「主体的・対話的で深い学び」を実現するための教師の手立てとICT活用(vol.3) 東北大学大学院情報科学研究科×内田洋行教育総合研究所 共同研究
第3回では、東北大学大学院情報科学研究科(担当:堀田龍也教授)との共同研究「新学習指導要領で育成を目指す資質・能力の具体化と指導方法等に関する研究」において、「主体的・対話的で深い学び」に結びつく教師の手立てをどのように抽出し整理したかを紹介します。
授業改善の視点と教師の手立て
私たちは「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善をおこなうことは、新しい指導方法を取り入れることではなく、これまでに先生方が培ってきた「教師の手立て」を生かすことにヒントがあると考えました。
審議まとめ、中教審答申、新学習指導要領が発表される経緯の中で、先んじて、主体的・対話的で深い学びを指向した授業事例として、次世代型教育推進センターの授業実践事例(独立行政法人教職員支援機構2017)があります。調査時には、小学校1年から6年までの55事例が掲載されていました。授業改善をおこなう主体は、教師であることから、「主体的・対話的で深い学び」に結びついたと考えられる教師の手立てを上記の事例から抽出しました。
例えば「学びの足跡を国語コーナーに掲示しておき、児童が主体的に前時までの学びを振り返ることができるようにします。」という記述からは、「これまでに学んだ内容を提示する」という教師の手立てを抽出しました。
このようにして、授業実践事例55事例から、98の教師の手立てを抽出し、実践事例の文脈を基に、第2回で紹介した13の授業改善の視点に分類しました。
例えば授業改善の視点「1 学ぶことに興味関心を持つ」における教師の手立ては、「学ぶ内容に関連する事柄を提示する」「学ぶ内容について疑問点を書かせる」など8項目となりました。同様に「11 情報を精査して考えを形成する」における教師の手立ては,7項目となりました。ページ下部から全項目をダウンロードできますので、是非ご活用ください。
限られた授業実践事例からの抽出ですので、授業改善の視点「7 教職員や地域の人との対話を手掛かりに考える」「8 先哲の考えを手掛かりに考える」「13 思いや考えを基に創造する」「2 自己のキャリア形成の方向性と関連付ける」への教師の手立ての分類は限定されたものとなりました。もちろん、教師の手立てのすべてを網羅することは難しいため、特に重要だと考えられるもの、分かりやすいものを選んで、リーフレットに掲載しています。
教師の手立てとICT活用
リーフレットにも記載していますが、教師がICT活用によって、分かりやすく教え、効率的に知識・技能を習得させる授業を進めることで子供の学習時間を確保することができます。一方で、新学習指導要領の下では、ICTを適切に活用した学習活動によって、児童生徒の情報活用能力を育み、その情報活用能力を発揮させて、主体的・対話的で深い学びを実現していきます。
このあたりは、堀田先生のインタビュー記事に詳しく書かれていますので、ご覧ください。(ページ下部からダウンロードできます。)
さて、本共同研究では、教師の手立てに対して、その教師の手立てを効果的・効率的におこなうためのICT活用例を対応付けました。対応づけるICT活用例は、「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議 最終まとめ」の別紙で示された、10種類の「教育用コンピュータでできること」を用いました。
図表3 「教育用コンピュータでできること」(文部科学省2017)
- 個別のドリル学習
- 試行錯誤する
- 写真撮影する
- 念入りに見る
- 録音・録画と再視聴
- 調べる
- 分析する
- 考える
- 見せる
- 共有・協働する
また、ICT活用を対応付けるにあたり、教師がICTを活用するのか、児童がICTを活用するのかという、活用の主体についても区別をつけることにしました。図表1に示した例に「学ぶ内容について疑問点を書かせる」という教師の手立てがあります。これは、児童にとっては、「学ぶ内容について疑問点を書く」という学習活動です。どちらにとって、どのようなICT活用が効果的か、効率的かという視点で対応付けをおこないました。
例えば、先ほど、提示した【「1学ぶことに興味関心を持つ」における教師の手立て】に対しての「教育用コンピュータでできること」の紐づけは、以下のようになります。
図表5は、授業改善の視点ごとに「教育用コンピュータでできること」の数をカウントしたものです。
課題把握の段階での教師によるICT活用、課題追究、課題解決の段階での児童によるICT活用が多くみられました。また、課題把握の段階では「(9)見せる」「(4)念入りに見る」というICT活用、課題追究の段階では「(8)考える」というICT活用、課題解決の段階では、「(8)考える」「(9)見せる」というICT活用が多くみられました。
これらの結果を踏まえ、リーフレットには、象徴的なICT活用のみピックアップし、教師の手立てとICT活用を文字通り点線で結んで紐づけ、どう役立つのかを示す言葉を添えています(図表6)。
「主体的・対話的で深い学びって、具体的にどうすればよいの?」
この問いに対し、私たちは、先生方がこれまで行ってきた教師の手立てを授業改善の視点に結びつけました。教師の手立てと授業改善の視点を結びつけることによって、主体的・対話的で深い学びが特定の指導方法や新しい指導方法というわけではなく、今まで指導の創意工夫に取り組んでこられた先生方にとっては、その延長に主体的・対話的で深い学びがあると考えていただけるのではないかと想像しています。
また、教師の手立てとICT活用をつなぐことで、ICT活用に躊躇されている先生にとっては、今まで行ってきた教師の手立てに対して、こんなICT活用があるのかと知っていただき、逆に、ICT活用に詳しい先生にとっては、そのICT活用が従来の教師の手立てのどこに効くのか、授業改善の視点のどこに効くのか、さらに言えば学習過程のどこで使えるのか、という視点で授業を設計していただけるのではないかと考えています。
中教審答申のP49に以下のような一節があります。
これまでも、そしてこれからも、授業の工夫・改善を重ねていこうとしている先生方に、本研究の成果が参考となれば幸いです。
参考資料
構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 中尾教子
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