2012.08.21
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「辞書引き学習」以外にもさまざまな指導法を実践(vol.2) 子どもたちをよくするため、ブレない教育を目指して ― さいたま市立東宮下小学校・菊池健一 教諭 ― 後編

「辞書引き学習」がシンプルでありながら、さまざまな効果をもたらすことは、菊池健一教諭の授業を見て感じ取れた。ではなぜ、この学習法を取り入れたのか。単に流行の学習法だからというわけではない。目の前の子どもたちに有効な指導方法はないかと、日々アンテナを張っていたからこその出会いだった。菊池教諭にお話を伺った。

授業者に聞く

「辞書引き学習」には指導が困難な子も集中して取り組めた!

学習成果が目に見えるのが利点

学びの場.com(以下、学びの場) 国語辞書を引いて付箋を貼ることに、どんな効果があるのですか?

菊池教諭(以下、菊池) 何より学習した成果が目で見て分かるのが利点です。必ずしも最初に引いた時に、その説明を覚える必要はありません。2度目に引いた時、付箋が貼ってあると「前にも引いたんだ」ということが分かります。(辞書引き学習を提唱した中部大学准教授の)深谷圭助先生も「1000語くらいまでは意味が分からなくてもどんどん引かせてください」とおっしゃっていました。そうすると、どこに何が載っているかが分かってくるのだそうです。辞書は、基本的には学校に置いておくことを認めているのですが、家に持ち帰って引く子も少なくありません。3000枚くらい貼ると辞書の縫製が壊れてしまって、半年で次の辞書を購入する子もいます。昨年度は2年生で行ったのですが、3冊使った子もいました。

学びの場 辞書の購入だけでなく、付箋も大量に使います。家庭の協力も必要ですね。

菊池 意外にも、保護者の方々はみな好意的でした。話題の学習法ということで、関心も高かったからだと思います。

意欲化や読解力の向上を目指して

学びの場 今後、学校全体としてどのように取り組むのでしょうか。

菊池 今年度から学校課題研究(さいたま市教委指定、2年間)として、読解力と食育を研究テーマに据えました。さいたま市ぐるみで取り組んでいるNIE(教育に新聞を)を取り入れながら進めるのですが、そのベースとして辞書引き学習を導入することにしました。6月29日の校内研修に深谷先生に来ていただき(来校は2度目)、それが本格的なスタートになります。

学びの場 辞書引き学習によって子どもたちに身につけてほしい力は何ですか。

菊池 研究の視点は五つあります。第一に「意欲化」。自分で勉強できる子を育てたいのです。二つ目は「読解力」。本校は全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題(主に活用)に課題があります。読解力のベースとなる語彙(ごい)力を高めたいと考えています。三つ目は、調べ学習のベースにすること。子どもたちは何をどう調べたらいいか分からないことが多いので、まず辞書を引いて関係するところを探る手がかりにさせています。四つ目は、指導が困難な子どもにも効果的であること。実際、嫌がる子は一人もいませんでした。自分なりに引けるので自信がつき、自尊心を持たせられるようです。五つ目は、辞書の音読を通して話し方の練習になることをねらっています。

今後も、2年生以上から取り入れ、4年生以上は漢和辞典も使い、木曜朝の「チャレンジ国語」(教育課程外)を中心に、月曜朝の「NIEタイム」で記事の分からない言葉を調べたり、また国語以外の理科や社会など各教科の授業の中でも活用したりする予定です。

自分も楽しんで取り組むことが大切

学びの場 辞書引き学習との個人的な出会いは、どういうものだったのでしょう。

菊池 そういう学習法があるのは前から知っていたのですが、最初は関心がありませんでした。私自身、子ども時代は辞書があまり好きではなかったので(笑)。しかし指導が大変な子どもがクラスに何人かいて(特別な配慮が必要な児童の在籍数全国平均6.3%を上回る)、どうしても授業に集中させられない。そこで子どもが喜んで取り組めて、力もつく学習法はないかと探していた時、たまたま出版社が主催する辞書引き学習の講習会があったのです。参加したその場で深谷先生から「学校に指導に行ってあげるよ」と言っていただきました。授業に取り入れてから子どもたちはすぐ夢中になり、お風呂に入る間も惜しんで辞書を引いていた子もいると保護者から聞きました。指導が困難な子も席に座っていられるようになりました。

学びの場 菊池先生はNIEに取り組んだのも早かったそうですね。他にもさまざまな指導方法を取り入れていらっしゃると聞きました。

菊池 NIEは市全体で取り組むということで、前任校で研究主任として始めたもので、やっていくうちに面白くなりました。Q-U(河村茂雄・早大教授が開発した「楽しい学校生活を送るためのアンケート」)は埼玉県教育委員の原田隆史先生(元大阪市立中教諭、原田教育研究所社長)が主宰している教師塾で課題に取り上げられたものです。

菊池教諭の「学級の教科書」、表紙(左)と中身(右)

「学級の教科書」は教師塾での学びを通して考えた私のオリジナルで、ブレない指導をするために、クラスのルールを一冊にまとめて年度当初に配っています。子どもたちが写真を貼ったり思い出を書いたりするノートも兼ねています。

教育には具体的な手立てとともに、教師としてブレない一つの軸が必要だと考えています。私の場合は、子どもをよくしたいという思いと、あとは自分自身が取り組んでみて「これは面白い」と感じられるものを軸にしています。

記者の目

取材中も笑顔を絶やさない菊池教諭だが、これまでには学級経営や指導をめぐって相当な苦労もあったと聞く。しかし、そんな素振りは全く見せずに日々子どもたちにも笑顔で接し、具体的な手立てと信念を持って指導に当たっていく。物腰の柔らかさの裏に、教師という仕事の厳しさと高度さを改めて感じさせられた。

取材・文:渡辺敦司/写真:言美歩

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