2003.01.21
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「中学生はもう大人?まだ子ども?」[よのなか]科の授業とは? 東京都杉並区立向陽中学校

以前、「インタビュー」にもご登場いただいた藤原和博さんが取り組む[よのなか]科の授業ってどんなもの?杉並区の中学校で行われた[よのなか]科の授業のレポート。

 

 

[よのなか]科提唱者 藤原和博さん
 




向陽中 加藤毅社会科教諭

 
 
 
 

 
 

 


 
 
 
 
 
 




 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 





 
 
 
 






 
 
 
 
 
 
 


 

 

■杉並区立向陽中の[よのなか]科って?

 ご存知の方も多いかと思うが、[よのなか]科とは、藤原和博さんが提唱している「中学生に生きた社会科を学んでもらうためのユニークな授業」のことである。教科書を使った受身の授業とは異なり、自分の身近な視点から世界の仕組み、世の中の仕組みを覗いてみるという授業だ。例えば「1個のハンバーガーから世界が見える」と題して、ハンバーガー店の店長をロールプレイングで体験し、流通から国際経済、為替問題まで学んでしまう。また、テーマに沿って弁護士や地元の議員など数多くのゲストティーチャーを招き、「生の声」を聞かせ、ディベートにも加わってもらう。藤原さんが東京都足立区の中学校で担当の先生と協力して始めたもので、現在は都内の公私立中学校三校で展開している。その内の一校が東京都杉並区立向陽中学校である。

 向陽中では、2年生の選択授業で[よのなか]科を行っている。今回の授業までに生徒たちは「あなた一人にかかる費用を計算してみよう」と題し、自分にかかる費用を算出することで「経済的な私」について考えた。続いて、一体何歳から「自分を大人として認めてほしいか」について議論し、年齢と共に増えていく"法律上できること"から「法律的な私」についても考えてきた。さらに「少年法」を取り上げ、実際に起こった少年犯罪をテーマに模擬裁判や議論を重ねてきた。そして、本授業は、そのまとめとして「中学生はもう大人?まだ子ども?-大人と子どもの境目を考える-」というテーマで行った。


■中学生はもう大人?まだ子ども?

 休み時間、教室に生徒たちが続々と入ってくる。始業のチャイムが鳴ると、藤原和博さんと向陽中学校の加藤毅社会科教諭が入ってきて授業が始まる。2年生の選択授業[よのなか]科である。まず、ワークシートが配られる。

「今日は今までの授業を振り返って『中学生はもう大人?まだ子ども?』というテーマで意見文を書いてもらいます。「でも、いきなり書け、と言われても大人だって書けません。そこで、書くための準備をします。この技術を身に付けると大人になってからも使えます」
今日の授業の内容を説明する藤原さん。今日はディベートやロールプレイングではない授業のようだ。

「自分は『もう大人だ』って思う人?」
女子生徒ひとりが挙手する。
「いや、自分は『まだ子どもだ』って思う人?」
多数の生徒が手を挙げる。

「まず、今までやってきたことを思い出してもらいます。」
ワークシートには、「2.法律上の大人とは」と書かれ、義務教育の開始から、姓の変更、結婚、参議院議員・都道府県知事への立候補まで、18の項目が並んでいる。

「これは自分の考えを整理することだから、口頭で言ってくださいね。間違ってもいいから、大きい声で」
そうしてひとつずつ藤原さんが読み上げ、生徒たちは法律的に可能になる年齢を答えていく。

「自分の意思で他人の養子になることができる、これすごい話だね。これは何歳くらいからできると思う?」
「・・・16歳?」「15歳!」「そう。15歳」

「犯罪を犯した際、刑事処罰を受けるのは?」「14歳」「そう、今までは16歳だったけど、2001年の少年法改正によって14歳になりました」
こうして、「法律上の大人」と「自分」とを考える道筋を作っていく。

「次に親や周りの人から『こんな時、大人の扱いを受けた』とか、逆に『子ども扱いされた』という経験を思い起こしてみよう」

---「子どもは早く寝なさい」と言われること
---「大人なんだから家のこと手伝いなさい」と言われる
---久しぶりに会った親戚に「大人になった」と言われた時、などそれぞれの経験を思い出してみる。

次に、白紙が配られる。
「これは皆さんの頭の中です。まだ、白紙です。これから、自分の考えを図で表現してもらいます。これをマッピングと言います。あとで文章を書くための考えをまとめる方法です」

「ここに、『大人』と『子ども』と書いて、さっきの法律上可能になる年齢で、『あ、○才でこんなことができるのか』とか『これはまだできないのか、意外だな』と驚いたことをそれぞれに書き入れてみてください」

---18歳で結婚できることが大人
---15歳で改姓できること

「次に、親や周りの人から受けた『大人扱い』『子ども扱い』されたエピソードを周りに関連づけながら書き込んでいってください」
と藤原さんは続ける。

---門限があるから子どもだ
---義務教育を受けているうちは子ども
---いろいろ責任を取れるようになるのが大人

「意見文を書く時は、客観的な数字・・・ここでは国が決めた年齢だね。これを入れたり、自分の経験を書いて比較してみると、説得力が増して、よりよい意見文になるよ」

時折、書く手を止めて考えながら、自分の思いを書き入れて行く。
最後に完成した図を基にして、自分の考えをまとめに入る生徒たち。

「お、大人25%、子ども75%って数字を刻んでる人もいるよ」
「○○さんは、大人90%だって」
教室内を歩き回りながら書き始めた生徒に次々と声掛けする藤原さん。中には白紙を前にしたまま書けない子もいる。そんな時は、別の子の様子をアナウンスしたり、書き始めた子を励ましてあげるなど、どんどん刺激を与えてあげることが重要だという。そうすると、書き始めた子は自信を持って書き進め、まだ書けずに止まっていた子も書き出す糸口を見つけることができるそうだ。

終業を知らせるチャイムが鳴り、生徒たちが書き終え、回収してこの日の授業は終了。


■ちょうど今、"ビミョー"な年頃

 授業の後、教室に残っていた生徒たちに今日までの授業を振り返り感想を聞いてみた。

「今回のテーマは難しかった。ちょうど今、中2で”ビミョー”な年頃なんですよ。僕たち。」
「私は、子どもが70%にしました。まだ大人になりたくないから。」
「私は、子どもが75%です。今、青春だから。」

そう答えて、恥ずかしそうに笑った。「中学生」という大人と子どもの間で揺れ動いている年頃。「子ども扱いされてむっとしても、実はまだ自立していなくて子どもだった」、「自分は既にこんなことができる大人だ」---今、自分がどんな立場であるのか考えるよい機会だったに違いない。

 今回の授業では、全体的に「子ども」率の方が高かったようだ。まだ、子どもでいたかったり、親から怒られる時に「大人扱い」されることなどが原因だろうか。また、「大人か子どもか」の境目を、親から自立できるかどうかや、電車運賃の設定によって判断したり、中には洋服のサイズ(L,Mだと大人、160,150だと子ども)で決める子もいてそれぞれ視点がおもしろかった。

■「文章力」「要約力」を身につける重要性

 今までの[よのなか]科では、ディベートやロールプレイングゲームを中心に進めていたのだが、そんな中で「文章力の弱い」生徒たちの多さに気付いたと藤原さんは言う。意図した文章が書けるか、伝えたいことが伝わるかという文章力や思考能力を生徒たちに身に付けさせることで、ディベートやロープレなど議論の場をより深めることができると考え、「自分の思いを文章にする」授業を取り入れるようになったそうだ。今後は、マッピングの部分を周りの友だち同士で考えを交流させ、互いに様々な要因を書き出していくことや、要点をまとめる「要約力」を身に付けさせる授業も行う予定だそうだ。今年4月には、杉並区の公立中学校にて東京都初の民間人校長に就任する予定の藤原さん。これを機に[よのなか]科もさらにおもしろい発展を続けるだろう。 

 



藤原和博さんの「よのなかネット」 http://www.yononaka.net/


(取材・構成:学びの場.com)

 

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