国語読解指導からつなげる授業づくり・学級づくり すべての教育活動を一つの流れに:群馬県富岡市立一ノ宮小学校・大谷雅昭 教諭

国語の読解指導がなぜ学級づくりにつながるのか? そんな疑問を抱えながら群馬県富岡市立一ノ宮小学校の大谷雅昭教諭の実践を取材した。授業冒頭、「えっ、体育?」と錯覚するほどの子どもたちの大きな声と動き、2年生とは思えないような一体感。ここに同教諭の独自の教育哲学・実践「イメージ音読(理解を伴う表現読み)」、「モヂカラ(自立した読みへの技術)」、そして「まるごと教育」があった。その中身を授業リポートと大谷教諭へのインタビューで紹介する。
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国語の読解指導がなぜ学級づくりにつながるのか? そんな疑問を抱えながら群馬県富岡市立一ノ宮小学校の大谷雅昭教諭の実践を取材した。授業冒頭、「えっ、体育?」と錯覚するほどの子どもたちの大きな声と動き、2年生とは思えないような一体感。ここに同教諭の独自の教育哲学・実践「イメージ音読(理解を伴う表現読み)」、「モヂカラ(自立した読みへの技術)」、そして「まるごと教育」があった。その中身を授業リポートと大谷教諭へのインタビューで紹介する。
■学年・教科:2年生国語科(児童24名)
■単元:本と友だちになろう(全14時間) ■教材:レオ・レオニ 作『スイミー』(光村図書出版2年上巻「たんぽぽ」より) ■本時の学習:課題追究・課題解決、第4場面の前半(8時間目) ■ねらい:様子や気持ちの対比を「イメージ音読」することで、想像を広げながら読むことができる。 ■指導者:大谷雅昭 教諭(学級担任) ■使用教具:電子黒板、フラッシュカードなど ウォーミングアップのための音読暗唱![]() 大谷教諭「春暁!」 ![]() 冒頭から次々と、子どもたちの元気な声が一斉に響く。 新出漢字の学習「一筆奏上」![]() 5分かけて学習へ向かう態度を十分暖めた後、大谷教諭が ![]() 教室には漢字の成り立ちや書き順を説明したカードが常に掲示されている 「(雲の)云の形は、何から来ているかな?(窓の外の梅雨空を眺めて)今日、いっぱいあるのになぁ……」 ![]() その後、子どもたちは二人一組になって指運をしながら書き順を確認。大谷教諭は形に気をつけさせながら各自ノートに練習させていく。既に学習した漢字の成り立ちカードは、教室の後ろに貼ってある。こうやって、モヂカラを身につけさせようというわけだ。 すでに授業開始から18分が経過。基礎・基本の徹底にも時間を掛けるのが、大谷流だ。
課題の確認と追究![]() 前時までのノートを見て学習課題を確認する 「いま国語で勉強しているのは?」 ![]() さらに前時までの場面をイメ音して確認 「じゃあ、次の質問です。『スイミー』の登場人物は?」 ![]() 第4場面で「岩陰はどんな所?」の発問に自分のイメージした情景を説明する児童 倒置法が使われている部分にも、普通の言い方に置き換えさせ、なぜそのような表現をしたか意見を出し合った後で、倒置法らしいイメ音を工夫させる。子どもたちも、身近なイスなどを利用して情景を説明しようと一生懸命だ。自分で考えさせ、声に出すことで、読解と音読が一体になって、理解が深まっていく。 ![]() 最後に、全員で第4場面前半を音読。チャイムが鳴った後も、子どもたちは口々に「出てこいよ……」と、うまく読めなかった部分をつぶやいていた。授業の感想を聞くと、
![]() 群馬県富岡市立一ノ宮小学校 大谷雅昭 教諭 自称“群馬の凡人教師” 理解を深め、人間関係も育てる“イメージ音読”学びの場.com(以下、学びの場) なぜ「イメ音」なのですか。 ![]() 大谷雅昭 教諭(以下、大谷) 「イメージだけで読んでいると、学力はつかない」という人もいますが、今の子どもはイメージすら持てないこともあります。知識という「モノ」を持たせることも重要ですが、たくさん持っただけで満足してしまう。一方で、自分を出していいかどうかわからない子も少なくありません。そこで授業の中で“合法的に”立ち歩かせ、思い切り表現させようと考えました。個で考えて読み、さらにみんなで読むことで、クラスに一体感を持たせ、教え合い、学び合い、認め合うような学級文化づくりを目指すのがイメ音であり、私の教育哲学・実践の「まるごと教育」なのです。 学びの場 先生の手法は、国語といった教科や、2年生という学年には限らない、ということですが。 ![]() 大谷 例えば社会でも、まず「そもそも社会科って、何を勉強するの?」という問い掛けから始めます。最初はまともに答えられませんが、教えてこなかったのだから当然ですよね。「教科書にあるから」というのではなく、何を勉強するのか、何を勉強したいのか、という思いを、まず感じてほしい。それが、その後の「学びの核(コア)」になると考えています。 イメ音の手法は、学年が違っても基本的に変えません。意識して読ませることで、正しい理解につながると思います。学習のほとんどは、文字を通して行うものです。文字に対する抵抗感がなくなれば、学習も楽しくなるはずです。 ![]() 声に出して読みながら、根本や本質を子どもたちに考えさせ、一人ひとりの腑に落としていく。そうやって各教科、各単元で根付いたコアがつながっていけば、子どもは伸びていく。そうしたコアをつくり、つなげる仕掛けが、授業だと考えています。これを私は「コア・ネットワーク・プラン」と呼び、日々実践中です。
“凡人”の仕事が、公教育を担う![]() 学びの場 先生の名刺には、「群馬の凡人教師」という肩書きが刷ってあります(笑)。先生の実践は、教師としてのキャリアや体験も反映していると聞きましたが。 大谷 もともと理学部卒で、中学校の免許しか持っていませんでした。群馬県の採用試験を受けた時、「小学校の免許も必要だ。採用後5年のうちに取れ」と言われて通信教育で取得し、3校目から小学校に異動しました。中学校からスタートしたので、9年間を見通した学びの基礎を育てたい、という思いは今も強いですね。 ![]() そんな経歴もあって20数年間、経験を元にした教師主導の一方的な学級づくり・授業づくりを続けてきました。それが6~7年前に担任していた5年生の一部の子どもたちから反発を受けて、半学級崩壊状態になり、休職しようと思い詰めました。何とか持ちこたえて「来年もう一度チャレンジさせてくれ」と校長に懇願したのですが、認められず異動になりました。そんな挫折の経験から「自分を変えたい」と思うようになり、さまざまな有料・無料の研修会やセミナーに参加する「年間50日教師修行の旅」に出たのです。 ![]() 多くの名人や鉄人と呼ばれる先生方に学び、目からうろこが落ちる気持ちでした。そこで、自分は自分なりの教育哲学を持っていなかったと気付いたのです。今は技術より哲学だと思っています。 ![]() 学びの場 一つの研究会や名人のメソッドに頼らず、あえてオリジナルにこだわっているのはなぜですか。 大谷 一つでは満足できない、という性格もあります(笑)。名人と呼ばれる先生の実践を見てすごいと思いましたが、とてもこの歳ではついていけません。それでも自分なりの確固としたオリジナルの教育実践があれば、ぶれることはないのではないかと考えました。 以前赴任していた学校の校長先生が、「大谷先生は『学びの達人』ですね」と言ってくれました。教師も学び続け、成長し続けるよう、努力しなければいけないと思います。 ![]() 凡人でも、凡人なりに学んだことを蓄積しています。それに、凡人の実践だからこそ、シンプルであり、より本質的でもあるので、誰でも容易に追実践ができると思っています。特に、これから増えてくる若い先生方に、肩の荷を降ろして、「こんなやり方もあるよ」と問い掛けられたらいいと思っています。
![]() 取材を進めるほどに大谷先生の実践は、読解力や表現力を重視しながら「確かな学力」と「生きる力」、「豊かな心」のバランスを目指す新学習指導要領の趣旨を、驚くほど先取りしているように思えてならなかった。ところがご本人には、その自覚はほとんどないようだ。結局、目の前の子どもたちに何が必要かを真剣に考えれば、目指すべきところは自ずと一致するのだろう。 取材・文:渡辺 敦司/写真:言美 歩 ※写真の無断使用を禁じます。 |
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