2004.12.21
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『ITを活用した教育推進校』中間報告会/東京都立府中西高等学校

2003年~05年までの3年間、東京都教育委員会から『ITを活用した教育推進校』の指定を受け、昨年9月には校内無線LANを整備。160台の生徒用ノートパソコンに今年さらにもう160台を追加し計320台を駆使して、日々の教育活動でのITの有効な活用について研究および授業実践を行っている東京都立府中西高等学校。さる11月26日に、同校で行われた『ITを活用した教育推進校』中間報告会と公開授業の様子をリポートしたい。






府中西高校の林和男校長

 JR国立駅からバスで15分、数々の大学を有し学園都市として知られる国立市と、緑豊かな府中市の間に位置するのが東京都立府中西高等学校だ。創立30周年を迎えるこの普通科高校は、1年生から3年生まで各学年8クラスの編成で、全校生徒は男女あわせ961名。運動・文化部ともに部活動が盛んで、なかには関東大会や全国大会レベルの成績を残す部もある。そんな活気溢れる府中西高等学校のもうひとつの特徴が『ITを活用した教育推進校』であること。

 この日の公開授業は、保護者をはじめ他校教員や報道関係者を対象に午後の5限目と6限目を利用して行われたが、そのうちITを活用した授業は、1年生の「数学A」「情報A」「現代文」「START(総合的な学習の時間)」、2年生の「美術」「WR(英語/ライティング)」「家庭総合」「日本史」、3年生の「英語R(リーディング)」の9科目。なかから特に印象的だった3科目について紹介していこう。

 


数学を担当した阿久津和浩教諭


クリックひとつで三角形が

■ コンパスや定規はもういらない!?

 まず、1年生の「数学A」が行われている大会議室へと向かう。数学を担当するのは、阿久津和浩教諭で、部屋に入ると、大きなテーブルに向かい合う形で生徒たちが座り、前には一人一台のノート型パソコンが置かれている。現在、平面図形「円と直線」の単元を学んでいる1年生。そこで、コンパスや定規の代わりに、図形作図ツール「GC/Win」(「Geometric Constructor/Win」*Web上のフリーソフトで、愛知教育大学・飯島康之先生が作成)を用いて問題に与えられた図を作図し、「円と直線」の問題を解くのが、この日の授業の目的である。最初に阿久津教諭がスマートボートを使って手順を指導すると、生徒たちはそれに従い各々のパソコンに向かっていく。途中、図形を描く手順で迷うものはあっても、ノート型パソコンの扱いにはみな慣れた様子で大きなトラブルなく授業が進行していく。画面上に、A・B・Cと打った点が、クリックひとつで三角形になり、次に作図から『円』を選ぶと、コンパスを使わなくとも瞬時に内接円が描ける。このアニメーション的展開に、生徒たちからは嬌声が上がり、図形への手応えを得たようだった。

 




情報科の佐藤義弘教諭








「へぇ~」の音を作る

■ 「へぇ~」をデジタル音声に!

 図形を描いたり、グラフィックを作成するといったパソコンのビジュアルなメリットを効果的に利用した「数学A」の次は、サウンドレコーダーを使用して音声を編集する「情報A」の授業である。情報Aは昨年度から1年生全員の履修科目となっているが、この日の授業は情報科の佐藤義弘教諭の指導のもと、デスクトップ・パソコンを完備したパソコン室で行われた。単元は「情報のディジタル化―音声のディジタル化」。佐藤教諭の授業では、最初にその日の授業内容メールを受信し、内容を読んで返信することからスタートする。授業内容メールには、その日の実習の手順が詳細に書かれており、生徒たちはその指示に従って操作を進めていくのである。この日の授業ポイントは4つ。(1)素材を個人フォルダにコピーする、(2)サウンドレコーダーを起動する、(3)課題1:「あいうえお」の音から編集して「いえ」を作る、(4)課題2:「へ」と「え」の音を編集して「へぇ~」を作る。そして授業の最後に、自己評価・授業評価メールを、生徒各々が佐藤教諭あてに返信するという流れだ。ディジタル化された音声素材を編集することで、ディジタル化された情報は編集やコピーが容易であるということを理解し、また編集作業の過程で音声が波形として記録されていることにも注目する。サウンドレコーダーは通常パソコンに組み込まれている機能だが、これが編集となるとなかなかに難しい。特に生徒たちが頭を悩ませたのが、課題2の「へぇ~」。人気TV番組「トリビアの泉」で流行語にもなった「へぇ~」だが、その耳の記憶に反して、なめらかな音声にならない。パソコン室には「へ・え・え・え」「へへ・え・え」など個性的な「へぇ~」が次々と響き渡り、思わず和やかムードに包まれる。「悔しいからもう1回やってみる!」と闘志に燃える生徒たちの一方で、「自分、不器用だから……」という弱音もチラホラ。「キミが器用か、不器用かは関係ないよ。パソコンが器用だから大丈夫(笑)!」すかさずフォローする佐藤教諭。巧みな弁舌とリズミカルな授業は、パソコンという機械を使う授業の性質上、実は非常に重要なのだということに気づく。なぜなら、教科書とノートを開いて・閉じるというこれまでの学校の授業と異なり、クラス40人がパソコンを起動する・シャットダウンする、ましてやノート型パソコンを全員に配る・回収して管理箱に収納するとなると、その作業だけで授業時間が大幅に削られてしまうこともあるからだ。限られた時間のなかで、その日の単元を確実にこなすには、生徒たちの作業テンポを上手にリードする教師の言葉がとても大切なのである。

 

 




現代文の大場教諭



 


即座に答えや順位が表示される



各設問の正解率や成績一覧が瞬時にデータ化される










IT推進統括リーダーの山下一朗教諭

■対義語・類義語もクイズならラクラク覚える!

 再び大会議室に戻り、1年生の「現代文」の授業へ。指導するのは大場煕教諭で、「数学A」と同じく全員の手元にはノート型パソコンが配られている。現代文という科目の特質上、ITを活用するのに非常に頭を悩ませたという大場教諭。結果、「TAKAQ」というクイズのためのフリーソフトを使い、「対義語・類義語・読みがな・誤字訂正」を反復して行えるクイズ形式の演習問題を編み出した。各々に<勝ち抜き戦モード>と<20問モード>があり、それが5級~2級まで、相当数の問題が用意されている。コンテンツ作成時の苦労が偲ばれるが、生徒たちはクイズ気分ゆえか、非常に嬉々として楽しそうである。彼らはパソコンを起動させると、府中西高等学校のHPから、「大場先生→漢字小テスト」をクリックし、「対義語・類義語・読みがな・誤字訂正」から好きなものをセレクトしてスタートしていく。ちなみに、隣りの友人と同じ項目をセレクトしても、違う問題が出る仕組みになっており一緒に問題を解くのは不可能。そして問題がスタートする。例えば、対義語。「次の熟語の対義語を記せ/停滞 □(解答欄)」とあり、生徒は□の解答欄に答えを入力する。そして送信ボタンを押すと、即座に「正解!」「不正解!」の文字が画面にあらわれ、その後に次の問題が続いていくのである。同時に、教師の手元では、各設問の正解率や、問題を解くのにかかった時間、成績一覧などが瞬時にデータ化され表示される。これもITならではのメリットだ。

 ところが、次の瞬間、「先生、画面が止まったままになった!」とあちらこちらから声が! 一人の生徒の画面を覗いてみると、「現在100人がプレイしています……」という表示とともにエラーになってしまっている。実際に授業に参加しているのは40名。原因は定かではないが、ひとつの設問なりコーナーなりに同時にアクセスが殺到した影響で起こったエラーのようである。しばらくするとなんとか復旧したが、これがもし公開授業ではなく、入試のような場で起こったとしたら一大事である。また授業終了の直前には「先生、パソコンのバッテリーが切れます!」という声も。通常2時間連続使用が可能なバッテリーだが、ときにアクシデントも起こる。ITのメリットと同時に、ITの脆さも目の当たりにした公開授業であった。


 昨年からIT活用推進校としての活動をスタートした府中西高等学校ではあるが、校内無線LANの工事などで本格始動したのは昨年9月のことだという。そのIT推進統括リーダー・山下一郎教諭によると、「生徒への授業効果や結果はまだ見えず、各教科ともに、日々、教師たちがその活用方法を試行錯誤している段階」というが、中間報告とはいえ各教科の特徴とITのメリットをともに活かしながらの授業実践には十分価値があると思った。府中西高等学校の挑戦はいま折り返し地点。もちろん課題も多い。しかし、研究の先達としてフリーソフト探しに奔走し、プライベートの時間までをも素材作りにかける推進校の教諭たちにあらためてエールを送りたいと思うのだ。


(取材・構成/寺田 薫)


■東京都立府中西高等学校のHP
http://www.fuchunishi-h.metro.tokyo.jp/

 


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