2008.12.16
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NIE(教育に新聞を)実践リポート 新聞を題材に「話す力・書く力・考える力」を高めるさいたま市立鈴谷小学校

NIE(Newspaper in Education=教育に新聞を)は、新聞を教材として活用すること。子どもたちの「読解力」低下や活字離れが指摘されるなか、その取り組みに関心が集まっている。日本新聞教育文化財団が認定するNIE実践校も年々増加し、今年度は全国538校。そこで今回は、平成18年度からNIE実践校として活動している、さいたま市立鈴谷小学校での授業をリポート。子どもたちに与える教育効果や実践のポイントについて担当の菊池健一教諭に聞いた。

 
NIE(教育に新聞を)実践リポート 新聞を題材に「話す力・書く力・考える力」を高める  ~さいたま市立鈴谷小学校~

NIE(Newspaper in Education=教育に新聞を)は、新聞を教材として活用すること。子どもたちの「読解力」低下や活字離れが指摘されるなか、その取り組みに関心が集まっている。日本新聞教育文化財団が認定するNIE実践校も年々増加し、今年度は全国538校。そこで今回は、平成18年度からNIE実践校として活動している、さいたま市立鈴谷小学校での授業をリポート。子どもたちに与える教育効果や実践のポイントについて担当の菊池健一教諭に聞いた。

テーマに合う記事を選んで、自分の言葉で感想をまとめる

1.前時を振り返りながら、学習のめあてを確認

NIE実践リポート

 菊池教諭はまず、前の時間の学習内容を確認。学校放送から学んだ“感想文を書く極意”としては、「感想文は意見」「3つのキーワード(なぜ、もしも、どうすれば)で意見を出す」「多く使われている言葉に注目する」「“なたもだ”(なぜ、たとえば、もしも、だから)で文を組み立てる」の4点を振り返った。

NIE実践リポート

 次に、「しあわせな気持ちになる記事ってどんな記事だった?」と投げかけ、「スポーツで自分の好きなチームが勝ったとき」「オリンピックやノーベル賞など日本人の活躍」「がんばっている人の記事」「新しいものが生まれた記事」など、前時の意見交換で出た視点を発表させた。

 教諭は「見た人が温かく、しあわせな気持ちになるHAPPY記事を見つけてスクラップしよう」と本時の学習のめあてを提示。「20分を目標に作業をしよう」とスクラップ用のワークシートを配布し作業に移らせた。

2.各自の視点で「しあわせな気持ちになる記事」を選ぶ

NIE実践リポート

 子どもたちは各自家庭から持ってきた新聞を見ながら、「しあわせな気持ちになる記事」を探し始めた。取材当日はプロ野球がプレーオフに入っていた時期だったこともあり、地元ライオンズに関する記事をチェックしている男子も目立った。

 教諭は机間指導で、記事選びに迷っている子どもにアドバイスしていった。107歳のお年寄りが元気に暮らしている記事を選んだ子どもには、「最近こういうニュースが少ないから、みんなに紹介してあげるといいね」。ある男性の闘病生活を紹介した記事を見ながら「こういうのはハッピーな記事なのかな」と悩んでいる子どもには、「病気になっても前向きに生きている人の紹介だから、こういう記事もいいんだよ」と声をかけた。

 新聞記事には未習漢字も多いため、「先生これなんて読むの?」という質問が頻繁に出る。文字だけでなくニュースの内容解説も必要。「ラムサール条約のことがわからない」という子どもの質問には、「水鳥の棲む場所を守るための国同士の取り決めのこと。6年生の社会で勉強するよ」と他教科の学習との関連も含めて答えていた。

3.“5W1H”を基本に記事を要約し、感想をまとめる

NIE実践リポート

 子どもたちが選んだ記事は、ハロウィンのお祭りの様子、世界的な金融危機への対応、低公害車の開発のニュースなどさまざま。見出しや写真を重ね貼りしてコラージュ風にしたり、マーカーで色を塗ったり、新聞を切り貼りする作業自体を楽しみながら仕上げている子どもも多かった。

 この日配布したワークシートには、日付と媒体名を書き込んで切り抜きを貼るスペースのほか、記事の要約として“5W1H”を抜き書きする欄と、記事に対する自分の感想(どんなところがHAPPYな気持ちになったか)を書き込む枠をつくっている。

NIE実践リポート

 新聞のスクラップ活動を始めた当初は自由に要約させていたが、内容が薄く重要な情報が抜けてしまうケースもあったことから、「要約に必要な要素をきちんと捉えさせるため、5W1Hの抜き書きをひとつのパターンとして提示している」と菊池教諭。

 作業時間の後半に入ると、教諭は記事選びやスクラップ作業に手間取っている子どもを中心に支援。迷っている子どもには決断を促す声かけをしたり、必要に応じて切り抜き作業を手助けすることもあるという。

4.記事の内容と感想を友達にプレゼンテーション

NIE実践リポート

 授業のまとめでは数人の子どもが前に出て、ワークシートを実物投影機で提示しながら記事の内容や感想を発表した。
 5年生は学年全体で新聞記事をもとにしたスピーチ活動に取り組んでいるほか、この単元の前には前述の学校放送を視聴し“スピーチの極意”も学んでおり、発表の基本的な流れが身についている様子。

NIE実践リポート

 病気の患者、家族、支援者がパレードをした記事を選んだ子どもは、「病気と闘いながら前向きに生きているところがハッピーな気持ちになりました」と発表。ペットボトルのフタを回収して発展途上国の子どもたちにワクチンを送る活動を紹介した子どもは、「世界の子どもたちのために、たくさんの人ががんばっているところがしあわせな気持ちになりました」と自分の言葉で感想を述べていた。

 最後に教諭は、この日つくった記事のスクラップをもとに、次の時間は感想文を書くことを確認。全員の作品を、外部団体が主催する作文コンテストに応募することを告げ、「このクラスから賞をもらえる人が出るといいね」と子どものやる気を刺激する言葉を投げかけて授業をまとめた。

授業者のコメント

書くための動機づけとして身近な新聞を活用

 今回の授業はNIEの一環として単元化したもので、考えを書くことに焦点を当てて学習活動を設計しました。感想文などが苦手な子どもでも、「しあわせな気持ちになる」という視点を持たせることで、書く題材や動機を自分の力で見つけられると思います。

 5年生は今年度、朝自習の時間を中心に、気になった新聞記事をスクラップして要約と感想を書く活動や、記事を題材にしたスピーチなどに取り組んでいます。今回のように特定のテーマで記事を選ばせるのは初めてだったので、第1次に「しあわせな気持ちになる記事」へのイメージを持たせる活動を行いました。サンプル記事を見せたり、子ども同士で話し合わせたりしたところ、いろいろ意見が出ました。本時の記事選びではこのとき出た視点を踏まえ、多様な記事を選ぶことができていましたね。

 作文コンテストへの応募は学習の出口としておもしろいと思います。普段とは違う発表の場があると子どもの興味も高まるので、どんな作品を書いてくれるか楽しみです。

鈴谷小のNIE活動
生きる力、親子のコミュニケーションの充実を目標に

要点を読み取り、発表する力の充実を実感に

菊池健一 教諭
菊池健一 教諭

 本校では平成18年度から3年間の実践校指定を受けNIEに取り組んでいます。事前に子どもの実態を調査したところ、新聞を読む頻度に大きなばらつきがあることや、社会の出来事への関心は高いものの、それについて家族と話したり友達に発表したりするのは得意でないという傾向が見えてきました。

 子どもたちが生きていくこれからの社会では、さまざまなメディアから情報を正確に読み取る力や、自分の考えを積極的に発信できるスキルが求められます。そこで、「文章の要約力」「考えを発表する力」「社会的事象への関心」の3つをNIEを通じてつけたい力として定め、まずは高学年を中心に実践していくことにしました。

 日常的な活動としては、前述の「新聞スクラップ」や「新聞スピーチ」のほか、実践校への支援として提供される新聞各紙を並べて掲示する「新聞コーナー」を設置し、子どもたちが日常的に新聞に触れられる環境をつくりました。

菊池健一 教諭

 授業での実践では、5年生総合で、新聞の基本的な見方やメディアとしての特性を理解するオリエンテーション的な学習を行ったほか、社会科では「わたしたちの生活と情報」の学習で、CM・広告を題材に新聞の特性を考える授業を実践しています。こうした一連の活動を通じて子どもの関心が高まったのを受け、地元の新聞記者を招いた出張授業も行いました。

 今年度は低学年にも活動が広がっており、ひらがな探しや、切り抜いた文字を並べて言葉をつくる活動(国語)、新聞を塗り絵に見立てて色を塗る活動(図工)など、手軽な教材として活用しながら、新聞に親しませる授業も行っています。

 これまでの実践成果としては、新聞を日常的に読む習慣が身についてきたことが挙げられます。また、新聞や教科書などの文章を読んだとき、大事なところを素早く正確に捉える力や、写真や絵から情報を読み取って自分の言葉で説明できる力がついてきたことも、普段の授業のなかで実感します。

既存の新聞活用を関連づけた全体計画づくりを

 一方で、個々の活動成果を教員全体で共有し、学校全体の実践としてどう定着させていくかが今後の課題になると考えています。特に本校は学校課題として体育に取り組んでいるので、先生方に負担をかけない工夫が必要。たとえば指導案だけでなく、授業で使えるワークシート類やスピーチの形式といった学習の流れや型を、PCに文書データとして残し、常に共有できるようにするといった環境づくりも大切です。

菊池健一 教諭

 もうひとつは、6年間を見通したNIE計画を作成し、各教科の年間計画のなかに新聞を活用する場面を組み込んでいくことです。前述の5年生社会科だけでなく、4年生国語には「新聞記者になろう」という単元もあります。また自動車の学習や環境の話題など、社会の最新の動きを知るための題材として、普段の授業で新聞を使っている先生は多いのです。こうした各教科の学習や、これまで自然な形で新聞を活用してきた場面を関連づけて全体計画を組み立てることが、無理なく継続できるNIEにつながるのではないかと思います。

 家庭との連携強化も重要なポイントです。教材となる新聞を提供してくれるのは家庭ですから、子どもたちの活動内容や成果を、学校便りやホームページなどで積極的に発信し、理解を得ることが大切。学習を通じて培った、社会に対する関心や自分の考えを伝える力は、親子のコミュニケーションの充実にもつながります。

 子どもが親御さんに新聞記事のことを質問したり、親子で新聞を読んでそれぞれの考えを話し合ったりしてくれることが、私の考えるNIEの理想形です。学習の成果が子どもを通じて家庭へと返っていくようなNIEの実現を目指して、実践指定の終了後も地道な取り組みを続けていきたいと考えています。

写真や図表を含む紙面から情報を的確に読み取り、それに対する自分の考えを発信する活動は、いわゆるPISA型読解力の育成や、新学習指導要領が求める「活用型」の学習との関連でも興味深い。一方、取材時に気になったのが、家庭で新聞を取っていない子どもが複数いたこと。教諭が手持ちの新聞を配って対応していたが、この子たちは仮に授業で新聞に興味を持っても、家で読むことができない。「教育に新聞を」の前に、「家庭に新聞を」と言わざるを得ない状況に置かれている実践校も多いのではないだろうか。

取材・文:栗林俊晴/写真:学びの場.com ※写真の無断使用を禁じます。

【本時の指導案】
PDF 指導案『わたしのHAPPY 記事をみつけよう』

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