2020.11.25
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意外と知らない"学習マネジメントシステム"(第1回)

みなさんは、学習マネジメントシステム(英語での名称 Learning Management Systemを略したLMS、または上記を訳した学習管理システムとも呼ばれます)という言葉を聞いたことがありますか。大学の授業や就職先の研修、あるいはMOOC(大規模オープンオンラインコース)で、使ったことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。近年、特に2020年に入り、高等教育(大学・専門学校)のみならず、初等中等教育(小中学校、高等学校)においてもオンライン教育が広まり、その役割の必要性や、機能に期待されることが大きくなってきました。今後市場が拡大していくと見込まれています。今回はこの「学習マネジメントシステム」について紹介します。

学習マネジメントシステムとは

「学習マネジメントシステム」は文字通り、学習を管理するシステムで、教員だけが使う校務支援システムとも、子どもが使うデジタルドリルやデジタルノートとも異なり、学習の出入り口(ポータル)・ハブとなることが期待されるシステムです。オンライン授業・eラーニングだけでなく、対面の授業でも利用されます。

eラーニングの普及推進を目的として設立された日本eラーニングコンソシアムは、「学習マネジメントシステム」は一般的に次のような機能を備えているものとしています。ただし、「学習マネジメントシステム」と呼ばれているすべての製品がこれらの機能を備えているわけではありません。また、学習者の行動を把握する分析機能や、学習意欲を維持、向上させるための機能など、下記に示す以外の機能を備えているものもあります。

学習マネジメントシステム(LMS)が備える一般的な機能

・学習者の登録、変更、削除
・教材の登録、学習者への教材の割り当て
・学習者個人の学習履歴、学習進捗状況、成績の管理
・成績集計、統計分析機能
・情報共有用の掲示板の設置や、学習者に対するメール送信

「学習マネジメントシステム」のコンセプトはeラーニングとともに登場し、北米では、1990年代の後半に最初の製品が登場しました。初期の利用は大学などの高等教育が中心でしたが、今日では、企業内教育や初等中等教育向けの製品も登場し、多くの企業や学校で利用されています。2020年の調査によると、北米高等教育機関におけるLMS市場シェアはCanvas 31%、Moodle 24%、Blackboard 23%となっています。

日本では大学などの高等教育で主に利用され、「オープンソース 」といわれる無償で利用できる製品や、ソフトウェア開発業者(ベンダー)ごとに特色のある有償の製品も多くあります。「オープンソース」として世界的に著名な学習マネジメントシステムにMoodle(ムードル)があり、日本の大学でも採用されています。2010年の調査では、LMSを利用している学部研究科が40.2%あり、そのうち43.0%がMoodleを利用していました。

※オープンソース・・・プログラムのソースコード(プログラム言語で記述された文字列)を商用、非商用の目的を問わず利用、修正、頒布することを許し、それを利用する個人や団体の努力や利益を遮ることがないソフトウェア開発の手法。

学習マネジメントシステムに期待される役割

学習マネジメントシステムには、主に以下のような役割が期待されます。

1.学習コースやカリキュラムの管理

学習マネジメントシステムには、企業や学校での学習コースやカリキュラムを管理する役割が期待されます。指導者(教員)は学習コースやカリキュラムを設け、教員自身が作成したり、他から入手したりした教材や映像、ワークシート、評価に用いるテストやアンケートなどを学習コースに割り当てます。

学習者は自身で登録したり、指導者から割り当てられたりして学習コースに参加し、コース内に登録されている教材を用いて学習します。学習成果物であるワークシートや、コース内に用意されたテストやアンケートも、学習マネジメントシステムを通して提出し、システムに記録されます。

2.利用者の管理

上記を実現するため、学習マネジメントシステムは個人アカウントを登録、管理する役割を担います。利用者が学習マネジメントシステムにログインすると、指導者、学習者など、登録された役割に応じた機能を利用できます。

3.オンラインによる評価と学生の出席の管理

多くの学習マネジメントシステムでは、学習コースへの出席の管理や、テスト、アンケートなどの学習成果物に、指導者や、あるいは学習者自身が、点数やコメントなどの評価をつけ、結果を記録する役割を担います。またこの先、学習マネジメントシステムには、学習者の学習の様子を記録した学習履歴(スタディ・ログ)を蓄積し、その分析から得られる知見を指導者や学習者へ提示する役割も期待されます。これらにより、指導者は担当する学生・生徒・児童の、学習者は自身の学習成果とその評価を遡って確認し、学習を振り返れるようになります。

4.利用者へのフィードバック

学習マネジメントシステムでは、自身の学習成果に対して、指導者や周りの学習者からのフィードバック(評価やコメント)を得られるようになっているものがあります。学習者内でグループを作成し、ディスカッションや意見交換を行うことで、学びを深めることができようになっています。

「学び」の起点としての学習マネジメントシステム

このように、学習マネジメントシステムは、企業や学校などでの「学び」の入り口(学習内容や教材へのアクセス)と出口(ワークシート、テスト、アンケートなどの学習成果物の提出・記録)を担うシステムであることが分かります。こうした機能を利用することによって、指導者や学習者は、担当する学生・生徒・児童や自身の学習を、マネジメントすることができます。クラウドサービスとして提供されている学習マネジメントシステムであれば、インターネットに接続できる端末と環境を整えることによって、自宅など学校の外からでも海外からでも利用できるようになります。

このような学習マネジメントシステムは、いわゆるGIGAスクール構想や、新型コロナウイルス感染症拡大を受けた「学びの保障」プログラムによって、どちらかといえばこれまであまり導入・普及が進んでいなかった国内の小中学校においても、その関心がにわかに高まってきました。例えば、文部科学省が進めているオンライン学習システム(CBT)の全国展開、先端技術・教育データの利活用推進事業のシステムのイメージでは、学習活動の中心に学習マネジメントシステムが置かれています。

学習マネジメントシステムは、将来はオンライン学習システム(CBTシステム)、学籍管理システムと連携して動作する一方、各社が出しているデジタル教科書や学習教材などのコンテンツを扱えるようにする必要があります。次回は、他のシステムと連携するための仕組みについて紹介します。

構成・文・イラスト:内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメントディビジョン プロダクト企画部 / 日本IMS協会 事務局長 藤原 茂雄

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