2013.03.05
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高校でフィジカルコンピューティングを学ぶ 全身の動きで操作するプログラムを産学連携型講座で作成 ―神奈川県立神奈川総合産業高等学校―

キーボードやマウスを使わずに、ジェスチャーでPCを操作するプログラムを作る「フィジカルコンピューティング」の講座が、スーパーサイエンスハイスクール指定校の神奈川県立神奈川総合産業高等学校で開催された。これは(株)内田洋行、(株)デジタル・アド・サービス、(株)インフォザインの3社が同校と協力して実施した産学連携型の講座。高校生がゲーム作りを通して学んだ、本講座の模様をお届けする。

講座リポート

フィジカルコンピューティングでゲームを作成する

講座名:SSHフィジカルコンピューティング
講座内容:「Kinect(TM) for Windows(R) センサー」と「Scratch」を利用して、ジェスチャーで操作するゲームを開発する。
講師:秋田 一(株式会社デジタル・アド・サービス)
   島崎 章(       〃        )
   渡邉忠祐(株式会社インフォザイン)
   増山一光(神奈川県立神奈川総合産業高等学校 教諭)
   佐藤峻之(       〃           )
参加者:神奈川県立神奈川総合産業高校 生徒9名(1年生6名、2年生3名)
使用教材:Kinect for Windows センサー(Microsoft社のゲーム機「Xbox360」のコントローラー。従来のようなゲームコントローラーを使わず、身体の動きや音声を認識し操作するもの)、Scratch(MITで開発された小学生でも使える教育用プログラミング環境。フリーソフトウェアで日本語版もある)、PC、ステレオ、大型ディスプレイ
講座日程:【一日目】フィジカルコンピューティング、Kinect for Windows センサー、Scratchの説明、サンプルプログラムの作成
     【二日目】オリジナルゲームプログラミング実践、中間報告
     【三日目(本時)】プログラミング実践、各チーム発表

講座開始前からプログラミングに熱中する生徒たち

本講座の会場となる教室に入ってみると、すでに生徒たちは4チームに分かれ、熱心にPCに向かっていた。チーム名はそれぞれ「肝臓feat匠」、「Project U」、「インベーダー☆」、「HNY」。全員、自主的に本講座への参加申し込みをした生徒たちだ。担当の増山一光教諭によれば
「皆、講座が始まる前の午前中から来ているんですよ」
 とのこと。

Kinect for Windows センサー

Kinect for Windows センサーの前で身体を動かしながら、画面上に出てくるキャラクターの動きとの連動を確認し、
「うん、大丈夫そう。音楽、もうちょっと変えてみる?」
 とPCに向かうチームメイトに話しかけていたのは、Project Uの男子1年生。このチームは飛んでくるサッカーボールをキャッチする、ゴールキーパーゲームを作成していた。

Scratchの一部分

今回プログラミング開発に使用するScratch は、Kinect for Windows センサーが拾う人間の腕・腰・膝・足首など身体ポイント20か所の座標情報をコントロールできるツール。つまり、20か所の身体ポイントの位置をKinect for Windows センサーが認識し、各ポイントがどう動いたら、どんな反応を画面上でさせるかをScratchでプログラミングしていくのだ。Project Uは、ランダムに現れるボールをキャラクターの両手が触れたら1点、あるいは片足が触れても1点とし、合計13点以上で「よくできました」と、クリアできるプログラムを組む予定。

生徒たちに教える(株)インフォザイン 渡邉忠祐 講師(写真中央)

同校の生徒たちは、C言語でのプログラミング実践は経験済みである。先程のProject Uの男子生徒は
「Scratchは日本語なのでC言語よりも理解しやすい。けれど『この動きのためには、何と何を組み合わせるか』は、まだ教えてもらわないとわからない。また『両手でボールに触れたら』→『1点加点』など、ゲーム性を考えるのも難しい」
 と言う。わからない点は、そばにいる講師たちにすぐ質問できる。Project Uの質問には、渡邉忠祐講師が丁寧に答えていた。

「初日のオリエンテーションから生徒の皆さん、夢中でした。Kinect for Windows センサーとScratchをつないで、ジェスチャーでコンピュータを操作すると、皆、驚きながらも大喜びしていました」
 と講師の一人、秋田一氏。そして、プログラミングの説明を始めた途端、生徒たちはどんどん自主的にプログラミングを始めてしまったそう。
「ウォーミングアップとして、センサーに身体の動きを読み込ませ機械に慣れてもらおうとしたら、その段階から『どんなゲームにすると面白いかな』などと考え始めていましたよ」。

目的はゲーム作りでなく、身体の動きをどう利用するか

いよいよ本講座三日目がスタート。始めに秋田講師から
「この講座の目的はゲーム作りではありません。Kinect for Windows センサーを使い、ジェスチャーやポーズなどの全身の動きでコンピュータを操作することを一番の目的としてください。『ジェスチャーで動かす』と、どんな新しいことが可能になるか。まずアイデア作りに注力してください」
 とアドバイスがあった。つまり、「ゲーム作り」よりも「身体の動きをどう利用するか」が課題なのである。

チーム「Project U」のゲーム・キャラクターは棒人間

例えば、前出のProject Uのゴールキーパーゲームで言えば、キャラクターは棒人間という簡素なデザインだが、サッカーをシミュレーションして全身の動きをセンサーに認識させるという点で、目的は十分に達成されている。アイデアとしても非常に面白い。

そのほかのチームでも様々なアイデアが見られた。「インベーダー☆」が作成するインベーダーゲームは、右手を上下に動かすとインベーダーが砲弾を発射、左手を動かすとインベーダーが移動するというプログラムだ。同チームの女子1年生は以前からScratchは知っていたとのこと。

「(Scratchに)Kinect for Windows センサーを組み合わせると聞いて、面白そうだと思い参加しました。めちゃくちゃ楽しいです!」
 Kinect for Windows センサーの前で腕を上下にぶんぶん振り回しながら操作性のチェックをしている彼女を始め、どの参加者も自分の身体の動きが実際に画面上のキャラクターと連動することが面白いらしく、時に笑い声が上がるほど明るい雰囲気だ。

(株)デジタル・アド・サービス 島崎章 講師

「HNY」は、バウンドしながら近づいてくるスライムを、ジャンプや平行移動で避け、10秒間無事にぶつからなかったらクリア、というプログラムを作っていた。当初、スライムは平行移動のみだったが、島崎章講師の「それがバウンドしたら面白いかもね」とのアドバイスから改良した。

チーム発表、各ゲームを実際に体験してみる

チーム「HNY」のスライム・ゲームに挑戦

2時間が経過し、プログラミング実践は終了、各チームが作成したゲームの発表タイムとなった。最初のチームはHNY。プレイヤーがセンサーの前でジャンプすると、画面上のキャラクターもジャンプする。他チームの生徒も挑戦してみた。すると、意外な欠点が浮上。プレイヤーの腰の位置を「ジャンプした」ことの判定基準としたために、HNYのメンバーよりも背の高い人が挑戦したところ、腰の位置が高いため、画面上のキャラクターがずっとジャンプし続けてしまう。このように、色々な人が実際にゲームを体験してみると、制作者自身が気づかなかった課題も多く見つかった。ちなみにこのゲーム、スライムがバウンドする高さが不均一のため、避けるのは相当難しく、クリアしたプレイヤーは一人だけだった。

肝臓feat匠は一風変わったゲームを作成した。プレイヤーは画面に映ったキャラクターと同じポーズをする。それがキャラクターのポーズと一致したらクリア、次のステージに進めるというもの。制作チームの男子生徒は
「ゲーム性は低いものですが、将来的にリハビリなどに利用できればよいなと考えました」
 とコメントした。同ゲームに挑戦した生徒たちからは、
「このポーズはきついぞ~」
 との声も。センサーにプレイヤーのポーズが「一致」と認識されるまで、何秒間かかかるため、上げた片足はそのまま上げ続けなければならず、筋肉がプルプルしてくるのだ。ギャラリーからは
「左手はもっと上!」
「認識はされないけど、顔も画面と真似て~」
 などと声が掛かり、ゲーム性は低いというものの、十分楽しめるものに仕上がっていた。

これを機に、自由な発想で新しいものを生み出してほしい

「シェー」のポーズでシャッターが押されるカメラに生徒たちは興味津津

全チームの発表とゲーム体験が終了後、秋田・島崎・渡邉の3講師が作った自動シャッター装置付きカメラで、参加者全員の記念撮影をした。これは、Kinect for Windows センサーの前で、有名な漫画作品に登場する「シェー」のポーズをとると、Scratchで作成したプログラムが「シェー」のポーズを認識し、自動的にカメラのシャッターを押すという仕組み。生徒たちは撮影前から装置に興味津津。写真に収めたり、実際に触ってみたりと興奮気味だった。

最後に秋田講師からのコメントがあった。
「私たちの身の回りには、スマートフォンやタブレットPCなどが普及し、画面を指やペンで触れて、あるいは音声を認識させて、ほとんどの操作を行うことができるようになっています。このようにキーボードやマウスがなくても、様々なセンサーを組み合わせることにより、使い方は無限に広がる可能性があります。約10年前に作られた映画『マイノリティ・リポート』には、人間のジェスチャーでコンピュータが動くシーンが出てきて、当時“えっ、こんなことができるの!?”と思いましたが、10年経った今はそれが現実になりました。今回の講座を機会に“こんなものがあったらいいな”と思うものを自由に発想し、新しいものを生み出していってください。10年後には実現できるかもしれませんよ」。
 Kinect for Windows センサーとScratchを使って、楽しみながらフィジカルコンピューティングを学んだ生徒たちは、最後まで集中が途切れることなく、講師の話にも耳を傾けていた。

講師に聞く

産学連携型の講座は、キャリア教育の機会にもなる

増山 一光

増山 一光 教諭

(神奈川県立神奈川総合産業高等学校 商業科 総合企画推進グループ SSH事務局 教諭)

本校は平成21年度よりスーパーサイエンスハイスクールに指定され、初年度から特別講座を毎年1月頃に開催してきました。テーマはその都度異なりますが、産業界と連携をとり、講師として民間企業の方に来ていただくこととしています。興味のある生徒が自由に参加することから、学習のモチベーションを上げることに苦労したことはありません。今年も、生徒たちは平日の空き時間などを利用してプログラミングに励んでいました。

今回のテーマは、「フィジカルコンピューティングを学ぶ」。ちょうどスマートフォンなどが普及し、コンピュータを従来のキーボードやマウスではなく、液晶画面に触れて、あるいは音声入力して操作することが日常的になりました。そこで、そのセンサーとプログラムの仕組みを、実践を通して学び、理解してもらい、そして将来、生徒が新しいものを創り出すための種まきになればと考えました。参加した生徒たちの様子や、できあがった作品を見ますと、目的は達成できたのではないかと思います。

産学連携型の講座は、生徒が社会人の方から直接授業を受けられるので、将来の仕事について考える機会にもなり、キャリア教育としても大事な時間となっています。ただ、講師の方の仕事の都合上、休日開催となり、生徒の参加人数が少ないことが課題です。来年度以降は平日の開催についても検討してみたいと思っています。(談)

*Microsoft、Kinect、Windows、Windows ロゴ、Xbox、Xbox 360、Xbox LIVE、Xbox 関連ロゴは、米国 Microsoft Corporation および/またはその関連会社の商標または登録商標です。
*Windowsの正式名称は、Microsoft Windows Operating Systemです。

取材・文:菅原然子/写真:赤石 仁

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