2009.02.17
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小学校英語授業づくりのヒント ICT活用でコミュニケーション力の基礎を育てる

小学校英語活動の授業づくりに苦心されている先生方は多い。今春から高学年での外国語活動が段階的に始まるのに先駆け、小学校英語の授業づくりのポイントと、4月に文科省より無償で配布される「英語ノート・デジタル版」を中心とするICT用アイデアをいち早く紹介する。

小学校英語授業づくりのヒント~ICT活用でコミュニケーション力の基礎を育てる

デジタルコンテンツを効果的に活用して

コミュニケーション力の素地を育む英語活動
三鷹市立第一小学校 主幹教諭 梅津靖子 氏

英語への抵抗感・不安感を和らげる

三鷹市立第一小学校 主幹教諭 梅津靖子 氏

 三鷹市立第一小では、市が策定した小・中一貫教育のカリキュラムに基づき、6年間を通じた英語活動に取り組んでいる。単語の意味や文法を暗記するのではなく、英語に親しみ、コミュニケーション能力の素地を培うことが目的だ。

「コミュニケーション力の素地とは、相手を思いやりながら自分の考えを伝え合う力のことです。これは子ども同士、子どもと学級担任、ALTとの体験的な活動のなかで育つものなので、コミュニケーションの基本となる『聞いて理解する』という活動を低学年のころから十分に体験させることが大切です」
 と梅津氏は言う。

 初めて英語を聞く子どもたちは、抵抗感や「何を言っているのかわからない」という不安感を抱きやすい。そこで同校では、デジタル放送番組(NHK教育放送番組「えいごであそぼ」など)を低学年向けの教材として活用することにした。
 CDなどの音声で会話を聞くだけでは、誰がどんな場所で、何について話しているのか理解しにくいが、映像があればコミュニケーションの場のイメージをつかみやすい。
「言葉の意味を、それが使われている場面と一緒にして理解できるから、自分にもできそうだ、やってみたいという関心や意欲を高めやすい」
 と梅津氏。

コミュニケーションの楽しさを実感させる

会場風景

 授業は、「ウォームアップ」「その時間のテーマ(色、数、物の呼び方など)の理解」「ゲームなどの体験活動」「振り返り」という流れで進める。

 放送番組は主にテーマを理解する場面で視聴する。たとえば色のついた積み木で遊んでいるシーンを見せれば、「今日の授業は英語の色の呼び方を勉強するようだ」と子どもたちがその時間の活動に見通しを持つことができる。これが積極的に授業に参加する姿勢につながる。

 番組を視聴して英語でのコミュニケーションのイメージをつかんだ後は、身近なものに当てはめて発話し、ALTや友だちと楽しく関わる体験活動を行う。「各自に色のついたカードを配り、自分の好きな色カードを持っている友だちと会話をしてカードをもらう」、「ALTが英語の数を言うのを聞き、同じように発音しながら数の分だけ手をたたく」といったゲーム的な要素を取り入れ、コミュニケーションそのものを楽しませる。

 「まずは集中して見て、聞いて英語のコミュニケーションのイメージをつかむこと、次に目の前の相手と関わり合う活動を体験すること。これを繰り返すことで、コミュニケーション力の素地が子どもに定着する」
 と梅津氏は言う。

活動のコンセプトを学校全体で共有する

 英語への不安や抵抗を和らげる指導はどの学年でも有効だが、体験活動の中身は学年に応じて変化をつける必要がある。5、6年生ともなると、単純なゲームや歌では子どもが恥ずかしがって思うように参加してくれない。
「たとえば絵カードを使って英語で料理をつくるなど一定のタスクを与えながら、子どもとALTが直接コミュニケーションできる活動を取り入れることが大切です」
 と梅津氏。

 こうした授業内容の検討は学年全体で行うため、教員全体が活動の目的を理解し、足並みを揃えて参加する必要がある。しかし、
「英語に力を入れていきましょうと提案すると、指導への不安や、新しい取り組みによる負担増を懸念する先生もいます。今春から英語活動に取り組む学校でも、教員各自の活動に対する意識の差が課題になるのでは」
 と梅津氏は指摘する。

三鷹市立第一小学校 主幹教諭 梅津靖子 氏

 教員が不安を感じる要因のひとつに、外国語活動の理念や目的が浸透していないため、「どんな授業をすればよいのかイメージできない」という点がある。特に英語の苦手な教員は、語彙や文法、発音を教え込むような授業を想像し、「自分には指導できない」と尻込みしがちだ。こうした不安を和らげるためには、
「小学校の英語活動は中学や高校の授業の先取りではなく、どの言語にも共通するコミュニケーション力の基礎を培うものというコンセプトを、教員研修などを通じて学校全体で共有することが大切」
 だと梅津氏は言う。

 コンセプトを共有し学校全体で活動に取り組むことは、授業プランや教材づくりの手間を分散し、教員個々の負担感を減らすことにもつながる。同校では、絵本を元にしたデジタル教材や絵カードなど、教員の自作教材はまとめて保存し、著作権の範囲内で共有するしくみをつくっているという。
 梅津氏は、
「ほかの先生がつくった教材を自分の授業に合わせて簡単にアレンジできるのがデジタルのよさ。身近な放送番組も含めたデジタル教材の活用は、先生方の負担を減らす有効な手立てになりそう」
 と提案する。

ALT・サポーター・ICTと連携した担任主導の英語活動

ALTとサポーターそしてICTとつくる「英語となかよし」
~英語が話せない担任主導で行う英語活動の実際~
横浜市立立野小学校 主幹教諭 出口和生 氏

 横浜市立立野小学校では、コミュニケーション能力を「情報や自分の気持ち・考えを相手に伝えられる力」「相手が伝えようとする情報や気持ち・考えを理解したりする力」であり、これらを双方向性のあるものと捉え研究を行ってきた。そして、コミュニケーションの基礎となる力を育成するために、英語活動を中心とした「かかわり合い」の実践を推進している。

 現在、同校ではALTが常駐する環境にあり、担任+サポーター+ALTによるティームティーチングによる指導が行われている。英語を話す必然性のある場面設定や活動のもと、丁寧なインプットを行うことで、子どものコミュニケーションに対する関心・意欲・態度の育成に繋がったと考えている。

横浜市立立野小学校 主幹教諭 出口和生 氏

 これら現在の活動を踏まえ、出口氏からは、2005年~2007年前半にかけて実施された、担任+サポーター+ICT活用による英語活動を中心に、「英語が得意でない学級担任」が授業を行う際の課題とICTの活用に関する実践提案がなされた。同校では、聞く・話す活動の補助や、クイズ的な活動の素材となる自作教材を整備し、授業で活用。特に発音面の指導に苦手意識を持つ教員の不安解消に効果があったという。

 次年度からは同校へのALT常駐体制がなくなるため、ICT活用による、子どもたちの意欲を高める工夫が再度必要となってくる。一方、ICTに頼りすぎデジタル教材を流すだけの授業になると、コミュニケーション活動の本質が見失われることから、出口氏は「ICTは担任やALTが使う便利なツールとして位置づけ、活用の目的やポイントを検討したうえで授業に取り入れることが大切」と指摘した。

英語ノート・デジタル版の特徴
インタラクティブな授業づくりをサポート

今回の「ICT活用授業力ゼミ」では、今春配布予定の「英語ノート・デジタル版」のデモンストレーションも行われた。「テキスト版」に準拠した内容ながらICTのメリットを生かした工夫もさまざまに盛り込まれており、授業づくりの心強い味方になりそうだ。教材としての特徴をいち早くリポートする。

パソコン初心者でも簡単に使える
パソコン初心者でも簡単に使える  マウスをクリックするだけでほとんどの操作ができるため、パソコン初心者でも手軽に扱える。教科書のページをめくる感覚で画面の角をクリックすると次のページへ移動したり、文字やイラスト、写真をクリックすると音声やアニメーションが再生されるなど、直感的な操作が可能。画面写真入りのわかりやすいマニュアルもついているので、デジタル教材の活用に不慣れな教員でもすぐに授業に取り入れられる。
ネイティブの発音が手軽に聞ける
ネイティブの発音が手軽に聞ける  画面と音声を一体化したデジタル教材なので、表示されているアイコンやイラスト、写真などをクリックするだけでネイティブの音声を聞くことができる。CDのように頭出しのポイントを探す手間がなく、繰り返し聞いて発音するといった活動も簡単。たとえばリンゴの絵を見ながら“apple”の音声を聞くなど、絵と音声をセットにして覚えられるので、子どもたちの記憶にも定着しやすい。言葉へのイメージを深めるうえで役立つ写真など、デジタル版独自の補足資料も収録している。
互いに楽しみながら英語に親しめる
互いに楽しみながら英語に親しめる  正解を求めるドリル的な教材ではなく、子どもと先生がともに楽しみながら学べるのが「英語ノート」の特徴。操作に応じて画面が変化したり、音声や音楽が流れたりするインタラクティブなしかけを豊富に収録したデジタル版は、こうした特徴がさらに際立つ。たとえば「いろいろな国の衣装」をテーマにした5年生のレッスンでは、シャツやズボンを好きな色に変えて着せ替えをするコンテンツがある。絵カードの準備に手間のかかるこの活動も、マウス操作ひとつで楽しめるのがデジタル教材の強みだ。
黒板前で書き込みや拡大操作も自由自在
黒板前で書き込みや拡大操作も自由自在  他のデジタル教材と同様、「英語ノート・デジタル版」も電子黒板と併用することで使い勝手がさらによくなる。まず、パソコンを操作するために教壇を離れたり、うつむいたりする必要がなくなり、通常の黒板を使った授業と同じ感覚で、子どもたちと目線を合わせ反応を確かめながら指導できる。さらに電子黒板のペン機能や拡大機能を使えば断然見やすい画面表示が可能。たとえば、提示した画面上に直接書き込みができるので、6年生版に収録されている「音声を聞いて時計に長針と短針を書く」といったコンテンツもより効果的に活用することができる。

英語活動に役立つICT機器

今回の「ICT活用授業力ゼミ」で行われた「英語ノート・デジタル版」デモンストレーションで使用された機器は次の通り。

学校専用プロジェクター「TG-3500K」
 
教材提示装置
「VP-1」
 
インタラクティブユニット「eB-P・e-黒板アシスタントVer.2.5」

小型ラジカセと同等のスピーカーを搭載。教室後方でも音声が聞き取りやすいのでリスニングの指導に便利。(税込価格:399,000円)
教材提示装置「VP-1」
教科書や絵カードなどアナログの素材をプロジェクターやTVに拡大提示。軽量・コンパクトで手軽に持ち運べる。(税込価格:68,250円)
インタラクティブユニット「eB-P・e-黒板アシストVer.2.5」
パソコン、プロジェクターと組み合わせることにより、教室の黒板を電子黒板として利用できる。(税込価格:141,540円)
記者の目

新学習指導要領の目玉のひとつとされる小学校での外国語活動だが、梅津氏も指摘するように、その導入に不安を感じている先生は少なくない。「外国語に慣れ親しみ、コミュニケーション力の素地を養う」というコンセプトが、具体的な活動として学校現場に定着するには多少時間がかかりそうだ。子どもたちだけでなく、指導する先生も抱いている「英語への不安や抵抗感」をどうすれば軽減できるのか。ICTの活用がひとつの糸口になることを期待したい。

取材・文:栗林俊晴/写真:学びの場.com ※写真の無断使用を禁じます。

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