2004.12.14
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いのちの教育の実践ワークショップ/子どもといのちの教育研究会 実践研究成果発表会リポート

今回は、東海大学で行われた「子どもといのちの教育研究会」のワークショップを小股千佐さんがレポートします。



















 















 


東海大学の股村美里さん














市川市立妙典中学校の
捧陽子先生















研究会会長の近藤卓先生

 

 中学、高校の教師や養護学校の先生、児童相談所職員などからさまざまな大学の学生までが参加した今回のワークショップは「いのちの教育 理論と実践」の第2回目にあたる。「いのちの教育の実践~学校での事例~」と題し、11月27日土曜日の14時から16時まで開催された。

 まずは、2000年の10月7日にNHKで放送された、『教育トゥデイ#23 シリーズいのちを学ぶ1」が上映された。

 長野県、伊那小学校では動物の飼育を通して、いのちとのかかわりを考える取り組みが行なわれている。1~3年までクラス替えはなく、夏組では1年生のときからポニーの「サクラ」を飼っていた。2年の夏には牧場で種付けをしてもらい、クラスのみんながサクラの出産を心待ちにしている。しかし、サクラにはなかなか出産の兆候があらわれない。出産への期待と失望がクラスを覆う中で、子どもたちはサクラのおなかには赤ちゃんがいるのだろうかと話合う。担任は「先生も、サクラのおなかには赤ちゃんがいないんじゃないかと思うんだ」と意見を言ったあと、自分が生まれたときのことを親にインタビューしてくるよう宿題を出す。子どもたちが生命の誕生はままならぬことを知り、考えている時点でのこの宿題は絶妙のタイミングだ。どんな思いで親が出産にのぞんだのか、生まれたときどんなに嬉しかったか、出産のときの話を聞きながら、子どもは「自分が望まれて生まれてきた」ことを知る。授業を通して、いのちが生まれることの神秘性と難しさを学んだ実践例であり、また、自分が歓迎されて生まれてきたことを知ることで、自己肯定感を持つことができ、ひいては他人をも受け入れていくことができるようになると、番組の解説の中で近藤先生は言う。そして、この自己肯定感=自尊感情はとても重要なものであると。

 続いて上映されたのは、東海大学文学部心理・社会学科の学生の実践をビデオにした『命をつなぐ~高校生の輪の中へ』。高校生と大学生が「いじめ」について話し合い、共有<シェアリング>する活動を行っている。大学生が高校生のピア<仲間>としてサポート<支援>をおこなう。大学生はシェアリングを円滑に行うためのファシリテート<容易にする、促進するの意>のトレーニングをしたうえで、実践にいどむ。実際の作業としては、5、6名の高校生のグループに対し、大学生がひとりついて、話を引き出しやすいようにリードしながら「いじめ」体験や「いじめ」に関する意見を出してもらうというもの。生徒にとっては、いわゆる上下でなくナナメの関係である大学生に話が聞いてもらえること、まじめなことをまじめに語る機会を得られることが利点であり、大学生にとっては、ファシリテートのスキルを獲得すること、誰かの力になれたという効力感を得られること、いじめを客観的に捉えなおすことができるといった利点があげられる。

 ビデオ上映後、心理・社会学科4年生の学生股村美里さんより、昨日行われたばかりという中学校でのピアサポートの実践報告が行われた。これまでの実践ではグループシェアリング形式で、大学生がゲストティーチャーというものだったが、今回は担任の先生がゲストティーチャーとなったという。担任の先生をゲストティーチャーとしたのは、時間が限られているため生徒との関わりが浅いものがやるよりも、関係性がある程度できており、その後も関わり続けられる担任がやったほうがいいという配慮と、教師の生徒への自己開示は稀なため、生徒にとって新鮮だろうという考えからである。授業の進行役は大学生がつとめた。まずはゲストティチャー(この場合担任教師)がみなの前で話をし、ゲストティーチャーが退室したあとにグループワークとなり、シェアをする。その後、ゲストティーチャーを交えたクラスシェアを行うといったやり方がとられたという。担任の教師からは、子どもが生まれつき病気をもって生まれ、大変だったということがシェアされたそうで、先生が自己開示することで、子どもたちとの生のふれあいも見られたようだ。

 発表が終わり、質問・意見タイムとなった。

 昨日の中学での実践の受け入れ側だったという、市川市の妙典中学校の捧陽子先生より、報告。表立って反対はされないのだけれど、まじめでガードの固い教師たちに自己開示をさせることがひとつの壁だったという。だが、子どもたちにとっては「先生が何を話してくれるのだろう」という意外性があり、子どもたちにとって貴重な体験になったと話してくれた。また、大学生側として参加した学生は、共有体験をすることを最大の目的として参加したが、目的が達せられたかは疑問だと述べた。しかし、途中でトイレに立ってしまった子が、ワークシートではいい意見を書いていたりといったこともあったそうで、次回8日に行うときには「本当によかったと思えるようにやりたい」と話した。

「学校外から来る人は今日だけだから、逆に話しやすいのではないか。学校の担任となると普段からの関係性が重要となってくると思うが、そのへんはどうしているのか? また、子どもたちがその体験をクラス外でシェアするときの受け皿はあるのか?」という質問が出た。

それに対し、「保護者にはプリントを配布し、通知するとともに、オープンスクールとして保護者にも自由に参加してもらえるようにしていた」「担任の先生とは事前に打ち合わせなどがなく、話をするタイトルしか聞いていなかったので、不安はあった」という回答があった。

「中学生だと内申書にひびきそうなので、なかなか自由な意見というのは出しづらいのではないか?」「コメントシートの内容を先生に見せないという姿勢を見せることも必要なのでは?」「先生に対してというよりも、イジメられている子がイジメてる子のいるところで本音は出せないのではないか?」「気軽に話し合えるグループ構成にすればよいのでは」といった疑問や意見が出た。内申書については、先の中学教師より、「内申書は採点の基準が明確ですから、さほど気にしなくていいと思います」との説明があった。また、大学側、中学側どちらからの働きかけで実施したのかという質問に対し、高校でやったという話を聞いた中学側から「やってもらえないか」と働きかけたという。

 最後に同研究会会長で東海大学文学部社会・心理学科教授の近藤卓先生より、「課題はありつつもチャンスがあればやっていこうと進めてきた。少しずつ改善しながらプログラムを作っている。中学、高校から、実施してほしいというリクエストも来ている。今は黎明期であり、これからだと思っている」との言葉があり、今回のワークショップを終えた。
 

  (取材・構成:小股千佐)


◆ワークショップの模様はこちら
ポジティブに取り組む「いのちの教育」

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