2006.06.27
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授業でのICT活用実践報告~筑波大学附属小学校

国のe-Japan構想を受けて推進されてきた「教育の情報化プロジェクト」。2005年度に目標を達成するというタイムリミットは過ぎてしまったが、教育の情報化が推進されていくことに変わりはない。学校現場では、とにかくPC操作をマスターしよう、PCやプロジェクタを使ってみよう、という段階は過ぎ、氾濫する情報機器やデジタルコンテンツの中から使いやすいものを探し出し、自分なりの授業を組み立てている先生方も続々登場してきている。

  今回紹介するのは、筑波大学附属小学校で理科を担当する佐々木昭弘先生。電子情報ボード(e-黒板)、デジタルビデオクリップ(ビデオ素材集)を活用し、小学校5年生の理科「人間や動物の誕生」の授業を行った。

授業の流れは以下のようなもの。

1) メトロノームを使い、3種類の速さ(120回/1分、66回/1分、40回/1分)の音を聴かせ、一番心地よい速さはどれかを挙手で聞く。なぜその速さが心地よいかを聞き、母親の胎内で聞く心臓の鼓動の早さと同じだから、という仮説を導いたところで、超音波の体内の映像(デジタルビデオクリップ)を見せる。映像の母親の心音の速さを聞いて、66回/1分とだいたい同じ速さであることを確認。
2) 次に人間の赤ちゃんの誕生のシーンを見せる。新生児の靴下を見せ、赤ちゃんの身長と体重を予想させた後、自分たちが生まれたときの身長、体重はどのくらいだったか、母子手帳で確認。

3) 前回の授業で観察した、めだかの卵と人間のたまごはどう違うか、めだかと人間の受精卵の画像を並べて見せる。10日目までの変化を見せ、その後人間の受精卵はどのように変わっていくかを各自で調べるという宿題を出し、終了

今回使用された「デジタルビデオクリップ」は、授業に使える動画が3000点以上収録される素材集。数秒から1、2分程度の短い動画が多く、授業中に無理なく見せることができる。また、e-黒板と併用することで、ビデオ操作が黒板上ででき、授業の流れをさまたげない。

写真や動画が子どもたちに与えるインパクトはかなりのもの。どの子も興味津々で動画に見入っていた。

 

学校でのICT活用

佐々木先生は、日頃から情報機器を活用した授業を展開しているが、学校でのICT(Information and Communication Technology)活用についてお聞きした。

「PC、プロジェクタ、スクリーンを使った授業は10年くらい前からやっていましたが、毎回スクリーンを出すのが面倒だし、そもそもスクリーンがない教室もあります。黒板自体がマルチディスプレイのようになっていて、教材の提示、画面への書き込み、板書といった作業がシームレスにできればいいのに、とずっと思っていました。いろいろ試験的に使ってみて、今回使ったe-黒板は、PC画面の提示と書き込み、板書がすべて黒板上ででき、現時点では一番使いやすいと思っています。黒板上で、インターネットも、動画も見せることができ、書き込みや拡大も簡単にできることに驚きました。

授業はテンポが大事です。板書しながら児童の反応を見たり、発問をしたり、という動作をテンポよく繰り返して授業を盛り上げていくのですが、PCの操作やVTRの操作のために授業を中断してしまうと、テンポも、児童のテンションも落ちます。e-黒板では、すべての作業が黒板上で完結し、授業の流れを妨げることがないのです。

デジタルビデオクリップも、今回初めて使ってみたのですが、短い素材がたくさんあるのが気に入っています。子どもたちの興味関心を高めるために常に教材を探していますが、準備に手間がかかるものでは困ります。その点デジタルビデオクリップはたくさんの素材の中から必要なものを単元ごとに検索でき便利です。授業にあわせていろいろ使ってみたいと思っています。

今後は、子どもたちがプレゼンテーションをする時にもいろいろなツールを使わせてみると面白いのではと思っています。そのためにも操作が簡単で、マニュアルを見なくても感覚的に使えるものがいいですね」 。

学校でのICT活用を推進するためには、使用する機器やコンテンツが、授業のテンポをくずさないものであること、準備に手間がかからないこと、そして、操作が簡単であることが必須条件のようである。

今後、授業環境はどのように進化していくのだろうか。

「より理想のICT環境としては、生徒用PCと教師用PCがあって、教師用PCから簡単に児童の画面が見られたり分析できたりする、あるいは児童同士の画面を比べて見せられるようなものがあれば面白いと思います」。

e-Learningの世界では、そのような環境も整いつつある。いずれにしても、こうした教育環境の進化が、子どもたちの興味関心をひき、よりわかりやすい授業を目的としたものでなければならないことは言うまでもない。企業の利益にのみ寄与する教育の情報化であってはならないのである。

そのためにも、佐々木先生のように、企業の動きに目を光らせ、本当に使える機器やコンテンツの発掘・研究努力を惜しまない先達となる先生方の存在は貴重。こうした先生方の情熱があればこそ、教育環境は進化していく。


(取材・文:学びの場.com 高篠栄子)

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