2015.10.27
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ICTを効果的に活用した算数授業(vol.1) 板書、発問等の指導技術とICTが融合し、学びを深める ―土浦市立右籾小学校― 前編

実物投影機、電子黒板、指導者用デジタル教科書、指導者用ノートPCを昨年夏、高学年の全クラスに常設した土浦市立右籾小学校。導入からわずか1年ながら、これらICT機器と指導技術が見事に融合した、素晴らしい授業が行われている。前編では、同校の原恵美子教諭が担任する6年1組の算数の授業を、【板書】【ノート指導】【ICT活用】等、項目別にまとめてリポートする。授業に活かせるヒントが満載なので、ぜひ参考にしてほしい。

授業を拝見!

板書、ノート指導、机間指導等の指導技術と、ICTが見事に融合

学年・教科:6年1組(児童32人) 算数
単元:「比と比の値」(全9時間中、第8時間目)
本時の目標:全体の量を比例配分することができる。
指導者:原恵美子 教諭
使用教材・教具:実物投影機、指導者用デジタル教科書(東京書籍)、電子黒板、指導者用ノートPC

1.導入:本時の課題を示し、見通しを持たせる

本時の課題を電子黒板に映し出す

今日の授業は、「比と比の値」の8時間目。本時では、「ミルクティーを1200ml作るとき、牛乳と紅茶を3:5の割合で混ぜると、牛乳は何ml必要か」という問題に取り組む。


【ICT】
まず原教諭は、上記の問題文を電子黒板に映した。デジタル教科書に載っている問題文“だけ”を拡大提示した点がポイントだ。
「余計な情報を与えず、問題文だけに集中させるのがねらいです」
 と、原教諭。

【板書】
同時に、全く同じ問題文を黒板にも板書した。
「電子黒板に映すものは次々変わりますし、子どもの発表でも使います。大事なことは、電子黒板に映すだけでなく、必ず板書します」。

土浦市立右籾小学校 学年主任 研究主任
原 恵美子 教諭

【ノート指導】
この問題文を児童はノートに書き写す。その際、原教諭は「わかっていること」を赤の直線で、「たずねられていること」を赤の波線で、それぞれ問題文に下線を引くよう指導した。

「これは算数共通のルール。どの数値を使って、何を求めればよいかが明確になり、迷わなくなります」。

【発問】
問題文を書き写しても、すぐには取り掛からない。原教諭は、
「今までに習った、どんな解き方を使えば良さそうですか」
 と発問し、児童に考えさせた。
「分数のかけ算が使えそう」
「分数の割り算も使える」
「数直線も良さそう」
などと、児童は発表していった。

「このクラスは算数が苦手な子どもが多く、いきなり問題に取り組ませると、どう解けばよいか迷ってしまいます。この発問を挟むことで、子ども達は『解く見通し』が持て、迷子の発生を防げます」
と原教諭。ちなみに、この授業中、教科書はずっと机の中にしまわれ、一度も開かれなかった。
「教科書を見てしまうと、そこに載っている解き方に引きずられ、安易に真似してしまう。自分なりに解き方を考えさせるため、教科書は開かせませんでした」。

板書には算数専用の板書用シールを使う

【板書】
原教諭は何人かの児童が発表した「解く見通し」を、しっかり板書。黒板には「」マークを貼った。これは、算数科の板書用シールで、「見通し」の意味だ。他にも、

=問題

=課題

=自力解決

=友達の考え

=まとめ

=練習問題

などのシールがある。
「本校は算数の研究校であり、その研究過程でこのシールは開発されました。板書がとてもわかりやすくなると好評だったため、今では全学年でこのシールを使っています」。

【発問】【板書】
次に、原教諭は前時に解いた問題を振り返り、

「比には、どんな特徴があった?」
 と思い出させる。そして、「○:△=□:◎」と板書し、
「この関係を説明できる人は?」
 と発問。○に9をかけて□になるとき、◎は△に9をかけた数になるとの答えを児童から引き出し、の欄に板書した。
「この比の特徴を使って問題を解くのが本時のねらいなので、発問と板書で徹底しました」。

【板書】
シールを貼り、その横に「全体の量を部分と部分の比で分ける方法を考えよう」と、今日の課題を板書。

2.展開(個別に解く):細やかな机間指導、的確なノート指導

いよいよ本時の主問題「ミルクティーを1200ml作るとき、牛乳と紅茶を3:5の割合で混ぜると、牛乳は何ml必要か」に取り組む。児童は個別にノートへ解答を書いていくのだが、その前に、原教諭は不思議な指示を出した。

児童が左手で押さえているのが「型紙」。一体、何に使うのか?

【ノート指導】
「いつものように、『型紙』をノートに当てて長方形を書き、その中に自分の解き方を書きましょう」
すると、児童は手慣れた様子で机の中から型紙を取り出し、ノートに当てて線を引き始めた。一体なぜこんなことを? もちろん理由がある。この後の活動でそのワケが明らかになったとき、記者は思わず「なるほど!」と、うなってしまった。

読者の方々も、その理由を考えてみよう。ヒントは、型紙のサイズ。12.5cm×9cmの長方形で、その比率に謎を解く鍵がある

【机間指導】
児童が問題を解き始めたら、原教諭は個別に机間指導を行う。その指導がとてもバリエーション豊かで、一人ひとりに適した支援になっていた。いくつか例を挙げると、

◆分数を使って計算しようとしてつまずいている子に、「数直線で考えてみて」とアドバイス。
◆すぐに答えが出た子には、「考え方も書いて」と指示。
◆考え方はわかったが、式を立てられず困っている子には、例を示してヒントを出す。特に多かったのが、「1200×3/5」と、間違えて立式してしまうケース。そこで原教諭は、下記のような数直線を児童のノートに書いて、「3/5」ではなく「3/8」を掛けるのだと理解できるように導き、つまずきを解消していた。

数直線で解く

その机間指導の見事さ、細かさに驚いていると、原教諭が種明かしをしてくれた。なんと、クラス全員分の支援方法を事前に用意しているのだという。
「30人いれば30通りの考え方があるのが算数です。この子はこういう考え方で解こうとして、ここでつまずくだろうと予想し、つまずきを解消する指導を練っておきます」
その用意周到さに感服した。

3.展開(発表):「型紙」活用、実物投影機でノートを映す

解き終わったら、児童達の考えを発表。発表者は原教諭が指名する。
「机間指導の際に全員の答えをチェックし、様々な解き方を見せられるように、発表者を選んでいます」。

実物投影機で発表。ここで「型紙」が活きる

【ICT活用】
指名された児童は、実物投影機で自分のノートを映しながら解説する。ここで先程の「型紙」の謎が解けた。児童が実物投影機の上にノートを置くと、型紙を当てて書いた枠線が、モニターである電子黒板にぴったり収まったのだ! 12.5cm×9cmという型紙の比率は、電子黒板の画面の比率と同じだったのである。

「実物投影機を使い始めた頃は、ノートを映そうとしても電子黒板に収まり切らないことがよく起きました。ノートを動かしてスクロールしながら見せるのはわかりづらいですし、かといって倍率を下げると文字が小さくなって読みづらい。そこで土浦市教育委員会のアドバイスで、『ICTを使いこなすには、このような事でもたつくわけにはいかない、授業の流れを止めてしまうから』と、この型紙を使い始めました。型紙のスペース内に書けば、1画面にぴったり収まり見えやすいのです。この型紙は、他の教科でも使っています」
とのことだ。

【発問】
児童が発表する度に、原教諭は様々な発問を重ねた。
「今の説明でわかった? Aさん、説明してみて」
「さっきのBさんの考え方と、このCさんの考え方は、どこが違う?」
その発問に児童達が答える度、それぞれの解き方への理解が深まっていくのがわかった。
「Aさんの解き方をBさんに解説させるねらいは二つ。まず、Aさんの解説だけではわからなかった子も、Bさんが別の言い方で解説すれば、わかりやすくなります。そして、他者の意見を理解しようとする姿勢も養われます」
と原教諭は言う。

【ノート指導】
児童達のノート発表を見ていて、気がついたことがある。統一ルールが徹底されている点だ。例えば、問題は青枠で囲み、まとめは赤枠で囲むといった書式や、先に述べた「今わかっている数値」には赤い下線を引くといったルールは、全員が守っていた。

その上で、各自がわかりやすく工夫して、ノートを書いていることに驚かされた。ある児童は数直線を書いて考える際には、青や赤で線を書き分けたり、矢印を書き込んだりして考えの過程がわかるようにしていた。一人ひとり、違うノートになっていたのだ。
「板書をそのまま写してはダメと、子ども達には日頃から言っています。『一人ひとり違うノートになっていい。わかりやすい書き方を自分なりに工夫し、参考書みたいに使えるノートにしよう』と指導しています」
と原教諭。ノートは定期的に集め、4段階で評価。上手にまとまったノートは実物投影機で映したり、コピーして教室に貼ったりして褒めたたえ、皆のお手本にしているそうだ。

4.まとめ:練習問題を解き、45分授業を完結させる

授業は生き物であり、予想外の事態は常に起きる。この日も、それが起きた。全員が今日の問題を分数や数直線を使って解き、本時のねらいである「比の特徴」を使って解いた児童が誰もいなかったのだ。「やろうとしたけど、途中でわからなくなった」との声も聞かれた。
【板書】
そこで原教諭は、比の特徴を使った解き方を黒板で解説。「3:8=X:1200」と式を立て、比の特徴によれば、8を150倍したら1200になるから、3を150倍したらXになると、矢印も使って説明。児童達はフムフムとうなずきながら、ノートにまとめていた。

【ICT活用】
様々な解き方を一通り知った所で、デジタル教科書を使ってまとめに入った。デジタル教科書のまとめスライドを電子黒板に映し、数直線を使った解き方を、全員で確認したのだ。ここで、デジタル教科書ならではの良さが発揮されていた。解く手順を、スモールステップで確認できるのだ。

最初、まとめスライドの数直線は、あちこちが虫食いの空欄になっている。画面をタッチする度に、この空欄に数字が入り、少しずつ埋まっていくのだ。
「紙の教科書では、すべての数字が最初から提示されているので、子ども達はどこから考えていけばよいのか混乱します。しかし、デジタル教科書のまとめスライドなら、少しずつ数字が表示されるので、解き方の手順がわかりやすいのです」
と原教諭。

【ICT活用】
長々と書いてきたが、ここまでで40分が経過。授業時間は、まだ5分残っている。授業計画をしっかりと立て、机間指導等の準備も万全で、ICTの良さを活かしてスピーディに発表しているから、授業がスムーズに進んだのだ。そして残り5分で、原教諭は練習問題に取り組ませた。
「『練習問題までこなしてこそ授業は完結する』と校長先生もおっしゃっていますし、私もそう心掛けています。練習問題を解くことで、本当に理解できているかを確認できるからです」。

デジタル教科書の練習問題を電子黒板に表示。「250枚の色紙を、二人で3:2になるように分けると、それぞれ何枚か?」という問題だ。原教諭は
「さっき習った、比の特徴を使って解こう」
と指示した。児童達は「3:5=X:250」と式を立て、迷うことなく解き進めていった。しっかりと、比の特徴を理解している証拠だろう。

練習問題を解き終えた所で、4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。「お見事!」と言いたくなる、素晴らしい授業だった。

記者の目

授業を見終えた直後、私は興奮気味に取材メモにこう書いた。「ICTと指導技術が絶妙に融合!」「板書、ノート指導、発問、机間指導が素晴らしい!」と。それほど原先生の授業は見事であり、活動の一つひとつに、経験と知恵が凝縮されていた。その指導技術はどれも効果的でありながら、誰でも真似できるモノが多いことにも感心させられた。板書用シールや型紙は、その好例だろう。
また、45分の授業時間を、計画通り最後まで完走したことにも感銘を受けた。指導に熱が入るとついつい進行が遅れがちになってしまうが、その結果「まとめ」や応用の「練習問題」を行えないようでは、理解度や定着率が下がってしまう。
授業の隅々まで工夫が凝らされた、圧巻の指導だった。

取材・文:長井 寛/写真:言美 歩

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