2009.04.14
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子ども一人一台PCでドリル学習 ICTの学習効果を実証実験・柏市立旭東小学校

子ども一人に一台の小型ノートPCを配布し、漢字や計算のドリル学習を中心に普段の授業で日常的に使っていく。そんな新しいICT活用の試みが、千葉県柏市の二つの小学校ではじまっている。授業での活用の様子と子どもや先生の反応、子ども一人一台PCの学習効果について、市立旭東小学校で取材した。

子ども一人一台PCでドリル学習~“ICTの学習効果”を実証実験・柏市立旭東小学校~

“紙とペン”の感覚で手書き入力できるPC

富士通「FMV-BIBLO LOOX U8250」

 子どもたちが使っている小型ノートPC(※)は、タッチペンで手書き入力ができるタブレット型。本体はB5版ノート半分ほどのサイズで、細かい文字や画数の多い漢字も鮮明に表示できる高解像度の液晶画面を搭載している。
 授業で活用している学習用ソフトは「小学館デジタルドリルシステム」。漢字の書き取りや熟語の練習、計算ドリル、100ます計算といった学年・教科別の題材を収録した、手書き入力対応のデジタル教材だ。
 これらの機器やシステムは、ICT活用の実証実験(PCを利用した授業の学習効果を測定など)の一環として、インテル(株)と(株)内田洋行が昨年9月から提供しているもの。今回紹介する旭東小(5年生)のほか、手賀東小(5、6年生)でも同様の環境で実験が行われている。

※富士通「FMV-BIBLO LOOX U8250」(CPU:インテルプロセッサーA110、メモリ:1GB、HDD:40GB、OS:Windows Vista Home Premium、5.6インチタッチパネル液晶[1024 x 600ドット]、外形寸法:171×133×26.5~32.0mm、重さ:約580g、無線LAN対応)

柏市立旭東小学校 授業リポート

「一斉指導+ドリル学習」で漢字を身につける

学年・教科:5年生国語科
単元:「みすずさがしの旅」
指導者:藤野毅教諭(児童25名)
めあて:単元の新出漢字の「読み・書き・熟語」の習熟を図る。
ポイント:小型ノートPCを活用して児童の興味・関心・意欲を高め、新出漢字の理解を深める。デジタルドリルの活用では、字の書き順および「とめ・はね・はらい・てん」を意識して練習させる。

デジタルならではの自動採点で効率的に学習

 今回取材したのは、単元の中盤の授業。小型ノートPCを使った新出漢字の学習には、後半の20分をあてた。
 漢字学習では、一斉指導で基本的な知識を押さえてからデジタルドリルでの個別学習を行っているという藤野教諭。まずは「編」「版」「絶」などこの日学習する5文字のカードを黒板に掲示し、それぞれの「読み、部首、熟語」を子どもたちに問いかけ、カードに書き込んだ。


IDとパスワードを記録したUSBキーで個人認証を行う。各自の学習履歴はPC本体には残らず、外部サーバーで一括管理するしくみ。教師がクラス全体の学習状況や一人一人の進捗を細かくチェックできるので、個に応じた支援を充実させることができる。

 「では教科書をしまって。今日は書き順と、とめ、はねを意識して練習しよう」という藤野教諭の合図で子どもたちはタッチペンを手に取り、あらかじめ起動しておいた小型ノートPCを操作しはじめた。

 漢字の書き取りは、最初にお手本の文字をなぞって書き順などを確認したあと、所定の欄に3回書く。1文字書き終えて判定ボタンをタッチすると、一画ごとの「とめ、はね、はらい」のほか、書き順や文字全体のバランスを細かくチェックし、自動的に「丸つけ」をしてくれるしくみだ。


画面を180度反転してたたむことにより、紙のノートと同じ姿勢で文字を書くことができる。タッチペンは、子どもが普段使っているシャープペンに近いサイズのものを採用。書いてみると少し滑る感触があるが、「子どもは気にしていない」(村田教諭)という。

 すべての観点をクリアしていれば、書いた文字の上に大きな「○」が表示される。誤りがある場合は、どの部分が間違っているか具体的に示してくれるほか、正しい書き順をアニメーションで見られる機能もある。子どもたちは画面のアドバイスを参考にしながら、「○」がもらえるまで繰り返し練習した。

 書き取りを終えた子どもは、熟語の学習へ。こちらも同様の手順で、「編集」「編む」などの語を書き込んで「丸つけ」をする。書き取りと熟語を合わせて1つの新出漢字を8回から9回書くため、「以前使っていた紙のドリルより練習量自体は増えた」と藤野教諭は言う。

ゲーム感覚の楽しさが学習意欲を刺激

 次々と課題をこなしていく子どもから、一画ずつじっくり書いていく子どもまで、学習は各自のペースで進行。教諭は一人一人の状況を確認しながら、「どんな感じ?」「まだ時間はあるから落ち着いてやろう」と声をかけていく。時間内に熟語の練習まで済ませた子には、今日学んだ漢字をもう一度練習させたり、既習の漢字を振り返らせたりするなど、新たな課題をすぐに与えることができるので、手持ち無沙汰になる心配もない。

藤野毅 教諭
藤野毅 教諭

 藤野教諭のクラスでは、こうしたドリル学習を週2、3回ペースで行っている。小型ノートPCの活用は子どもたちにもすっかり定着している様子で、「家ではドリルをほとんどやらない」という男子児童も「パソコンはすぐに丸つけをしてくれるから楽しい」と笑顔。隣の女子児童は「漢字練習帳は書いていくうちに汚れるけど、パソコンはずっときれいだから便利」と感想を語ってくれた。

 藤野教諭 は、「紙のドリルに比べ、子どもの学習意欲が数段アップしました」と活用の効果を強調する。以前は漢字の苦手だった子どもも積極的に取り組むようになり、休み時間に自主的に学習する姿も増えてきた。「ゲーム感覚で楽しんでいる様子」という。


使用後の小型ノートPCは、廊下のラックに一クラス分をまとめて収納。コネクターをPCにつなぐことで、保管しながら充電できる。タッチペンやUSBキーの管理は情報係の子どもが担当するなど、準備や片づけも含めた子ども主導の活用が定着している。

 タッチペンによる操作性が携帯ゲーム機に近く、子どもに親しみやすいだけでなく、「間違えたら『ここが違うよ』とその場でチェックしてくれることも大きい」と見ている。「間違いが瞬時にわかり、ミスを正してきちんと書けたら、すぐに○がもらえる。紙のドリルでは難しいこうしたやりとりが、子どもの励みになります。学習の達成率がグラフで表示されるのも、いい刺激になっているようですね」。

 いまでは機器の準備や後片づけも 子ども自身の手で行っており、「教師側の負担もなく、学習ツールとして手軽に活用できている」という藤野教諭。「子どもの意欲の向上が、定着率にどうつながっていくのか、私自身も期待を込めて見守っているところです」と話す。

コミュニケーションのための国語力を育てる
旭東小の情報教育と小型ノートPC活用

ドリルから調べ学習へ活用シーン広がる

柏市立旭東小学校 熊谷美利 校長
柏市立旭東小学校 熊谷美利 校長

学びの場.com 学校のICT活用に対する考え方と、今回の実証実験との関連をご説明ください。

熊谷校長  本校は平成8年から市の研究指定を受け情報教育の実践研究に取り組んでいます。一貫して重視してきたテーマは、コミュニケーション能力の育成。クラスの友だちだけでなく学校外の人たちに対しても、自らの思いや考えを自分の言葉で伝えられる子どもを育てることが目標です。

 ICT活用に関しては、コミュニケーションの道具として子どもが活用するケースと、授業の目標やつけたい力に応じて教師が活用するケースという大きく二つの方向性から取り組んできました。
 今回の実証実験では、小型ノートPCを基礎基本の定着を図るツールとして位置づけています。これは本校にとっても、新しいスタイルのICT活用といえます。

学びの場.com 事前にどのような準備をされたのでしょうか。また活用の現状はいかがですか。

村田教諭  導入前に5年生担任を対象とした研修を2度行いました。先生自身が子どもの目線で使い方を一通り体験し、授業での活用のポイントを話し合っています。

 活用状況ですが、漢字の教材は、今日のように授業の終わりに時間を取って使っているほか、漢字指導の小単元でも活用しました。算数教材は主に2学期の割り算やかけ算の単元で利用しました。また、朝自習や休み時間には子どもたちに自由に学習させています。

 ドリル学習での活用だけでなく、無線LANでインターネット接続ができることを生かし、通常のモバイルPCとして活用するケースも増えてきました。たとえば理科や社会の授業でちょっとした調べ学習をさせたいとき、わざわざPC教室に行かなくても活動できるのが便利なのです。ドリルと調べ学習の両方で、現在ではほぼ毎日使っています。

「習ったことが役立つ」喜びを子どもに

村田直江 教諭
村田直江 教諭
(情報担当)

学びの場.com 小型ノートPCの学習効果についてはどう感じられていますか。

村田教諭  以前から行ってきた紙のドリル学習との比較でいうと、初期の高い意欲を維持しやすいと感じています。意欲があるから続けられる、継続するから定着するという良い循環ができるので、基礎基本の確実な習得が期待できます。

 具体的な定着率については今後検証が必要ですが、「とめ、はね、はらい」に気をつけて字を書く子どもが増えたことは確かです。普段ノートに書く文字も、驚くほどきれいになってきました。

学びの場.com 今後の課題については。

村田教諭  習得させた基礎基本を、その先の活用にどうつなげるかが課題です。たとえば漢字なら、日常のコミュニケーションのなかで「使える漢字」として身につけさせることが大切。

 そのためにも、ネットを通じた他校との交流学習やホームページによる情報発信など、文章でコミュニケーションする場面を数多くつくり、「授業で習った漢字を使って、自分の思いをきちんと伝えられた」という喜びを感じさせてあげたいですね。

熊谷校長  文字や言葉を使い分けながら自分の思いや願いを的確に表現する力こそ、本校が重視するコミュニケーション能力の基幹です。このため本校では、古文や漢詩の暗唱、朝学習での本の音読、教員全員参加の読み聞かせ活動など、教科だけでなく学校生活全体を通じた国語力の育成に取り組んでいます。

 こうした日々の実践の一方で、私たちにはモデル校としての役割も期待されています。小型ノートPCを含めたICT活用や情報教育の現状と課題、これからの可能性について、柏市内の小中学校、そして他地域の学校にも参考にしていただけるような情報を発信していきたいと考えています。

■柏市立旭東小学校

記者の目

手書きのできるコンパクトなPCは、授業でのICT活用のスタイルを一変させる可能性がある。普通教室での普段の授業のなかで、違和感なく使われる様子を見てそう感じた。ひとつ気がかりなのは、子どもが“ゲーム感覚”の楽しさにのめり込むほど、ドリルをすること自体が目的になっていくのではないかという点だ。「使える漢字を目標に」と強調する村田教諭はこの点を懸念しているのだろう。「何のための基礎基本か」という問いを欠いたまま、こうした先進事例を形だけ真似ても、成果は上がらない。

取材・文:栗林俊晴/写真:言美歩 ※写真の無断使用を禁じます。

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