意外と知らない"教育とAI"(第2回) ラーニングアナリティクス(教育ビッグデータの蓄積と分析)
第2回は、AI(人工知能)が教育の分野に活用されている例として、教育ビッグデータを分析し、子どもの学習方法や先生の指導改善に役立てようとするラーニングアナリティクスについて紹介します。
教育分野にAI技術が用いられる要因
ラーニングアナリティクス(LA)とは
LAを行うためのデータ収集
(1)学習管理システム(LMS:Learning Management System)
(2)eポートフォリオ管理システム
(3)デジタル教材配信システム
分析対象となる教育データ
ラーニングアナリティクスで扱うデータには、上記のシステムから取得されるデータのほかにも様々な種類が存在します。
大学で取得できる教育データを例に整理すると、シラバスや成績などの教務データ、授業で使用する教科書や教材に関するデータ、教員や学生の年齢、性別などの個人データがあります。レポートやアンケートなどの学生が書いた文字情報である記述データやシステムの利用履歴を記録したログデータも対象とします。
また最近では、多様なデータを利用した「マルチモーダル学習履歴分析(Multimodal Learning Analytics:MMLA)」と呼ばれる研究も注目されています。脈拍、血圧、発汗など生体センサから取得した生体情報や、教室の気温や湿度、講義の映像や音声などの学習環境に関するデータといった人間の挙動なども対象とすることでより細かな分析を行う研究が進められています。
分類名 | 例 |
---|---|
(1)教務データ | シラバス、成績など |
(2)教材データ | テキスト、デジタル教科書など |
(3)個人データ | 教員、学生の年齢、性別、学歴など |
(4)記述データ | レポート、アンケート、SNSなどの文字情報 |
(5)ログデータ | 出欠、ログイン履歴など |
(6)生体データ | 脈拍、血圧、発汗、脳波、視線など、 |
(7)環境データ | 講義の映像や音声、教室の気温、湿度など |
これらの教育データに対して様々な分析手法が適用されます。AI技術が応用されているものを挙げると、記述データがキーボードによる入力であれば機械学習による文脈判断、記述データが手書き文字の場合には機械学習による画像認識技術などでAIが分析できる形式にします。画像認識技術は顔を認識して出欠をとったり、姿勢から授業への集中度を推測するのにも用いられています。また音声データであれば機械学習による音声認識の技術を用いて分析を行います。スマホの音声入力にも用いられている技術です。データの種類も多様ですが、分析手法もそれぞれのデータに応じた様々な技術が開発されています。
教育ビッグデータを活用する意義
・子どもたちにとってのメリット
・教員にとってのメリット
・保護者にとってのメリット
このようなデータに保護者もいつでもアクセスできるようになれば、自分の子どもの学校での学習状況を逐一把握することが可能になり、例えばつまずいている箇所について親から声掛けするなど、子どもへのコミュニケーションを増やすことができるでしょう。
そのほか、教育機関などの組織にとっては、カリキュラムや教育方針の改善に役立てることが可能になりますし、また、国や地域にとっては、教育ビッグデータの収集・分析によりエビデンスに基づく政策立案(EBPM:Evidence Based Policy Making)の促進が期待されています。
AI技術を活用した分析への課題
AI技術の実用化が進み、多くのサービスで活用されていますが、AIが「ブラックボックス」と言われている問題がクローズアップされています。これは、AI技術の中でも深層学習(ディープラーニング)を使ったAIがどのような仕組みで判断をしたのかが、開発者から見ても良くわからないという問題です。機械学習による技術の中でも特に人間の脳を模倣したディープラーニングの技術は、通常のコンピュータープログラムと比較すると、その中身が見えにくいという特徴があります。AIが下した結果に対して、人間がその判断の根拠となる論理までを読み取ることができません。
このような状況ですとAIの活用に懐疑的な人は少なくないでしょう。AI技術が真に信頼のおける存在となるためには、判断の根拠を示し十分に納得できる説明が必要です。現在この問題に関しては、AIの判断の過程が見えるようにする「ホワイトボックス」化の技術開発が進められています。
内田洋行教育総合研究所は、この研究への取り組みの一環として、国立大学法人京都大学(京都大学学術情報メディアセンター 緒方広明教授)と共同して、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募する「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」プロジェクトに応募し、「説明できるAIの基盤技術開発」に関する事業に採択されました。本研究開発を通して、説明できるAI技術の実現を目指しています。
まとめ
今回は、教育分野においてAIが活用される例としてラーニングアナリティクスについて取り上げました。
ラーニングアナリティクスとは、「学習ログ」のような教育ビッグデータを対象とするAI技術を応用した分析手法のことで、学習者に個別最適化された学びの方法を支援することが可能になることや、教員の指導改善に活用できることがわかりました。この分野の研究の歴史はまだ日が浅く、今後研究が進むにつれて、よりきめ細かい指導が行えるように進化することが期待されます。
また、AI技術にはブラックボックスという問題があるが、現在この問題に対してホワイトボックス化への取り組みも進められていることを紹介しました。
次回も、引き続きAI(人工知能)技術が教育の分野に活用されている例を紹介します。
参考文献
構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 河村征宏
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