2013.05.21
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一人一台PCで、子ども自身が学習問題を立てる授業(vol.2) 40台PCを5クラスで共有活用する新たな試み ― 千葉県船橋市立中野木小学校 ― 後編

千葉県船橋市立中野木小学校は、千葉県総合教育センターの研究校として(株)内田洋行と共同で児童一人一台PC、それも1クラス分のスレートPC40台を5クラスの児童で共有するという実証実験を行っている。その学習環境での授業実践をリポートした前編に引き続き、後編では普通教室におけるPCの共有活用について、使い勝手や教育効果、授業実践上の工夫などを、同校の久保昌也校長と大澤幸展教諭に伺った。

実践者に聞く

普通教室でのPC共有活用がもたらした 児童の協同学習、教師の協働教育

スレートPCを道具として使いこなす子どもたち

学びの場.com(以下、学びの場) モデル校としてスレートPCを導入された経緯やねらいを教えてください。

千葉県船橋市立中野木小学校 久保昌也 校長(インタビュー当時。現船橋市立小栗原小学校校長)

久保昌也 校長(以下、久保) 千葉県総合教育センターから今回の実証実験のお話をいただいた際、年配の教師の中には尻込みする人も少なくありませんでした。ただ、私自身は過去に情報教育の指導主事を務めた経験からPCを使った授業で児童の学習理解が深まることはわかっていましたし、学校として次代を担う若い教師を育てたいという思いもあって、お受けすることにしました。23年度は、二人の若手教師が研究に関わり、24年度は、大澤先生を含む若手教師2名を中心にスレートPCを使った授業を行っています。

学びの場 実証実験を進める中で、先生方の意識に変化はありましたか?

千葉県船橋市立中野木小学校 大澤幸展 教諭

大澤幸展 教諭(以下、大澤) 私たち若手教師は、お互いの授業を見たり見せたりして、色々な教科で授業研究を行っています。

久保 年配の教師も彼らに影響を受けて、今ではデジタル資料を使った授業を行っています。公開授業で外部の方が来られた際に、校内の先生方も一緒に授業を見るケースが多いので、「こういう風に使えばいいのか」「こんな効果があるのか」という気づきを得たこともあると思います。

学びの場 先生方の間でICTの有用性が広く認識され、現在はそういった機器をいかに効果的に使っていくか、という段階に移行しているのですね。PC導入後の子どもたちの変化についてはいかがでしょうか?

大澤 子どもたちはスレートPCを使った学習を楽しんでいて、今ではスレートPCを使わないと、「今日は使わないの?」と聞く子がいるほどです。

久保 教師の指示に従って書き写したり覚えたりするだけでなく、自分で調べて発表する機会が増えたので、主体的に物事に取り組む力が伸びているのではないかと思います。また、班活動などを通して助け合い、学び合う姿も多く見られるようになりました。子どもたちはPCに使われるのではなく、文房具のように一つの道具として使いこなしており、理想的なICT活用に近づいているな、と思います。

学びの場 パソコン室での授業と、普通教室にPCを持ち込んで行う授業とでは、どのような違いがありましたか?

大澤 パソコン室では資料を集めるだけで授業が終わってしまうのですが、普通教室での授業では「調べる→共有する→発表する」という普段の授業の流れを崩すことなく、すべてを1時間で行うことができます。これは大きなメリットですね。

40台のスレートPCを複数クラスで共有するには

PC使用予定表。教師が使いたい日時にマグネットを貼る

学びの場 40台のスレートPCを5クラスで共有するにあたり、工夫されている点を教えてください。

大澤 担当教諭が授業で使いたい時にスレートPCの使用予定表を埋めるという形で共同使用しています。早い者勝ちなのですが、バッティングしてしまった場合は、教師同士で話し合って決めています。

久保 グループ活動であれば、それほどPCの台数を必要としないので、複数のクラスで分散して使用することも可能です。

廊下に設置されたPC充電保管庫

学びの場 これまでに運用上のトラブルはありましたか?

久保 導入当時は色々なソフトが入っていて、PCのスペックもあまり高くなく、メモリ容量も多くなかったので、起動が遅かったりフリーズしたりすることもありましたが、内田洋行の方がPCの設定変更をするなど様々な対応をしてくださり、サクサク動くようになりました。子どもが使うにはスムーズに動作することが一番ですし、この先、すべての児童に一人一台のPCを配布する時代がやってくれば、価格の面でもPCは安価な方が望ましいと思いますね。

デジタルとアナログの併用で学習効果を高める

学びの場 スレートPCの活用法としては、調べ学習が一番ですか?

大澤 図書室に行くよりも手軽で効率が良いので、調べ学習ではスレートPCを利用しています。特に社会科ではかなりの頻度で使っていますね。他には、教師用スレートPCから児童用スレートPCへのデータの一斉配信や、児童用スレートPC画面の電子黒板への一覧・分割・個別表示する機能などもよく利用しています。中でも後者は子どもたちが協同で学び合うには非常に効果的で、発表の多い理科では欠かせないものになっています。

久保 スレートPCを使った調べ学習では、自席にいながら自由に資料を集めることができますから、それらを皆で共有すれば、理解もより広く、深いものになると思います。

学びの場 今回の授業でも、スレートPCと電子黒板との連携機能を多く活用されていましたね。

大澤 ただ、電子黒板に集中しすぎると板書がおろそかになってしまうため、あくまでも限定的に使用するよう心がけています。電子黒板では表示が次の画面に移る時に消えてしまいますから、授業のテーマや強調したいポイントは黒板に書いたり掲示したりして、1時間の学習の流れを子どもたちにつかませるために、目に見える形で残すようにしています。映像教材も同じなのですが、ただ見せるだけでは子どもたちの中に残らないので、手を動かしてノートに写すことも重要です。その意味でも従来の板書は効果的です。

学びの場 授業の中では、紙の地図、写真、板書といったアナログと、スレートPCや電子黒板のデジタルが見事に併用されていました。

大澤 そこは綿密に練って授業に臨むようにしています。一番に考えるのは、子どもの思考の流れと、授業者である自分の動きです。教える自分が提示する文字や資料の邪魔になるような位置にいると、子どもたちはスムーズに学習活動に入れません。どこで電子黒板を使い、いつ板書し、何のカードを掲示するか、といったデジタルとアナログのコンビネーション、そのタイミングを授業の流れにうまく当てはめ、無駄なく動けるようにしています。

記者の目

児童生徒に一人一台のPCを配布することの必要性や効果の高さは理解していても、いざ実行となると、費用の面から二の足を踏む自治体は少なくないだろう。船橋市立中野木小学校が実証実験校として行っているスレートPC共有活用の試みは、そうした自治体で普及途上にあるICT 利活用の現実的な利用法として、有効なヒントとなるものだ。導入コストを最小限に抑えつつ、運用方法を工夫することで、子どもたちに一人一台のPCを使った授業を実現しているこの取り組みは非常に興味深い。今後の展開が期待される。

取材・文:吉田秀道/写真:言美歩

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