2012.05.22
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フューチャースクールの実践に見る、 ICTで深まる学び ―広島市立藤の木小学校―

広島市立藤の木小学校は総務省「フューチャースクール推進事業」に参画し、「ICTを利活用した協働教育」の実証に取り組んでいる。校内LANを完備し、すべての普通教室に電子黒板、児童一人1台のタブレットPCを導入している。デジタル教科書(指導者用)をはじめ、フラッシュ型教材、映像コンテンツなどのデジタルコンテンツや、Power Pointなどのオフィスソフトで教員が自作した教材を使った授業が日常的に行われている。今回は、6年生社会の授業をリポートする。

実況リポート

授業でICTをどう活用したか?

学年・教科: 6年生社会科
単元: 「わたしたちのくらしと日本国憲法」
指導者: 有馬朝路 教諭
使用教材・教具: 電子黒板、実物投影機、タブレットPC、デジタル教科書(指導者用)、自作ワークシート

まずは自分たちで考えさせ、大画面で答えを共有する

「これは何ですか?」
 担任の有馬朝路教諭が健康保険証の実物を見せて尋ねる。
「保険証!」
 と児童たちから元気な声が返ってくる。
「どんなときに使う?」
 と教諭。
「病院に行くとき」
 と児童たち。テンポのよいやりとりが続く。
「では病院に行って、治療に1万円かかったとします。保険証を使ったら、いくら払えばいいでしょうか。ノートに書いてください」
 教諭はしばらく考える時間を取ってから、発表させる。
「5,000円」
「9,000円」
「8,000円」
「0円」
 と、児童たちは次々挙手をして答える。健康保険証があれば全額を支払わなくていいことは知っているようだ。

次に、教諭は保険証があれば全額を支払う必要がないことを確認した上で、
「では残りは誰が払ってくれるのでしょうか?」
 とさらに発問。
「国から」
「病院から」
「病院からだったら病院が赤字になってしまうよ!」
 児童たちから一通り意見が出たところで電子黒板に図を提示し、健康保険の仕組みを紹介する。
「これを健康保険制度といいます。今日は、なぜ健康保険制度があるのかを考えます」
 ここで、今日のめあて「なぜ健康保険制度があるのか」を板書する。

ノートに考えを書き、電子黒板で共有し、黒板でまとめる

そして、「なぜ健康保険制度があるのか」の予想をノートに書かせ、発表させる。児童たちからは、
「病院に行きやすくする」
「お金の負担を少なくする」
「お金が払えなくて治療できないと、伝染病が広がって大変だから」
 などの意見が出る。
 ここで有馬教諭はプリントを配り、同じものを、実物投影機で電子黒板にも投影する。プリントには、「憲法第三章国民の権利及び義務」の第11条~32条が書かれている。
「実は、憲法の中で、あることを保障しているからです。あることとは何か、これから配るプリントを見て、憲法の第何条にそれが書かれているか見つけて○をつけてください」
 まず、児童一人ひとりに考えさせ、次に班で話し合わせて班長が発表するという流れだ。

班ごとの発表後、「生存権」という言葉から、答えは憲法25条であることがわかる。教諭は、電子黒板に映された憲法25条を指しながら、
「第25条で保障されているのは『人間が生まれながらにしてもっている人間らしくいきる権利』=基本的人権です」
 とまとめ、さらに黒板に、25条の内容をあらかじめ紙に書いたものを貼り全員で確認する。
「日本国憲法には、三つの原則があります。これまでに習っていますが、それは何でしたか?」
 と教諭。児童たちからは、
「主権在民」
「平和主義」
 の声があがる。
「そうですね。それに、今言った、『基本的人権の尊重』があります」
 そう言って、電子黒板で三つの原則を提示する。

タブレットPCに、タッチペンで考えを書き込む

ここまでは、児童たちは机の上に教科書とノート、鉛筆を置いて授業を受けていたが、いよいよタブレットPCの出番となる。
「これから基本的人権にはどんなものがあるか考えてみましょう。パソコンを出してください。パソコン以外のものは全部しまってください」
 と有馬教諭。PCのデスクトップ上にある「社会フォルダ」には、あらかじめワークシートが入れてある。電子黒板で児童たちのPCと同じ画面を提示し、
「『基本的人権ファイル』を開いてください。開いたら、タッチパネルにしてください」
 と指示する。児童たちは慣れた様子でファイルを開き、パソコンのモニタ面を回転させる。ノートパソコンがタブレットPCとして使えるようになるのだ。教諭の適切な指示で、児童たちは混乱したりざわつくことなく、すぐ作業ができる態勢が整った。
 開いたファイルには赤ん坊の絵が描いてある。教諭の指示で、この絵のまわりにタッチペンで、基本的人権には何があるか、思いつくことを書いていく。ここでも再び、一人ひとりで作業をさせてから、その後、班で互いの画面を見せながら話し合うよう指示する。

自分のPCの画面を電子黒板で共有し発表する

ここで発表となる。指名された児童は、PC側面のボタンを押すと電子黒板に自分の画面が提示される。それをみんなに見せながら発表する。

学校に行く権利、食べる権利、自由に生きる権利、感情表現の権利、仕事をする権利、児童を育てる権利、政治に参加する権利、裁判をする権利……などの意見が出る。有馬教諭は、それらを板書にまとめる。

デジタル教科書で学習内容をまとめる

まとめとして、デジタル教科書の、基本的人権についてまとめたページを電子黒板で提示し、クラス全員で共有する。 最後に、めあての「なぜ健康保険制度があるのか」について、ノートに文章でまとめさせる。確認のため、有馬教諭が「人々の基本的人権を保障するため」と板書をして、授業は終了した。

授業後、児童たちに本日のICTを使った授業についての感想を聞いた。
「タッチペンで書くのは楽しい」
「操作はすぐ慣れた」
「電子黒板で教えてくれるとわかりやすいし覚えやすい」
「他の子の考えが見られたり、自分の考えを映して発表したりできるのは楽しい」
 など、みんな目を輝かせて答えてくれた。

授業を振り返って

ICT活用により“教員主導型”から“児童主導型”の授業へ

広島市立藤の木小学校 堀 達司 校長

学びの場.com(以下、学びの場) 電子黒板や、実物投影機、タブレットPCの使用が、授業の流れの中に自然に溶け込み、テンポを乱すことなくスムーズに行われたことに驚きました。

堀達司 校長(以下、) 成功の要因は、教員の研修を徹底的に行い、授業を改善してきたこと。たとえば、授業で必要なファイルを開くという作業を一つとっても、指示命令が多いとなかなかできない。ファイルの置き場所、名称など、一つ一つ検討し、授業のスタイルを作り上げました。

学びの場 児童たちが勝手にパソコンをいじったりせず、授業に集中していたことも感心しました。

 教員の指導力によるところが大きいと思います。ペンを置きなさいと言われたら置く、PCをしまいなさいと言われたらしまう、というルールをしっかり守るよう指導を徹底することが大事です。

学びの場 授業のどの段階でICTを活用すればいいのかに悩む教員もいると思いますが。

広島市立藤の木小学校 有馬 朝路 教諭

有馬朝路 教諭(以下、有馬) 最初はとにかくICTを使わなければという思いが先立っていましたが、実践を重ねたり、他の先生の実践を見たりするうち、どういう場面で使えば効果的かを考えながら活用できるようになりました。

学びの場 ICTの活用によって何が変わりましたか?

有馬 ICTを使う前の授業は教師が一方的に説明する、“教員主導型”の授業。ICTを活用するようになってからは、児童たちの発言が増え“児童主導型”の授業になりました。また、大画面で、視覚的にわかりやすい授業が可能になり、児童たちの学力の向上にもつながりました。資料を配ったり一人ひとり前に出て発表させたりする時間が省略されて時間に余裕が生まれ、授業内容を深めることができるようになりました。

学びの場 課題はありますか?

 授業でICTを使うときに一番大切なことは、トラブルがないこと。授業中にフリーズして再起動に時間がかかるようでは実用化するのは難しい。

有馬 ICT環境が整備されると次に大切なのはコンテンツですが、まだまだ足りません。日頃は自作の教材を使っていますが、コンテンツがもっと充実するといいですね。

記者の目

授業のどこでICTを使うかがよく考えられていて、授業の流れがスムーズだったことに驚いた。また、思いつきを書くときにはタブレットPC、最後にまとめるときは黒板やノートに書くというように、デジタルとアナログの使い分けもよく考えられていた。児童たちが大画面で自分の考えを見せながらの発表を楽しむようになり、発言のセンテンスも長くなったという校長先生の言葉は印象的だった。

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