2002.11.19
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全校児童13名「守れ!ふるさとのハナカジカ」 岩手県山形村立日野沢小学校

今や清流の希少種となってしまった「ハナカジカ」。その保護活動を通じて、郷土の自然のすばらしさを再確認し、環境問題や命の尊さについて考えて欲しい・・・。この飼育・放流活動をわずか13名の全校児童とその保護者とで協力して行っている岩手県の小学校にお話を伺った。


 「ハナカジカ」をご存知だろうか?主に北海道から北東北地方にかけての河川の上流部に局所的に生息している淡水魚である。全長がおよそ10~15cm程度の日本固有種で、環境省のレッドリストにおいて、「絶滅のおそれのある地域個体群(LP:地域的に孤立しており、地域レベルでの絶滅のおそれが高い個体群)」に掲げられている。そんなハナカジカの保護活動に取り組んでいる岩手県山形村立日野沢小学校の教頭安倍初雄先生に、きっかけや日常の保護活動、子どもたちの反応、イベントの開催などについて伺った。たった13名の子どもたちが村のイベントや数多く訪れるマスコミの取材にてんてこまい。小さな子どもたちが、これらの活動から学んだものは大きいに違いない。

 


 

 


これがハナカジカ




■ふるさとに生息するハナカジカ~活動のきっかけ~

 岩手県山形村立日野沢小学校は平成10年に学校としては全国で初めて、ハナカジカ
の採卵・飼育・放流に成功した学校だ。絶滅のおそれのあるハナカジカ、その原因は年々悪化する河川の汚染である。ここ日野沢小周辺も現在は自然の姿そのままであるが、近い将来、上流域での開発が計画されているという話を聞き、それに伴う環境の変化がハナカジカにどのような影響を与えるか懸念されている。この活動は、ふるさとに希少種「ハナカジカ」が生息していることから、郷土の自然のすばらしさに気付き、郷土に対する誇りと自信を深めて欲しいこと。活動を通して、自然を守ることの大切さに気付かせ、自然愛護への実践的態度を育成すること。そんな願いを込めて始められた。

 活動のきっかけは、平成元年にスタートした村教委主催の「環境保護実践講座」。当時集まった8つの小学校区でハナカジカの観察を行うこととなった。実際、日野沢地区で観察が始められたのが平成7年。以来、今日まで継続して行っている学校は日野沢小だけとなった。平成8年度には活動母体を「日野沢森林愛護少年団」に移し、平成10年7月にはハナカジカの人工ふ化に成功。採卵した川に約700匹を放流した。以降も、継続して飼育と放流、個体数調査を行っている。

 

 

 





ハナカジカの黄色い卵塊




■採卵から放流までの3ヶ月・・・重要な日々の観察記録

 ハナカジカの飼育は、採卵から始まる。川に入り、大きめの石をゆっくり裏返すと
鮮やかな黄色い卵の塊を見つけることができる。2日間探し回って、2つ見つけられるかどうかというくらい、貴重なものである。この卵塊を持ち帰り、沢の水を入れた水槽へ移すのである。この水槽は常に11℃以下に保たれ、子どもたちは休みの日も交代で熱心に水温・気温・天気・卵の様子・世話の内容などをパソコンに入力し、データベース化している。成長の様子は随時、デジタルカメラで撮影し、公開している。

 ここで重要なのが積算水温。これは1日の平均水温に日数を乗じたもので、これがある温度に達すると発眼したり、孵化したりするのである。子どもたちは、毎日のデータを基に発眼までに約150℃、孵化までに約300℃必要であることを発見した。

 孵化した稚魚は、水換え、エサやりなど世話をしながら体長約1.5cmくらいになるまで校内で飼育される。そして、いよいよ放流の時を迎えるのである。全校児童で採卵した川へ稚魚たちを放つ。採卵からおよそ3ヶ月、大切に育てたハナカジカの稚魚たちに愛情を抱く子どもたち。たとえ800匹放流しても、成魚になるのはほんの数匹。子どもたちにとってそんな別れはつらいものだが、ここで自然の厳しさや命の尊さを学んでいるに違いない。

 

 

 









竹内氏と後藤氏

 

 

 

■たった13名で大イベント「日野沢ハナカジカミーティング」

 今年の8月「日野沢ハナカジカミーティング~地域の環境を見つめ、考えよう~」と
題して、イベントが行われた。日野沢小と少年団や地元教育委員会、部落会とが共催、機材提供したNTT東日本岩手支店も協力して催されたものである。子どもたちがハナカジカについて調べたことの発表や、北海道大学院助教授の後藤晃氏の基調講演の後、現地学習会として、小平沢川にて後藤氏と岩手県立久慈農林高等学校教諭の竹内基氏がハナカジカの生息環境条件、小平沢川周辺の生態系の成り立ちなどを話し、実際にハナカジカの稚魚600匹の放流が行われた。この日は村内だけでなく、岩手県内外からも環境保護団体や、NPOなど多くの参加者が集まった。今後、どのように保護活動を進めていけば良いのかアドバイスも受け、有意義な1日となった。

 他にも、地元イベントでの発表や、県科学研究発表会など、発表の機会も多い。昨年は山形県で同じハナカジカの保護活動に取り組んでいる山形市立高瀬小学校での「ハナカジカサミット」にも参加した。また、各地からの視察やマスコミ取材なども殺到しているため、13名の子どもたちは、日々の飼育の合間を縫って発表準備に追われる日々を過ごしている。「ハナカジカの活動がこんなに有名になるとは、誰も考えてなかった」と安倍先生は驚きを隠せない。また、この活動を通してパソコンスキルや発表のための表現力が高まり、何事に対しても積極性が見られるようになったという子どもたちの変化にも目を見張るものがあるそうだ。

 

 




■子どもたちも減って行く~学校存続の危機、今後の展望

 放流したハナカジカの稚魚が一体、どのくらい成魚になったのか具体的な数字はま
だないものの、毎年の個体数調査から着実に数を増やしていることは事実である。これからもこの活動を継続し、より多くの子どもたちに自然の大切さを考え、郷土の環境を守っていく気持ちを育みたいと安倍先生は考えている。だが、時代と共に減り続ける子どもたち。このままでは学校の存続自体が危なくなってきている。

 「児童数は減少の一途だが、これからも継続して保護活動や研究を続けたい。可能な限り続ける。」そう言い切る安倍先生の力強い言葉にエールを送りたい。

 


(取材・構成:学びの場.com)
 

岩手県山形村立日野沢小学校 

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