「食事バランスガイド」活用授業 小学校家庭科実践例――日野市立仲田小学校
「食事バランスガイド」は平成17年に厚生労働省と農林水産省の共同により策定された「一日に何をどれだけ食べればよいか」の目安をわかりやすくイラストで示したもの。今回は、これを教材として活用した小学校家庭科授業をリポート。栄養的にバランスのとれた食事内容と量というやや難解な内容を、電子黒板を駆使して子どもたちの理解へと結びつけていた。
「食事バランスガイド」は平成17年に厚生労働省と農林水産省の共同により策定された「一日に何をどれだけ食べればよいか」の目安をわかりやすくイラストで示したもの。今回は、これを教材として活用した小学校家庭科授業をリポート。栄養的にバランスのとれた食事内容と量というやや難解な内容を、電子黒板を駆使して子どもたちの理解へと結びつけていた。
■学年・教科:6年生家庭科(児童30名)
■単元:まかせてね! きょうのごはん(全11時間) ■指導者:食べ物の組み合わせを考えよう(2時間目) ■ねらい:食べ物を組み合わせるときには、好きなものだけでなく「何をどれだけ食べたらよいのか」を考える。 ■指導者:宮鍋和子(栄養教諭)、菊池靜枝(家庭科担当・非常勤教員) ■使用教材・教具:「食事バランスガイド」※を利用した自作教材(Power Point使用)、ワークシート、ノートPC、プロジェクター、電子黒板など 食事バランスガイドとは? 「皆さんは、こんなコマの絵を見たことがありますか?」 これは第6学年家庭科「まかせてね! きょうのごはん」の2時間目の授業、「食事バランスガイド」を使って、何をどれだけ食べたらよいかを考える学習活動のワンシーン。食品を主食・主菜・副菜+果物・牛乳に分類し、それぞれを赤・黄・緑色などのシールに対応させ、それらが給食の容器で何皿分や何杯分に相当するかでシールの枚数を決める。そして、食事バランスガイドに描かれた「バランスゴマ」というコマの絵にシールを貼って色づけしていく。 こうして3つの食品群や摂取量を子どもたちに意識させながら、栄養バランスを考えさせることができる。バランスよく色がついて完成すると、スクリーン上のコマが回転するという仕組みだ。 栄養教諭の宮鍋先生が口頭で説明しながら、プロジェクターから映し出された大きなコマに電子黒板専用のペンで軽くタッチしていくと、その動きに合わせシールと同じ赤・黄・緑などの色がスムーズについていく。瞬間的に答がわかる。 バランスゴマの使い方を知ろう! まずは、バランスゴマの使い方を子どもたちに理解させなくてはならない。 「先生の朝ごはんは、ご飯・納豆・味噌汁でした。これはどうなるかを試してみましょう」 「5分あげるので、シールを貼ってそれぞれの班ごとにコマの色を完成させてみてください」 答え合わせ! 皆の栄養バランスは? シチューやカレーなどさまざまな料理を主食・主菜・副菜と分類するのはけっこう難しい作業だ。大人でも「はて?」と首をかしげてしまう。それに難問は量の点だ。もともとの「摂取量=SV(SERVING)」という単位を使っては到底子どもたちは理解できない。そこで宮鍋先生は一つの工夫をした。 「おにぎりを追加したいな」 「よく考えて選んでくれたので、夕食のバランスはよかったですね。でも、コマは回りません。実はこの原因は先生の朝食にあります。寝坊してしまって、ご飯と味噌汁・納豆しか食べなかったので副菜が不足してしまいました。だから、夕食でいくらバランスよく食べてもコマの色をうまく埋められなかったのです。1食分だけを考えるのではなく、朝昼夜、3食全体でバランスを考えることが大切ですね」。 カツとカレーを組み合わせると… 次の班は、 「先生はこのカツの量をお皿3つ分と数えました。カレーにもお肉が多く入っていますので、2つ分としました。どうですか、このカツの写真を見ると、給食の小鉢に入っているカツと比べて、かなり大きくないですか? 数えるときには大きさに注意してくださいね」。 10年、20年後の体のことも考えて 3番目の班の答は合っていたが、 「先生は最近心配していることがあります。それは、主食を減らしてダイエットをしようとする人が増えていることです。皆さんの中にそんな人はいませんか? 今は問題がないように思えても、それは10年後20年後に影響することがわかってきています。だから、ずっと元気でいるためにも主食はしっかり食べてほしいのです」
栄養バランスを考えるには最適の教材――食事バランスガイドを教材として使おうと思ったきっかけは何でしょうか? 宮鍋和子 栄養教諭 宮鍋 もともと食事バランスガイドができた平成17年から、栄養バランスを子どもたちにわかりやすく教えるのに最適の教材ではないかと興味を持っていました。教材研究は行っており、またPTAの研修用に使った際に手応えがあったので、家庭科の「栄養を考えた食事」の範囲で主食・主菜・副菜などを勉強するならぜひ使いたいと思っていたのです。 菊池靜枝 非常勤教員(家庭科担当) 菊池 私は、教科書で4ページしかないような単元を11時間にどう膨らませればいいかなと思案していたところ、宮鍋先生に相談したら食事バランスガイドを提案されたのです。「栄養バランスについて学習するのにそんなによい教材があるならそれを使いましょう」となり、宮鍋先生も「ぜひやらせてほしい」となって、すぐに決まりました。 ――実践してみて、いかがでしたか? 宮鍋 子どもたちが教科書に載ってない教材の食事バランスガイドをしっかり活用して、やや難しい題材に取り組んでくれた点は本当によかったです。 菊池 指導のねらい通り、子どもたちは食べ物の組み合わせ方について、真剣に向かいあって考えていましたね。これは私一人ではとてもできなかったと思います。栄養教諭としての宮鍋先生の知識や技術の力のおかげです。とくに、電子黒板を利用して動くバランスゴマなど視覚効果に訴えたことで、子どもたちの目が輝いていたのが本当に印象的でした。 担任と栄養教諭二人の連携プレーが大事――今回の授業の成功の要因はどのあたりになるでしょうか? 菊池 やはり二人の授業前の打ち合わせですね。45分という限られた時間内でスムーズに授業を進めるために、宮鍋先生が授業をやり、私が子どもたちの周りを見て回る、と役割を分担し、細かいセリフや動きも予め決めておきました。もちろんその通り行くことはありませんが、こういった点を準備しておくことは大事でしょうね。 宮鍋 指導計画を立てるときにはベテランの菊池先生から「ここはわかりにくい」や「ここはどうなの?」とどんどんコメントを出してもらいましたし、「わからない子にはこう声かけすればいいのよ」や「こういうことを言うと、子どもは余計にわからなくなっちゃうのよ」といったアドバイスもいただき本当にありがたかったです。 菊池 宮鍋先生は最初、もっとたくさんのことを子どもたちに教えたかったのです。でも、私の経験から「この指導案の内容で45分は無理」と判断し削っていきました。結局、今日の授業はできるだけシンプルにまとめた点がよかったのではないでしょうか。 電子黒板に頼りすぎず、従来の黒板との組み合わせを――ところで、電子黒板を使ってみることを思いついたのはなぜですか? 宮鍋 今まではプリント上で「コマの一番上はこうなっていますね?」などと説明していましたが、せっかくコマの形をしていますし、うまくバランスがとれたら回転するという設定ですから、色や動きをリアルに見せられたらいいなと思いました。日野市では電子黒板が全校に導入されていますので、今回利用することにしました。 ――電子黒板を使う際にどんなところに気をつけましたか? 宮鍋 以前、画像がうまく動かなかったことがあったので、その経験を踏まえて、一応保険としてマグネットなどの通常の黒板で使えるアナログ版の道具も用意しておきました。それで何かあっても大丈夫と、安心して授業に臨めました。 菊池 それと前の時間の内容をしっかり思い出させるために、そのときに使った資料を左半分の通常の黒板に掲示し、説明などを板書できるようにしておきました。やはり電子黒板だけに頼るよりも、両方を効果的に組み合わせることが必要でしょうね。 宮鍋 ただ電子黒板を使う際、どうしてもスクリーンに映る自分の影が気になってしまって、子どもたちの邪魔にならないようにと気を遣っていました。その点も含めて、まだまだ使い慣れていないので、もうちょっと練習する必要があるでしょう。一方、電子黒板のよい点は、その日の授業で使った内容などをデータで記録・保存できるところですね。たとえば今回の授業を見て自分もやってみたいと思った先生には、教材や資料をそのまま渡せて、相手はすぐに利用することができます。 日本中に広めたい食事バランスガイド――今後に向けての課題はありますか? 宮鍋 私は、この食事バランスガイドを東京都全体に、さらに日本全国にも広めたいと思っているのです(笑)。「理解しにくい」という声も聞きますが、教える側が少し工夫すれば大丈夫でしょう。「コマの一番上にある主食はとても重要な食品群で、量はこれだけ必要なんだよ」という目に見える形で図説されていますので、子どもたちの食育には最適な教材だと思います。もちろん、大人にとっても食生活を見直すためのよい媒体になりますので、多くの人々に知ってもらいたいですね。 菊池 食育は何もこの単元をやったからすぐに身につくというものではありません。やはり食育の基盤は家庭にありますから。また、学校農園で栽培している野菜は地域の皆さんの手厚いサポートのおかげで、ニンジンやトウモロコシ、ゴーヤなどが立派に育ち、給食の献立にものぼっています。そんな中、家庭科の授業は、仲田小学校における食育の実践の一つとして、これからも積極的に取り組んでいこうと思います。 内容、方法共にチャレンジ色の強い授業ではあったが、面白かったという子どもたちの感想を素直に支持したい。指導者二人が難しい単元をよくまとめていたし、とくに大人も惹きつけられた回るコマは見事だった。工夫次第でこの授業はもっと深めていくことができるだろう。もちろん日野市のICT事業、農業・食育政策にも注目したい。今後の自治体の文教施策の一つのモデルたり得るものと言えよう。総じて、今回の授業の成功は、ICT機器、日野市、そして二人の先生の力、この3つの“コラボ”の成果ということになるだろう。 取材・文:後藤 真/写真:言美 歩 ※写真の無断使用を禁じます。 |
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