地域の商店会と学校との連携 吉祥女子高等学校の「商店CIプロジェクト」
吉祥女子高等学校美術コースで、地元の商店をクライアントに、「CI」制作をするというプロジェクトを実施している。学校と地域との連携はもちろん、今話題になっている職業教育の一例としても面白い試みだ。 (2004/07/15取材)
厚生労働省によるとその数400万人にもおよぶというフリーター。学校にも行かず、職業にも就かないNEET(Not in Education, Employment, or Training)の増加も問題になっている。これらの背景を受け、早い時期からの職業教育の重要性が叫ばれている。職業教育というと、工場見学や企業での職業体験が思いつくが、通常の授業の中で、いかに現実社会を体験させるかが重要、との考えのもと、吉祥女子高等学校美術コースでは、地元の2つの商店会「女子大通り商和会」「広小路親栄会」を巻き込んでの「商店CIプロジェクト」を実施している。
このプロジェクトの最大の目玉は、地域商店会の店主たちが実際にクライアントとなり、生徒たちはクライアントの要望に沿った企画を練り、プレゼンテーションを経て、クライアントが気に入れば採用される、という、現実の社会でも起こるであろう一連の仕事のプロセスを、実際に体験できること。 この授業を企画した、徳山高志先生と前田幸治先生は、地域で活躍するNPO「西荻まちメディア」の仲介も得て、結果的に、「女子大通り商和会」「広小路親栄会」の2つの商店会から、「田中屋」(蕎麦屋)、「天徳湯」(銭湯)、「みなみどう」(文具と煙草店)、「La Cave」(酒店)、「十和田」(理髪店)の5つの店舗が協力してくれることになった。
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◆ プレゼンテーションまでのプロセス
第1ステップは、「フィールドワーク」。実際にお店に赴いて、開店時のエピソード、お店の理念、提供している商品やサービス、客層、などをヒアリングする。そして、「認知度を高めたい」、「売上を上げたい」などお店からのミッションを持ちかえる。
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地域商店会のかたたち、プロのデザイナーたちがプレゼンを見守る |
◆力作ぞろい。生徒たちの発表 各チームの発表は… 田中屋(蕎麦屋)チーム:
天徳湯(銭湯)チーム: →目立つシンボルマーク、ポスター、近くの女子大生たちにアピールするパンフレットを制作。
みなみどう(文具店)チーム: →目立つ看板と、店内に統一感を持たせるためにプライスカードをカッコよくデザイン。リピーターを増やすために、ポイントカードも提案。
LaCave(酒店)チーム: →すでにあるロゴでパッケージや看板をデザイン! 「目隠しシール」を作り、メーカー名を隠すように貼れば、バラバラの包装紙でも統一感が出せ、店名が印象付けられる、というユニークなアイデアを提案。
十和田(理髪店)チーム: →ロゴマークを作って、ロゴマークを基調に統一感のある店内のイメージを提案。また散髪用エプロン、シャッターのデザイン案も提案。
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力の入った発表に、参加者たちも、真剣。 商店会長の猪鼻徳壽氏は、 「もっと幼いものが出るてくるのかと思ったが、本当のデザイナーのプレゼンにも負けない企画が出揃った。よくクライアントの話を聞いて、それを生かした企画が出来ていたと思います。」と評価。 看板デザインをしてもらった、みなみどうさんは、 「これだけのプレゼンをしていただいいたのだから、もっと前向きに商売をやって行こうという気になりました」 と声を詰まらせていた。 このプレゼンの後、生徒たちは、夏休み中にサンプルを制作し、9月の最終プレゼンに持ち込む。その成果は9月25日、26日の文化祭でも発表する。 ◆学校教育の中で、いかに実社会を体験させられるか 緊張が解け、ほっとした表情でプレゼンツールを片付ける生徒たちに、今回の感想を聞いてみた。 天徳湯を担当したチームのリーダーの大野万寿美さんは、 「デザインは、コミュニケーション。ファインアートとは違って、問題の発端は社会の側にあり、様々な関係性の中で、それを解決していくプロセスにこそ本質がある。発想の源が個人的な意志表明であるファインアートとは違う。その違いを体感して、今後の進路につなげてほしい。」 今回提案したものから、実際に採用されるものがいくつ出てくるかはわからない。でも、もし採用されて、彼女たちが卒業して何年か後にこの街を訪れた時、今回デザインしたものが使われていたら……。彼女たちはいったいどんな顔をするのだろうか。今から楽しみである。 (取材・執筆/高篠栄子) ★吉祥女子 徳山先生よりお知らせ!★
吉祥女子高等学校のこちらの記事もご覧ください! 「デザインの授業を通じた地域連携」 吉祥女子高等学校のホームページ |
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