2022.08.27
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もっと知りたい"GIGAスクール"(第2回) GIGAスクール構想2年目 学校のICT活用のイマ。

第1回の記事では、約30年前からのICT環境整備のための政策を振り返り、現在の11台環境が整備されるまでの変遷について見てきました。今回は、ようやく整備されたこのICT環境をさらに活用していくために各自治体で工夫していることについてご紹介します。

各教育委員会の情報発信

まず、自治体等のICT環境の活用に関する情報発信・情報共有の取り組みにスポットを当てていきましょう。私たちが、各地の学校現場における実践について知ることができるのは、情報を集約し発信している方々がいるからです。

GIGAスクール構想関連施策に関するホームページを見ると、大きく3つの情報が掲載されています。

  1. 自治体としての方針
    まず1つ目は、自治体としてのICT環境の整備・活用に関する方針です。GIGAスクール構想によって進められたICT環境をこれからどのように各学校に浸透・定着させていくか、いかに活用して主体的・対話的で深い学びの実現につなげていくかという計画が示されています。
    例えば、神奈川県川崎市では「かわさきGIGA スクール構想 教職員向けハンドブック」の中で、市としてのICT活用をステップ0から3までの段階に分けて進めていくことが示されています。
  2. 学校の先生向けの資料
    2つ目は、学校の先生向けのICT活用方法の事例集や、家庭への配布資料の雛形などです。例えば、Microsoft Teams等の基本的な使い方の手順書、ICTツールを効果的に活用した授業実践例の紹介などがPDFファイルや研修動画にまとめられ、各都道府県・市町村のホームページで公開されています。この2年で、ICT活用について検索すると、各地のICT活用方法や事例、ヒントをまとめたガイドブック、ハンドブックなどがたくさん出てくるようになりました。
    1977年からICT活用に取り組んできたつくば市では、1人1台端末を活用した授業の実践事例や「PC持ち帰り学習の手引き」など、他地域の教育関係者が参考にすることも意識して、ホームページを作っています。学校の先生が実際にICT活用に取り組んだ際に直面する課題に応答する内容となっていると感じました。
    熊本県は学校種別実践事例集やテーマ別実践ガイドを公開しており、校内研修で使えるスライドデータ やワークシートを県内の教員がダウンロードできるようにしています。
    鳥取県の「とっとりICT活用ハンドブック 増補版」には、約100のICT 活用実践事例が掲載されています。GIGAスクール構想1年目の「カメラ機能」「共有機能」「アンケート機能」の3つを「使う」授業場面をつくるから、2年目の機能 を「活かす」授業場面をつくるへのレベルアップをサポートする内容です。
  3. 保護者や市民向けの資料
    最後は、保護者や外部の方に向けた取り組みの紹介です。例えば、保護者や学校外部の方を対象にしたリーフレット、PR動画などが挙げられます。各自治体等の施策が分かりやすくまとめられていたり、ICTを活用した授業風景等が映像で紹介されたりと、教育に直接かかわらない人でもICT活用状況について知ることができます。
    神戸市や東京都北区は「ギガ/GIGAスクール通信」を発行していました。神戸市は不具合に関する情報も掲載しており、家庭からも確認できるようにしています。
    埼玉県鴻巣市では、ICT活用基盤整備に積極的に取り組み、その活用の様相を、子供の視点・教員の視点のPR動画にまとめています。また熊本市も、学校へのタブレット導入により授業がどのように変わったのかについて、実際の授業風景の映像と共に紹介する動画を制作しています。
    この自治体で子育てしたいと保護者に思わせる要素の1つとして、ICT活用に力を入れていることや、先生方の労働環境が注目されるようになり、このような情報発信も以前より盛んになったのではないでしょうか。

どのようにICT環境を活用しているのか

ICT環境の「活用」はGIGAスクール構想2年目を過ごす今、とても関心の高いテーマであると考えられます。教育における「ICT活用」は、以前から「ICT整備」と同じかそれ以上の重要性を持つものとして認識されてきました。実際に各学校現場では、身近な先生・他校の先生の先行事例や市区町村の方針等の資料を参考にしながら、ICTを活用した授業実践が多く積み重ねられました。

この2年で、どの先生もICTを活用した授業をされるようになりました。現在からみると、当たり前のことばかりかもしれませんが、ここで文部科学省(2014)が「学びのイノベーション事業 実証研究報告書」の中で提示した、学校における ICT を活用した学習場面の分類や、活用のポイントを振り返ってみましょう。この事業は、文部科学省と総務省の連携の下、2011年から2013年にかけて行われた実証研究で、1人1台の情報端末、電子黒板、無線LAN等が整備された環境で、いかに子供たちが主体的に学習する「新たな学び」を創造しているのか、またその成果や課題について報告書にまとめています。

ICT 活用のポイント
  1. 一斉学習
    一斉学習では挿絵や写真等を拡大・縮小、画面への書き込み等を活用して分かりやすく説明することにより、子供たちの興味・関心を高めることが可能です。端末や電子黒板等を用いて、作業方法や実演等を映像・音声で提示することで子供たちの理解を深めることにつながります。
  2. 個別学習
    デジタル教材などの活用により、自らの疑問について深く調べることや、自分に合った進度で学習することが容易になります。例えば、習熟の程度や誤答傾向に応じたデジタルドリルを用いることにより、各自のペースで理解しながら学習を進めたり、発音・朗読、書写、運動、演奏などの活動の様子を記録・再生して自己評価に基づく練習を行うことにより、技能を習得したり向上させたりすることが可能です。
  3. 協働学習
    タブレットPCや電子黒板等を活用し、子供同士による意見交換、発表などを通じ、思考力、判断力、表現力などの育成を図ります。例えば、情報端末や電子黒板を用いて、子供たち自身の考えについて発表したり、話し合ったりすることで新たな表現・考えに関する気づきを得ることができます。

これを踏まえ、文部科学省「StuDX Style(スタディーエックス スタイル)GIGAスクール構想を浸透させ学びを豊かに変革していくカタチ」に掲載されている1人1台端末の活用シーンを見ていきましょう。コロナ禍でのつながりを意識して、下記の5つに分類されています。

  • GIGAに慣れる―導入にあたって/使ってみよう
  • 教師と子供がつながる
  • 子供同士がつながる
  • 学校と家庭がつながる
  • 職員同士でつながる

「個別学習」教材として、特に昨今、デジタルドリルの導入が増えています。「StuDX Style」にも「GIGAに慣れる―使ってみよう 1-⑲ デジタルドリル」として、教師がその時間における達成の目安となる標準的な問題を子供たちに配信すると、解答を自動採点するだけでなく、問題に正解すると発展的な問題、誤答が起きた場合はその内容に対する補充的な問題を出題したり、蓄積された正誤情報から、AIが子供たちのつまずきポイントを同定し、その解決に必要な問題や解説等を表示する機能を持つものもあると、紹介されています。

「協働学習」の事例としては、「子供同士がつながる 3-⑧ いろいろな意見を出し合って互いの考えを深めたり広めたりしよう」が掲載されています。デジタルホワイトボードソフトに児童自身の考えを入力、それを他の児童たちに説明させることで、発表者も聞いている側も自分の考えを深められるとを報告しています。なかなか自分の考えが前に進まない子供も、他者への説明や他者の考えに触れることで、そこから着想を得ることができたようだとあります。友達のノートをお互いに見たり、同じ画面を共同編集することも当たり前になりました。

  • デジタルホワイトボードソフトに自分の考えを入力

  • クラス全員と効率的に考えを共有

  • つまずいている児童生徒への手立て及び意見共有の効率化


その他、iPad、Chromebook、Windowsの提供元企業ページへのリンクも張られています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は、各教育委員会のGIGAスクール構想に関する情報発信や、ICT 活用の場面別のポイントを紹介しましました。今後、2024年度から英語、2025年度から算数・数学のデジタル教科書の導入が始まり、全国学力・学習状況調査も順次CBT化するという方針が示されています。学校での実践、それを支援する都道府県・市区町村の取り組みによって少しずつ学校の授業の風景は変わりつつあるようです。

急速に進められたICT環境整備で、1年目は誰もが手探りでしたが、2年目はどの学校も自教室での実践を通して、先行事例を発展させたよりよい授業が実現できているのだろうと感じました。今後も、ICTを活用して情報を共有し、学校・自治体が知恵を寄せ合っていくことで、よりよい授業実践が浸透していくことを願います。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 佐藤 智文

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