2008.08.19
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メディアリテラシー(情報モラル)教育は小学校段階から 携帯電話の光と影を知る

携帯電話を利用した犯罪行為などが増える中、子どもたちへのメディアリテラシー教育が必要となってきている。「メディアリテラシー教育は、心が柔らかい小学校段階から始めるのが一番よいと思います」と話す、千葉県松戸市立馬橋小学校の佐和伸明先生の授業実践を取材した。

メディアリテラシー教育は小学校段階から~携帯電話の光と影を知る~

情報モラル教育実践リポート

携帯電話を見て触って、体験することから学ぶ

テーマ 「体験を通して学ぶ携帯電話の光と影」
単元名 「職場体験でケータイを活用しよう!」
対象学年 小学6年生
ねらい ・携帯電話の利用に関するルールやマナーを理解する。
・携帯電話の基本的な機能や操作方法について理解する。
教 材 ・パソコン(1人1台)
・「伸ばそう ICTメディアリテラシー」より「ケータイを持って街へ出かけよう! お使いシミュレーター」ソフト(総務省 ICTメディアリテラシー育成プログラム)
・携帯電話(8台)
授業者 佐和伸明 教諭

ケータイではどんなことができる?

 「“ケータイ”って何だか知ってる?」
「電話!」「いろんな機能がついてる」「持ち運べる」「メールもできるよ」……。
 佐和先生の問いかけに、6年3組の子どもたちが次々と答えていく。

 

 この日は、総合的な学習の時間を使って「情報モラル教育」が行われた。単元は「職場体験でケータイを活用しよう!」。次週に控えた職場体験授業で、携帯電話を利用するために、使用の際のルールやマナーを理解し、基本的な操作方法を知ることが目的だ。

 

 パソコンルームで始まった授業では、冒頭の質問に続き、子どもたちは、携帯電話はゲーム、メール、QRコードの読み込み、写真撮影機能、テレビなど、多機能を備えていることを先生とのやりとりで確認した。

 

シミュレーターソフトでケータイ擬似体験

 次に、こうした多機能を備えた携帯電話を利用する際のマナーやルールを知るため、パソコンのシミュレーターソフトで携帯電話操作の疑似体験をした。このソフトは総務省が無料で提供しているICTメディアリテラシー育成プログラムで、検索機能やメール、ブログなど、インターネットや携帯電話の機能、それぞれの上手な利用法やマナーについて5つのテーマに分けて学習できる。

シミュレーターソフトでケータイ擬似体験

 今回はこの中の「ケータイを持って街へ出かけよう! お使いシミュレーター」を使った。佐和先生から、画面に出てくる文章はきちんと読んでから選択肢を選ぶ、という注意事項を伝えられた後、各自が操作を始めた。

 この学習テーマでは、幼稚園へ妹を迎えに行かなくてはならなくなった母親にかわって、僕(私)が本を買いに行く、というストーリーを使い、その過程で携帯電話の使い方にまつわるルールやマナーを学べる仕組みとなっている。「電車に乗るときのモード」「電車内での通話」「雑誌をカメラ機能で撮影」「有名人をカメラ機能で撮影」などの場面があり、それぞれどう行動すればよいかを選択肢から選んでいく。

 例えば、電車に乗る前の選択肢は「マナーモードをonにする」「メールを確認する」「何もしない」の3つ。「何もしない」を選択すると、車中でお母さんからの電話に出てしまい、隣のおじさんから「車内では携帯電話で話してはいけないよ」と注意されるなど、きめ細かいシチュエーションが用意されている。

シミュレーターソフトでケータイ擬似体験

 子どもたちは、パソコンの操作と共に、各場面で自分が選択した項目と、なぜその項目を選んだのかの理由をワークシートに記入していった。「マナーモードにする」を選んだ子どもは、理由欄に「迷惑だから」と書いた。それを見た佐和先生は、「誰が迷惑なの? そこまで細かく書こうね」と、子どもたちがより具体的に場面をイメージできるようアドバイスしていた。

 15分ほどで全員の操作が終わると、ワークシートを見ながら、各自が選んだ項目を発表していった。電車に乗る前は、「マナーモードをonにする」を選んだ子どもが大多数。しかし、「メールを確認する」「何もしない」を選んだ子どももいた。佐和先生はそれぞれ理由を聞いていく。

シミュレーターソフトでケータイ擬似体験

 「何もしない」を選んだ子どもは「電話がかかってこない可能性もあるから」と答えた。
 「メールをチェックする」を選んだ子どもは「お母さんから連絡が入っているかもしれないし」との答え。
 わいわいと意見があがる中で、まずここでは、「何もしない」のは駄目、ということを確認し、理由を考えた。

 「周りの人が“うるさい”と感じる」「ペースメーカーをつけている人がいるかも」などの答えがあり、結果としては「マナーモードをonにする」が正しいこと、また、電車以外でも精密機械などを扱う場所ではマナーモードにすることを佐和先生のリードで学んでいく。

 続いて、デジタル万引きや、有名人の撮影では何が問題なのかを考え、前年度に学んだ、著作権や肖像権のことを思い出しながら、どうすればよいかを考えた。

実物を触って操作を体験

実物を触って操作を体験

 次に、いよいよ実際に携帯電話を使ってみる。クラスを8グループにわけ、1グループ(5~6人)につき、1台の携帯電話が配られた。この携帯電話はウィルコム社から貸し出しされたのもので、事前に、使いやすく、また、危険のないようカスタマイズされている。

 マナーモードの使い方、電源の切り方、電話のかけ方、カメラの使い方、メール送信の方法などを佐和先生が説明し、子どもたちが実際に操作していった。本物の携帯電話を手にした子どもたちは嬉しそう。使い方を覚えると、それぞれ順番に操作し、教え合っていた。写真を撮る際は、シミュレーターで学んだことを活かし、「撮ってもいいですか」と聞く練習もしていた。

実物を触って操作を体験

 授業のまとめで佐和先生は「携帯電話の使い方は、特に難しくはありません。使い方よりも大事なことはルールやマナーです。これに気をつけられない人は携帯電話を使ってはいけません」と話し、最後にこう付け加えた。

「ただ一方で、携帯電話はとても便利な道具です。連絡がすぐとれるし、写真機能を使えば簡単に記録もできる。だからみんなには、ルールやマナーを守って、上手に使って欲しいです」。

 最後まで先生の目を見て聞いていた子どもたち。次週に控えた職場体験がよりいっそう楽しみになってきた様子だった。

 

 

職場体験授業リポート

実地での利用で、正しい使い方を習得

先の授業の翌週、いよいよ職場体験学習が行われた。この日は8グループに分かれ、近隣の職場を訪問。職員の方に取材をし、仕事の内容などをうかがった。各グループに1台携帯電話が渡され、先生との連絡や、写真撮影などに利用した。

 この日の訪問先は、幼稚園、保育園、交番など。基本的に先生は同行せず、子どもたちだけで行動する。流山電鉄の馬橋駅を訪問したグループを取材した。

ケータイではどんなことができる?

 7人のグループのメンバーは、リーダー、ケータイ係、メモ係などそれぞれ役割分担をし、出発。駅に到着すると、佐和先生に連絡メールを入れた。授業で練習したので、操作はスムーズだ。その後、駅員さんに取材をする。

ケータイではどんなことができる?ケータイではどんなことができる?

 「朝は何をするのですか」「車両は何両ですか」などの質問に、駅員さんが丁寧に答えていく。途中、券売機が1台500万円と聞いて子どもたちはびっくり。その間も、ケータイ係は写真を撮影し、記録のためにも活用していた。終了後は学校へ戻り、ワークシートに聞いてきたことなどをまとめた。

 巡回していた佐和先生の携帯へは、すべてのグループから約束通り連絡メールが入った。また、早く終わったグループからワークシートの場所を聞く電話もあり、メール、通話、カメラのどの機能も活用できていたようだ。

ケータイではどんなことができる?

 ケータイ係の児童からは、「すぐに写真を撮れたり、先生にメールで連絡できて便利だった」「ケータイを持っていたから、自分たちだけで行動していても安心できた」などの感想が聞かれた。前回の授業のシミュレーションと併せて、実際の機械を使ってみることで、ルールやマナーにも気を付けられ、また、その便利さも実感できたようだった。

 

担当教諭のお話

シミュレーションと実体験を組み合わせて、モラル感覚を育てる

小学生の4割が携帯を持つ時代に

小学生の4割が携帯を持つ時代に

  最近は携帯電話を介した犯罪も増えており、子どもたちに携帯電話を持たせないことを推奨する方もいます。ですが、今は地域差こそあれ小学生の約4割、中学生の6~7割が自分専用の携帯電話を持つといわれています。遅かれ早かれ、どの子もいつかはこの機械を持つようになると考えてよいでしょう。

 すると、マナーやルールはいつどこで教えるのか、という問題が出てきます。私は小学生のときが一番適していると考えていますが、それは、携帯電話を徐々に触り始める時期であること、また、まだ心が柔らかく、マナーやルールを素直に受け入れられることなどが理由です。そうしたことをふまえて、今回は3回の授業を計画しました。

 まず、携帯電話会社主宰のケータイ安全教室で情報モラルの育成を目指し、次に総務省のICTメディアリテラシー育成プログラムを利用してシミュレーションを行い、より具体的にマナー等を学べるようにしました。そして最後に、職場体験学習で実際に携帯電話を使い、マナーやルールを守ると共に、その利便性を実感する機会を持ちました。

活動と結びつけることがポイント

活動と結びつけることがポイント

 小学生に携帯電話の危険性と便利さを教える際のポイントは、実際の活動と結びつけた内容にすることです。ただ、教材として携帯電話を全員分用意するのは大変です。

 そこで役立つのが、パソコンを利用したシミュレーションです。選択肢などを考えながら操作するので、自然とモラル感覚が育っていきますし、シミュレーションであれば失敗も経験できます。

 一方、こうしたシミュレーションも、子どもたちに操作させるだけでは、ただのゲームで終わってしまいます。シミュレーターを使って、考え、判断する活動をし、それをワークシートに書き込んで定着させる。そして実際にグループに1台でもいいですから、本物の機械を用意し、触らせることで、実感としてモラル感覚が育つのではないかと思います。

 これからの社会では、便利なメディアを上手に使っていくことが、子どもたちの人生にプラスにはたらくはずです。学校はとかく、こうしたメディアの「影」の部分のみを教えがちですが、「光」の部分も教えることで、生きていく上で役立つ情報や機器を活用する力を、子どもたちに身に付けさせていければと思います。

佐和伸明 氏

佐和伸明 氏

千葉県松戸市立馬橋小学校教諭。前任校の柏市立旭東小学校より、研究指定校の研究主任として、情報教育の推進に取り組んでいる。
平成15年度より、携帯電話の教育利用に関する研究を進めており、情報モラル教育ついての実践事例を多数発表している。

取材・文:菅原然子/写真:言美歩 ※写真の無断使用を禁じます。

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