2012.06.05
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読書通帳を活用した読書活動推進プログラムに参画 江戸川区立上一色中学校

江戸川区立上一色中学校で「ICTを活用した読書通帳による『読書大好き日本一』推進事業」(平成23年度文部科学省「ICTの活用による生涯学習支援事業」の実証的調査研究)が実施された。生徒の読書量の増加や読書分野の多様化等を目指した読者活動の推進にあたり、読書量や読書分野を可視化できる読書通帳を活用したプログラムの実施や、その取り組みを評価する仕組みについて、ICT活用によるデータ解析やアンケート調査の結果等に基づく実施方法を検証した。

「読書通帳」の活用と読書活動推進プログラム

昨今、公共図書館では、プライバシーの保護に十分に配慮しながら、ICTを活用して個々の読書履歴を記録する読書通帳を導入している先行例(下関市等)があり、利用者の読書意欲の向上に貢献している。

しかし、学校図書館のICT活用は、資料検索や貸出管理を中心とした役割を担うための図書管理用システムの導入に留っている現状である。ICTを活用した生徒個々の読書履歴と連動した読書活動推進への取り組みは、学校図書館ではほとんど行われてこなかった。

リニューアルした江戸川区立上一色中学校の図書館

そこで、江戸川区立上一色中学校の学校図書館のリニューアルと並行して、全国初の学校図書館での「読書通帳」を活用した実証的調査研究を実施することとなった。

読書通帳は貸出情報を簡易に記帳でき、生徒自身が読書履歴をいつでも一覧することができる。また、記帳する貸出情報データの活用により時系列や学年、図書区分等に応じたデータ分析を可能とし、読書活動推進プログラムのPDCAサイクルの確立のためのツールとしての役割が期待されている。

読書活動推進プログラムの実践にあたり…

図書カウンター横に設置された読書通帳機

江戸川区立上一色中学校では、平成23年度から、校内研究(江戸川区研究奨励校)として「読書活動の推進」に取り組んでおり、その一環として、学校長の主導のもと、生徒、地域ボランティア、専門家の支援により学校図書館のリニューアルに取り組んでいた。

加えて、この校内研究と並行して文部科学省事業の実証的調査研究に取り組んだ。コーディネーターとして株式会社日本総合研究所が調査実施マネジメントを担い、読書通帳の活用と読書活動推進プログラムの実践とその評価を行なった。実践に際しては、調査研究委員会を設置し、座長に大串夏身氏(昭和女子大学教授)を迎え、委員として赤木かん子氏(児童文学評論家)、上一色中学校校長・教諭、江戸川区教育委員会、江戸川区立中央図書館館長らが就任した。

学校長の話

読書活動のけん引役を期待

上一色中学校は、文「部」両道を掲げています。私たちのいう“文「部」”は、一つは勉学、もう一つは部活動等集中できるものです。生徒たちは部活動には熱 心に取り組みますが、学習意欲が不足していることが課題でした。そこで検討されたのが「ICTの活用による生涯学習支援事業」の、読書通帳を用いた実証実 験への参加です。読書通帳を活用することで読書量が増え、知的好奇心を喚起し、学習意欲が高まるのではないかと考えて実証実験の参加に踏み切ったのです。

文「部」両道の証、トロフィーや優勝旗がズラリ

読書通帳には、図書室で借りた本のタイトルが記載されます。また、その本を何番目に借りたかも分かるようになっています。借りた本の履歴が残ることは、生徒にとって読書への励みとなるとともに、その履歴をもとに次に読む本のアドバイスをもらえるという利点があります。一方では、プライバシーの問題もあります。本の履歴は個人情報となりますので、通帳を落とした時のことを考え、誰のものかすぐに分からないような工夫をしました。さらに、机の上に通帳を置いていても開いて中が見えないように、通帳ケースに入れることにしました。公共図書館から週に1回程度リーディングアドバイザーに来ていただき、希望者にはアドバイスをしていただくなど読書意欲の向上のために工夫をしました。

コーディネーターの話

読書通帳がひろげる読書コミュニケーションの可能性

今回の事業では、読書通帳の設置、活用について株式会社内田洋行の技術的支援をあおぎ、私たち株式会社日本総合研究所が事業の全体のコーディネートを行いました。

リニューアルした学校図書館に、平成23年11月に読書通帳プリンタを設置しました。事前に図書委員向けの説明会を開催し、使い方のレクチャーをしています。プライバシーへの配慮もあり、読書通帳に個人名の記載はしていませんが、生徒たちはプリンタから記帳されて出てくる「自分だけの読書通帳」に興味津々の様子でした。

読書通帳機に差し込み、記帳する

効果の確認のための生徒へのインタビューでは、記帳された読書通帳を見せ合い「この本、面白いよ」というやりとりを楽しむなど、生徒間のコミュニケーションツールとして活用した、という声もありました。

今回は上一色中学校だけでの取り組みでしたが、今後、各地の学校図書館、公共図書館での読書通帳の導入の広がりが、学校内だけでなく、家庭や地域での読書環境を豊かにするコミュニケーションツールとなる可能性があると考えられます。

推薦図書リスト配布と読書アドバイスの実践

上一色中学校では、読書通帳の活用とあわせて、推薦図書リストの配布や読書アドバイスを行いました。読書活動推進は、学校内だけの取り組みに留まらず、家庭や教育委員会、地域の図書館等と連携をしながら進めることに意義があると考えました。そこで、中学生に読んで欲しい図書を生徒や教員だけでなく家族からも、それぞれの立場から紹介いただき、その中から候補の図書を絞り込み、学校図書館づくりの専門家でもある赤木かん子先生に監修をお願いして推薦図書リストを作り上げました。今回は、毎月1回の頻度で計3回の配布を行ないました。地域と連携して実施した読書アドバイスでは、赤木かん子先生と江戸川区立中央図書館の司書の方に協力いただき、約2ヶ月の間に週1回程度、アドバイスを希望する生徒に読書通帳を見ながら直接にお薦めの本を紹介してもらいました。

実証期間が短期間ではありましたが、読書対象の多様化への効果や地域との連携に際しての課題などが見えてきています。今後、上一色中学校や江戸川区での継続した取り組みや、他校への広がりによって、蓄積した推薦図書リストデータや読書アドバイスアーカイブが、学校や家庭環境、社会での読書環境の充実につながっていくものと考えています。

ICTを活用した読書活動推進プログラム評価の確立に向けて

これまでも学校教育の場では、個別の読書履歴を振り返ることのできるツールとして、手書きによる読書ノートなどが普及していました。一方、読書通帳は、 個々人の読書履歴を「見える化」(可視化)する点では読書ノートと同じツールですが、記帳が貸出情報等の図書管理用ITシステムと連携しています。読書通 帳と貸出情報データの連携による相乗効果で、個々人の読書履歴を「見える化」しつつ、その傾向を様々な分類でデジタルデータで把握することができます。そ こには、ICTを活用した読書通帳が様々な読書活動推進プログラムの効果測定ツールとなる可能性を秘めています。

全国の学校で、読書活動に関わるICTの活用が進み、読書活動を直接的に評価する指標(例:貸出冊数の変化、読書分野の多様化等)の構築ができれば、より効果的な読書活動推進プログラムを実行できる可能性が高くなります。また、生徒や教員へのアンケート調査等も利用し、読書活動の間接的な評価指標(例:読解力の向上、地域の文化・学習活動の広がり等)も取り入れることで、読書活動推進プログラムの総合的な評価が可能となります。将来的には、ICTを活用した読書活動推進プログラムと、PISA読解力など国際的な指標との連動も視野に入れられるのではないでしょうか。

また、読書通帳の導入とあわせて、公共図書館で普及する図書管理用ITシステムと学校図書館の図書管理用ITシステムの連携が可能となれば、学校図書館と公共図書館が連携した選書や読書指導等の可能性が広がります。

今回の上一色中学校での実証研究調査では、ICTを活用した読書活動推進プログラム評価の確立に向け、大きなはじめの一歩を踏み出せたといえるでしょう。

コーディネーター:株式会社日本総合研究所 総合研究部門 都市・地域経営戦略グループ コンサルタント 牛島美友・永見真利子・細谷智規

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