュータ等の導入に対して国庫補助が開始されたことにより、教育現場へのICT環境整備が本格的に進められました。後に、この1985年は「情報教育元年」と称されるようになります。

その後、1989年には、情報教育を盛り込んだ新学習指導要領が告示され、教育用コンピュータ整備費補助や教育用コンピュータ新整備計画等の政策の後押しもあり、2000年頃までには、ほぼすべての学校にコンピュータ教室が設置されるようになりました。以降、普通教室や特別教室等へもコンピュータの利用環境整備が進められ、現在に至ります。文部科学省の調査によれば、2014年3月時点で、全国の小・中・高等学校・特別支援学校に設置されている教育用コンピュータの総台数は、約190万台。児童生徒数6.5人に1台が配備されている計算になります。

学校のインターネット接続が加速

学校の情報教育設備の充実は、コンピュータの台数増だけではありません。インターネットの出現により、教育の情報化は、新たな局面を迎えることになります。

1995年のWindows95の発売や、「テレホーダイ」サービスの開始などをきっかけに、日本でも企業や一般家庭にインターネットが急速に普及しました。

そんな中、インターネットの教育利用の先駆けとなったのは、1994年に公募が開始された「100校プロジェクト」という通商産業省と文部省の共同プロジェクトでした。このプロジェクトを通じて、全国から選ばれた小・中・高等学校など100校(実際は111校)にインターネットが接続され、初等中等教育にインターネットを利用するという画期的な試みが行われました。とかく、目新しい設備や技術に関しては一般社会への定着を待って、後追いで導入されることの多い日本の教育現場において、実社会と同時進行、あるいは一歩先んじてインターネットという先進技術を学校に投げ込んだという点からも、この取り組みは、大きな意義があったと言っていいでしょう。

そんなインターネット黎明期に、ほとんどの教員がインターネット初体験という手探りの状態で、学校ホームページの公開や教材データベースの制作、電子会議を利用した学外とのコミュニケーション授業など、後の指標となる多くの有意義な活動が展開されました。

100校プロジェクト参加校それぞれの取り組みに成果が認められるにつれ、惜しくも100校の選に漏れた学校や、インターネット利用に新たな教育の可能性を感じた地域・学校では、独自にインターネット環境を整備しようという意欲がたかまり、1990年後半には、「ネットデイ」とよばれる取り組みが全国各地で盛んになります。

「ネットデイ」とは、ボランティアにより学校インターネットの環境整備を行うイベントのことで、教員や保護者、地域の方々が学校に集まってLANケーブルの配線等を行い、インターネット環境を構築する作業を支援しました。ネットデイは、ICT環境整備の経費を軽減するという目的だけでなく、学校と家庭、地域が一体となって作業を行い、つながりを深めるイベントでもありました。

このように、我が国の教育の情報化は、「新しい教育環境を子ども達に……」という熱い思いを持った先生方や、これを支える地域の方々の助けがあって、発展してきた側面もあるのです。

一方で、国や地方自治体でも学校へのインターネット環境の整備計画は、積極的に進められました。1999年に策定された「ミレニアムプロジェクト『教育の情報化』」では、「2001年度までにすべての公立小中高等学校等がインターネットに接続できるようにする」という目標が明示され、1999年3月時点で35.6%だったインターネット接続率は2001年度末には、ほぼ全校(97.9%)を達成しました。ただし、この当時のインターネット接続環境は、ダイヤルアップ接続でわずか64Kbpsしか出せない回線も多く、授業中にインターネットでコンテンツをダウンロードして提示するといった使い方は困難でした。

その後、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が策定した「e-Japan重点計画-2002」の下で、2005年までに約9割の公立小中高等学校で高速インターネットへの常時接続環境が構築されました。同時に、校内LANや無線環境の整備も進められ、現在では、ほぼストレスの無い形で、校内のコンピュータからインターネットを利用できるようになってきました。

コンピュータを活用した学習活動の始まり

ここまで、主に学校におけるコンピュータの利用環境整備について述べてきましたが、ここからは、それらが、どのように教育や学習に活かされてきたかを振り返ります。

コンピュータが学校に整備された当初は、先進的な取り組みを積極的に行ってきた一部の学校や先生方を除き、多くの学校では、明確な利用方法が確立しないまま、戸惑いを持って試行錯誤の授業が行われていたこともあったようです。

例えば、小学校ではコンピュータ教室でコンピュータの使い方(キーボードやマウスの操作)を教え、数少ないソフトウェア(描画や作文など)を児童に自由に使わせながら、とにかくコンピュータに触れさせるといった活動も目立ちました。ちなみに、1989年(平成元年)告示の学習指導要領では、総則において「視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図る」という記述がありますが、具体的なコンピュータの活用シーンについては、まだ、教員の創意工夫に委ねる部分が大きかったように思えます。

1998年(平成10年)告示の学習指導要領では、各教科や総合的な学習の時間においてコンピュータや情報通信ネットワークの積極的な活用が図られるようになりました。また中学校の技術・家庭科(技術分野)で情報に関する内容が必修になり、高等学校では普通教科「情報」が新設されるなど、情報教育の充実が図られました。こうして学習指導要領に、コンピュータを利用した教育が色濃く反映されたことで、授業や学習活動でのインターネット、コンピュータ、その他の情報機器の活用は、もはや当たり前のこととなりました。

先に述べたミレニアムプロジェクト「教育の情報化」では、コンピュータやインターネットなどの「新しい道具」を使うことによって、「各教科の授業」をすべての子ども達にとって「わかるもの」にすることを目的としました。つまり、子ども達の情報活用能力を育成するいわゆる「情報教育」だけでなく、教科指導においてわかりやすい授業を実現するためにICTを効果的に活用するという考え方が強調されたわけです。

2008年(平成20年)に告示された現行の学習指導要領では、「児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付ける」、「情報手段を適切に活用できるようにするための学習活動を充実する」といった情報教育の充実に加えて、例えば、国語におけるプレゼンテーションのソフトを使った発表、社会科におけるインターネットを使った情報収集、算数・数学におけるコンピュータを使った図表やグラフの利用、理科における映像資料の活用や実験結果のまとめなど、教科指導に踏み込んだICTの活用が図られています。

これらの指針を受け、学校教育におけるコンピュータの利用シーンは、コンピュータ教室から普通教室、コミュニティスペース、そして校外学習へと広がりを見せています。背景には、タブレット端末の出現や、校内無線ネットワーク環境の整備があります。次回からは、教育現場におけるタブレット端末の普及や、活用シーンの事例、効果等をご紹介します。 

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 井上信介

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