ICTを効果的に活用した算数授業(vol.2) 板書、発問等の指導技術とICTを融合させるポイントは? ―土浦市立右籾小学校― 後編
実物投影機、電子黒板、指導者用デジタル教科書、指導者用ノートPCを昨年夏、高学年の全クラスに常設し、ICT機器を日常的に活用している土浦市立右籾小学校。前編でリポートした算数授業は、ICTと指導技術が見事に融合し学習効果を高めていた。このような授業はどうすれば作れるのか? 前編の算数授業実践者の原恵美子教諭と、同校の岡野剛史校長に伺った。
実践者に聞く
ICTが有効な場面を見極め、従来の授業計画に織り交ぜる
ICTの効果的な活用が学力向上につながった
原恵美子教諭は算数だけでなく、他の教科でも実物投影機、電子黒板、指導者用デジタル教科書といったICT機器を日常的に活用している。
「特に、社会科の授業で、ICTのメリットを実感しています」
と語る原教諭は、ICT導入後、社会科の授業の流れをガラリと変えたという。その大まかな流れは、次の通りだ。
1.手製のプリントを宿題として出す
まず、原教諭が作ったプリント問題を宿題として出し、家庭学習させる。穴埋め問題が中心だが、「教科書を見ただけでは埋まらない問題にしている」(原教諭)のがポイント。
そこで児童は、資料集などを使って調べ学習を行う。実はこの資料集、皆異なる資料集を使っている。正確に言うと、4種類の資料集の中から、児童が好きなモノを1冊選んで持たせているという。
2.グループで協働学習する
なぜ、異なる資料集を持たせているのか? それは、協働学習を促進するためだ。
授業が始まると、グループ学習を行う。宿題のプリントを持ち寄り、グループ内で教え合ったり、発見したことを伝え合ったりするのだ。
「自分とは違う資料集を友達が使っているからこそ、自分の発見を熱心に教えたり、友だちの発見に真剣に耳を傾けたりすることができるのです」
と原教諭。なるほど! 感心させられる工夫だ。
3.実物投影機を使って答え合わせ
次に、児童のプリントを実物投影機で映し出し、全員で答え合わせを行う。
「子どものノートやプリントなど、実際に書いたものを大きく提示できるのが実物投影機の良さですね。社会科に限らず、様々な教科で、プリントの答え合わせや、児童の意見発表などで、実物投影機を活用しています。家庭科のエプロン作りで、実物投影機で手元を見せながら説明することもあります」。
4.デジタル教科書を見せ、解説を加える
そして、デジタル教科書を見せながら解説を加え、学びを深めていく。
「デジタル教科書は本当に便利。まず、写真や挿絵、グラフなど、様々な資料が収録されており、その詳しい解説も掲載されています。特に、動画教材が収録されているのが、紙の教科書にはない優れた点ですね。
また、その豊富な資料を拡大して説明できる点も長所。大きく映すことで、子ども達が観察しやすくなり、気づきや発見も生まれやすくなります」
と原教諭。デジタル教科書を使った解説を聞き、児童はノートにまとめていく。前編でもお伝えたした通り、自分なりに工夫して、参考書として使えるノートにするよう指導しているそうだ。
5.デジタル教科書などの動画教材でまとめ
授業の最後には、デジタル教科書などの動画教材を電子黒板で鑑賞して、学びをまとめる。
「教員用PCを使って、インターネットで動画教材を探し、見せることもよくあります。こういった作業が効率良く出来る点がICTの良さです」
原教諭は、理科でもデジタル教科書やネットの動画教材をよく使うとのこと。
「理科では、実際に観察や実験が出来ない内容が多くあります。例えば、『月と太陽の動き』について学ぶ単元などです。そのようなときは、電子黒板を使って動画教材を見せ、子どもが実感を持てるようにしています」。
以上のような流れに社会科の授業を変えた所、児童に変化が起きた。目に見えて、社会科の成績が良くなったという。
「知識が定着し、理解が深まっています。主体的に調べる姿勢が身につき、興味関心も高まり、社会科が好きという子どもが増えました」
お気づきの読者もいるだろうが、この授業の流れは、反転学習そのもの。「反転学習をしようと意識したわけではない」と原教諭は言うが、反転学習を取り入れた授業計画とICTの活用が上手に融合した結果、児童の主体的な学びと学力の伸びにつながっていると感じた。
ICTの良さが発揮できる場面で活用することが大事
ICTを授業で活用するようになり、原教諭は様々なメリットを実感しているという。
「第一に、授業で使う教材の作成に時間が掛からなくなりました。電子黒板でデジタル教科書の資料を見せ、紙の資料やプリントを実物投影機で拡大提示すれば済みますから。
第二に、授業の進行がスムーズになりました。例えば、算数で子どもが自分の解き方を発表する際、以前は画板大のホワイトボードに自分の考えをノートから書き写し、皆に見せていたのです。でも、実物投影機を使えば、書き写す手間が掛からないので、多くの子どもが次々と発表できます」
授業進行のスムーズさは、算数の授業を取材させていただいたときに肌で感じた。あれほどたくさんの活動を行いながら、45分の授業時間内にきっちり収められるのも、ICTを活用したからだろう。
「教室にICTが常設されてまだ1年ですが、ICT無しの授業はもう考えられません。あらゆる教科で、また授業中のちょっとした場面でも活用するようになりました」。
岡野剛史校長も、ICTの効果に手応えを感じているという。
「授業中の子ども達の反応がとても良くなっています。大きく見せたり、動画を鑑賞したりと、視覚的に訴えられる点が、学習意欲の向上にもつながっていると感じています」
そんな効果を得られるのも、“常設”したからこそだと、岡野校長は言う。
「常設したから、毎日毎時間使える。日常的に使うから、効果が出る。効果が出るから、教師ももっとやってみよう、工夫してみようとなる。好循環になっていると思います」。
ただし、闇雲にICTを使っているわけではないと、原教諭は言う。
「ICTとアナログをうまく織り交ぜながら、授業を展開するよう心掛けています。大事なのは、ここでICTを使うと効果があるかどうかを見極めること。ICTの良さが発揮できる場面で活用することが何よりも大事だと、感じています」。
ICT導入・普及には活用授業を互いに見せ合うこと
原教諭は、研究主任・学年主任として、ICT活用を校内に広める役割も担っている。効果的なICT活用を広めるために、どんな手立てを講じているのだろう。
「本校はICTが得意ではない先生が多く、『私には無理』と敬遠する先生もいらっしゃいます。まずは実際にICTを使った授業を見ていただき、ICTの良さを実感してもらおうと心掛けています」
職員会議で、「明日ICTを使った授業をしますので、ぜひ見に来てください」と呼び掛けたり、ICTが常設されている高学年の教員同士で授業を見せ合ったりしているそうだ。
「ICTの良さ、便利さを知ってもらうには、実際に活用しているシーンを見てもらうのが一番だと思います」。
また、夏休みの職員研修やミニ研修で、ICT機器の操作方法を学んだとのこと。この研修は、全学年の教員が対象。いつ高学年の担任になってもいいように、いつ全学年にICTが常設されてもいいように、今から準備しているのだ。
ICTの普及促進に関しては、「情報サポーター」(※いわゆるICT支援員)の存在も大きかったという。原教諭は
「ICTを使い始めた頃は、基本的で初歩的な事も度々質問して、教えてもらっていました。週に1度必ず来校されてサポートしてもらえたので、とても心強かったです。夏の研修でも様々な活用法を教えて下さったので、授業での活用に活かすことができました」
と話す。
ICTを本格的に導入してまだ1年ながら、着実に前進し、成果を上げている右籾小学校。今後は、どんな展望を描いているのだろうか。
「近い将来、全教室にICTが常設されることになると思います。その時、一人でも多くの先生に『私も使ってみようかな』と思っていただけるよう、校内の普及に努めたいと思います」
と原教諭。岡野校長はこう語ってくれた。
「ゆくゆくは、右籾小のICT活用モデルを作りたい。一人ひとりの先生が、どんな場面でICTが効くかを考え、有効な活用方法を編み出してほしい。そしてそのノウハウを全ての先生が共有し、学校全体の力を高めていければよいと思います」。
記者の目
原恵美子先生の前任校が、つくば市立竹園東小学校だと聞いて、「なるほど」と納得した。県内でもいち早くICT活用に取り組んだ先進校であり、高い指導力を持った先生を数多く輩出していることで有名な学校だ。その経験があるから、原先生は高い指導技術とICTを上手に融合した授業を作れるのだろう。
その原先生は、何度もこう語った。「ICT機器があるから活用するのではなく、効果的な場面で、無理のない活用ができればと考えています」。今、教育現場にはタブレットPCが急ピッチで広まりつつあるが、今こそ、この原先生の言葉を胸に刻むべきではないだろうか。
取材・文:長井 寛/写真:言美 歩
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