2013.04.23
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一人一台PCで、子ども自身が学習問題を立てる授業(vol.1) 40台PCを5クラスで共有活用する新たな試み ― 千葉県船橋市立中野木小学校 ― 前編

児童生徒に一人一台のPCを配布し、その教育効果を図る実証実験が全国各地で進められている。しかし、全児童生徒分のPC予算を確保することは、地方自治体にとって高いハードルだ。そこで今回は、1クラス分のスレートPC40台を5クラスの児童で共有する千葉県船橋市立中野木小学校の、4年生社会科授業をリポート。単元の導入に効果的に活用する様子をお届けしたい。同校は平成23年度より千葉県総合教育センターの研究校として(株)内田洋行と共同で、児童一人一台PCに関する実証実験を行っている。

授業を拝見!

様々な資料を読み取り、学習問題をつかみ、立てる

学年・教科:4年生(児童33人)・社会
単元:水産業のさかんな勝浦市(全6時間)
本時の学習:勝浦市の人々の暮らしに問題を見出し、学習問題を立てる(1時間目)
ねらい:(1) 勝浦市の地形や水産業などの概要、そこに見られる人々の生活の様子について問題を見出すことができる。
(2) 千葉県内における船橋市と勝浦市の地理的位置や地形を、地図を活用して調べ、方位と距離を用いた表し方を読み取ったりまとめたりすることができる。
指導者:大澤幸展 教諭(学級担任)
使用教材・教具:カツオとその加工食品の写真(マグネット付き)、カツオの水揚げ量に関する農林水産省統計データ、千葉県の地図(通常の地図、主な漁港・水産物を示した地図、航空写真、3D地図)、漁師の暮らしに関する資料、スレートPC(教師用・児童用)、電子黒板、授業支援システム、無線アクセスポイント

デジタルとアナログを駆使し、子どもの興味・関心を引き出す

今回は単元の最初の授業であることから、
「水産業や勝浦市について子どもたちに興味を持たせ、調べ学習への動機づけをすることを一番に考えました」
 と大澤幸展教諭。そのため、あえて勝浦市の地名は明かさず、子どもたち自身でそれを突きとめるというクイズ形式で授業は始まった。また、デジタル一辺倒になるのではなく、アナログの教材・教具を効果的に取り入れて子どもたちの興味を喚起し、学習効果を高める工夫も随所に散りばめられていた。

それが特に際立っていたのが授業の冒頭だ。大澤教諭は電子黒板に表示したイラストを基に、これまでに学んだ千葉県の地域と特産物(香取市の米、野田市・銚子市の醤油)の振り返りを行った後、
「醤油をつけて食べるものには何がある?」
 と子どもたちに質問した。
「お刺身」
 という答えを引き出した所で、おもむろにクーラーボックスに手を入れ、魚の形に切り抜いたカツオの写真を取り出した。「本物の魚が出てくるのかな?」と興味津津で見守っていた子どもたちは、予期せぬ展開に歓声を上げ、すっかり授業に引き込まれた様子だった。教諭が
「この魚の名前、知っている?」

と問い掛けると、競い合うように手を挙げ回答していた。

この他にも、大澤教諭は「刺身」「たたき」「かつお節」「ツナ缶」といったカツオ料理や加工食品の写真を用意し、カツオの写真と共に黒板に掲示。適宜ポイントを板書することで、子どもたちに「魚をとる→運ぶ→加工する」という「水産業」の流れを具体的にイメージさせていく。さらに、
「これは千葉県のある町で買った特別なツナ缶です。この辺では売っていません」
 と、実物の勝浦限定品の缶詰を見せることで、子どもたちに「どこで売っているの?」という関心を抱かせ、次に行う調べ学習へのより大きな動機づけとした。

調べ学習ではスレートPCで存分に資料集め

「この場所が千葉県のどこであるかを考え、学習問題を立てよう」
 と、大澤教諭は今日のめあてを板書、子どもたちもノートに写す。ここからスレートPCを使った調べ学習へ入る。作業を始めるにあたり、教諭は電子黒板に日本でカツオの水揚げ量が多い港・上位5位の水揚げ量のグラフを表示(画面を切り替えた後は紙に印刷したものを黒板に掲示)。勝浦市の地名は伏せ、2位という順位のみを明かす。この事実に、子どもたちは新鮮な驚きを覚えたようだ。

次に、勝浦市という地名を当てるための手懸りとなる、ご当地グルメやイベントなど四つの画像資料を、教師用スレートPCから、あらかじめ配布・起動してあった子どもたちのスレートPCに無線LAN経由で配信する。
「タンタンメンだって」
「ひな祭りもあるよ」
 と、子どもたちはわくわくした様子で資料を確認していく。

「まずは資料を基に、地図やインターネットを使って一人で調べてみよう」
 と大澤教諭が呼び掛けると、子どもたちは慣れた様子でスレートPCのタッチペンを手に取り、検索をスタート。
「当初は文章を入力していた子どもも、今では必要なキーワードだけを並べて検索できるようになり、欲しい情報に早くたどり着けるようになりました」
 という教諭の言葉通り、ほとんどの子どもが3分ほどで調べを終え、「勝浦市」という答えを導き出していた。

ここで大澤教諭は班活動を指示。子どもたちは机を移動して班になり、活発に意見を交換しながら、スレートPCや地図、過去のノートなどを用いて、答えが勝浦市であることを証明するデータ集めに着手した。資料にあった風景写真と地図の地形を照合する子、資料のキーワードを検索する子、カツオと千葉の港の関連を確認する子……子どもたちは思い思いのアプローチで調べを進めていく。大澤先生が各班を回って状況を確認しながら、
「証拠は一つだけでなく、いくつか見つけてね」
 と声を掛けると、子どもたちからは、
「全部見つけた!」
「証拠揃ったよ!」
 と元気な声が上がっていた。

証拠資料を発表。協同の学び合いを電子黒板が支援

作業が終わると、子どもたちは机を元に戻し、証拠のデータをスレートPCの画面に表示する。それら33人分の画面を大澤教諭が電子黒板に一覧表示し、皆がどんな証拠をつかんだかを確認していった。

続いて、授業は子どもたちが自分の集めた証拠を皆に教える発表コーナーへと進む。ここでは、大澤教諭に指名された児童のスレートPCの画面のみを電子黒板に大きく表示した。
 子どもたちの示す証拠に、
「そこに注目したんだ」
「かなり決定的な証拠だね!」

などと教諭が合いの手を入れ、発表の場は盛り上がっていく。子どもたちの集めた証拠はいずれも精度が高く、必要な情報を取捨選択する力が着実に身に付いていることが見て取れた。さらには、簡単に文字や印を書いたり消したりできる電子黒板の機能を活かし、重要なポイントに付属のペンや指で書き込みながら巧みに発表する子もいた。
「こうした機能を使いこなし、子どもたちは普通の教材を使って発表するより効果的なプレゼンテーションができるようになっています」
 と、教諭もその効果を実感していた。

学習問題を見出し、今後の授業への見通しを持つ

発表が終わると、いよいよ授業は学習問題を立てる最終段階に突入。

大澤教諭は電子黒板に学校の位置がマークされた3D地図を提示。少しずつ画像を引いて千葉県全体を表示することで、地元・船橋市から見た勝浦市の位置や地形を子どもたちに確認させた。ズームアップやズームバックで位置関係がつかみやすくなり、子どもたちは自分の住む地域への理解度も高まったようだ。

さらに、大澤教諭は千葉県の航空写真や、勝浦市の漁師の暮らしぶりを端的にまとめた紙の資料も活用し、黒板に掲示した。勝浦市はどんなところか、漁師の暮らしは自分たちの生活とどう違うかなどを子どもたちにじっくりと考えさせた上で、自分なりに考えた学習問題をノートに記入させていく。挙手発表では、子どもたちから
「なぜカツオなどの魚がよくとれるのか」
「どうして水産業が盛んなのか」
「漁師さんはどんな暮らしや生活をしているのか」
 といった意見が飛び交い、これらを教諭が
「勝浦市で水産業をしている人々は、どのような暮らしをしているのだろう」
 と板書でまとめ、授業は終了。授業を通して子どもたちは、これからの学習問題を自らの言葉で見出すことができていた。

授業終了後、児童用スレートPCはシャットダウンすると同時に使用履歴は消去されるが、各児童の学習課程はサーバにそれぞれ保存される仕組みになっている。また、使用後は児童が廊下に設置した充電保管庫に収納する。保管庫の上には2週間分のスレートPC使用予定表があり、使いたい曜日・時間に担当教諭がクラス名のついたマグネットを貼り、限られたPCを5クラスでうまく使い回せるような体制がとられていた。

記者の目

児童生徒が一人一台のPCを使って行う授業というと、「PCをフルに活用しなければ」「一から授業を組み立てなければ」と気負いや不安を感じる先生も多いだろう。しかし、アナログとデジタルを違和感なく融合させた大澤教諭の授業をご覧いただけば、そうした悩みは払拭されることと思う。普通教室でのいつもの授業に、スレートPCや電子黒板をスポット的に取り入れることで、これほどまでに子どもたちがイキイキ取り組み、かつ学習効果の高い授業が実現できるのか、と目を開かれる思いがした。また、PCの共有にも何ら問題は見受けられず、授業では一人一台のPC環境がスムーズに機能していた。

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