個別最適な学びの充実をめざして(前編) 神戸市立木津小学校の単元内自己決定型学習リポート

自然豊かな神戸市北西部に位置する神戸市立木津小学校は、すべての学年が単学級の小規模校。常勤の教職員13名(管理職を含む)という体制で、子どもたちの主体性と教職員の働きやすさを両立させる学校運営が進められている。今回、関田 聖和校長の案内のもと授業を見せていただいた後、授業者の先生方に教科や学年に応じた工夫について伺った。
3年生から6年生の5つの授業を取材
- 3年算数「かけ算の筆算を考えよう」 宮川 亜砂美 教諭
- 4年総合「もっと知りたい!わたしたちの大調査」 浅妻 美紀子 教諭
- 5年体育「跳び箱マスターになろう(かかえこみ跳び)」 枝木 一郎 教諭
- 6年社会「世界がかかえる問題と日本の役割」 藤本 英俊 教諭
- 6年理科「なぞの水溶液を探せ!」 小山 克典 教諭
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3年 宮川 亜砂美 教諭
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4年 浅妻 美紀子 教諭
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5年 枝木 一郎 教諭
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6年 藤本 英俊 教諭
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6年 小山 克典 教諭
3年算数
誰と、どこで、どう学ぶ?

—工夫した点を教えてください。
宮川教諭 今日は、3桁×2桁のかけ算の筆算の授業でした。小学校低学年の算数の授業において、初めて取り組む学習内容を、子どもたちに「説明を読んで、自分でやってみてごらん」と言っても、なかなか難しいです。
ただ、1学期に2~3桁×1桁の計算は授業で行っていたので、基礎はありました。そのため、発展学習と位置づけ、「誰と、どこで、どう学ぶか」自分の学習の仕方を自分で選んでもらうことにしました。
「先生の前で説明を聞きたい」「先生の声が届く方が安心できるけど、勉強は一人で黙々とやりたい」「友達と相談しながらやりたい」「静かな教室で、じっくり落ち着いて一人でやりたい」と、子どもたちの希望ごとに教室を分けたのです。

—子どもたちの反応はいかがでしたか。
宮川教諭 この単元で、子どもたちに自主的に教室を移動してもらうのは初めてでしたが、45分間とても集中して取り組んでいたのが印象的でした。その時間の基本的なゴールは、「教科書の筆算ができるようになること」と明確にしています。プリントに計算過程を書き残し、タブレットに計算結果を入力すると、正解・不正解の即時判定ができます。もちろん理解度や正解できた・できなかったの差はありますが、筆算の授業は比較的、単元内自己決定型学習(自由進度学習)に向いているのかなと感じています。
教科書の筆算が早く終わった子は、タブレットでデジタルドリルに取り組みます。手書きとデジタルの併用で、「暇」な子や、「置いてきぼり」の子を作らないように工夫しました。
4年総合
教えない指導で力を伸ばす

—工夫した点を教えてください。
浅妻教諭 今日の授業は、1年間取り組んできた多くの学びを経て、さらに深めたいテーマをグループで探究する時間としました。授業の時間が限られているため、あまり深堀りせずに終わりがちですが、もっと知りたいことが子どもたちの中にそれぞれ残っていたので、それを調べる時間にしました。
せっかく調べるなら、一人より友達と意見交換した方が、より広く深く調べることができるので、興味関心の一致する3~4名でグループを作りました。国語の「調べて話そう、生活調査隊」(光村図書)での学習も踏まえて、調査手法は、インターネット、本、アンケート、インタビュー、実験(例えば、地震時の倒壊表現で積み木を活用)などから各自でふさわしいものを取り入れています。
最終的に「この時間までに発表できる成果物を完成させよう」とゴールを設定し、進め方や取り組む順番は、各々で決めています。子どもたちは「次の時間もやりたい!」と、主体的に取り組んでいました。

私が最も意識したことは、「自分が指導することを抑えること」でした。教師は子どもたちに教える人ではなく、あくまで「お助け役」。先走って口出ししたいのをグッと我慢し、子どもが持つ力を最後まで信じようと決めました。
ただ、子どもたちが止まらないように、資料や物品のありかを伝えるなど、困りどころでの支援はたくさんしています。例えば、表現したいことがあるけれども、方法に迷っている児童に積み木を家具に見立てるヒントを与えたり、コウノトリの映像資料を見せたりしました。
5年体育
体格差を越える個別最適な指導の実践

—工夫した点を教えてください。
枝木教諭 今日は跳び箱のかかえこみ跳び(閉脚跳び)の授業でした。
よくあるパターンは、グループを組んで、みんなが一斉に練習をするケースだと思います。とはいえ、跳び箱は各自の体格差もあるため、全員に適した1つの場を作ることが難しいと考えました。そのため“かかえこみ跳びができるまでに必要な動き”を細かく分けました。
いきなり跳び箱を跳ぶように言われても、苦手な子は挫折します。そこで学習の過程を細かく分けたスモールステップを提示し、ペアを組んで自分たちのペースで進められる場を作り、段階的に練習できるようにしました。

タブレットで自分の動きを撮影してもらい、実際にできているかどうか友達と確認し合うことで、客観的に課題を把握させました。かかえこみ跳びという技が「できた」「できなかった」をゴールにするのではなく、「跳び箱に足の裏で乗れた」「舞台上のマットに着地できた」といった小さな成功を積み重ねていくのです。その小さな成功がたくさん集まることで、自己有用感を育むことを目指しました。
授業の最後では、4人の児童にかかえこみ跳びを跳んでもらいました。単元内自己決定型学習では、子どもたちが自分で学習内容やペースを決めていくので、体育の得意・不得意に関わらず集中して取り組めていると思います。
6年社会
学び方を自分で選ぶ

—工夫した点を教えてください。
藤本教諭 今日の授業は、日本がどのような国際協力をしているか、発展途上国のために何ができるかをテーマに考察しました。単元内自己決定型学習の今回は、自由に学習を進めるというより、子どもたちが学習手段を自由に選択することに、重点を置いています。「今日はこの授業をここまでやる」と目標を決めて、どのように学習を進めていくかも子どもたちが自分たちで決めました。
「教室で先生の説明を聞いてから、始めたい」「友達と相談しながらやりたい」「一人で黙々とやりたい」と、希望別に3つの教室にわかれています。さらに今日はNHK for Schoolの動画から分かったことをもとに、さらに学習したいことを見つけたいと計画している子どももいたので、音を出して良い教室として2つを開放。教室移動も自由にできるようにしています。

—子どもたちが自分の意思で迷いなく5つの教室にわかれたことに驚きました。子どもたちの反応はいかがでしたか。
藤本教諭 友達と相談しながら勉強する教室が人気でした。一斉授業だと集中が切れてしまう子も、当事者意識とやる気が出ているのを感じました。
教室は分かれていますが、タブレットを使うことで、先生も子どもたちも、他の子がどんな入力をしているかが見られることはメリットだと思います。それが「先生、教えて」と聞く前のヒントになり、学習進度が遅れている子も友達のやり方を参考にしながら進めることができています。先生が教室を回らなくても、子どもの進捗を手元で確認でき、進んでいない子に声をかけることができています。
一方で、デジタルで積み重ねた学習履歴を中学校に上がったときに引き継げないのは懸念点です。そのため、タブレットで作った発表資料などは単元が終わるごとに印刷し、ノートに貼って紙で残すようにしています。
6年理科
既習を生かして、どう調べる?

—工夫した点を教えてください。
小山教諭 今回の理科の授業では、単元内自己決定型学習(自由進度学習)を行いました。まず大きな課題「なぞの水溶液を探せ!」を提示し、結果を子どもたちが予想するところから、スタートしました。その仮説を実証するために「どんな実験方法で取り組むのかを計画する」ところから子どもたちの学習が始まるのです。計画の中で、実験方法は子どもたちが考えて選択しました。しかしながら、理科実験の場合は危険なケースもあり、注意が必要です。
今日の時間は、危険のない題材が多かったです。「試験管に入った7種の水溶液が何かを調べてみよう」と投げかけました。子どもたちは自然に、これまでの授業で扱ったうすい塩酸・うすいアンモニア・水・炭酸水・食塩水・重曹水などの調べ方を確認し始めました。今までに学習した知識を使い、子どもたち自由に取り組んでもらう授業ができたと思います。友達同士で「どうやったら調べられる?」と、さまざまな方法を持ち寄り、楽しんで実験を進めていました。

「見た目で判断」「においを嗅ぐ」「リトマス紙を使う」「蒸発させてみる」など、教科書に書かれている方法はほぼ、子どもたちからアイデアとして出てきました。
あえて失敗を止めないことも大切にしています。例えば、性質を調べる前に石灰水を混ぜてしまい、「全部混ぜてしまったら調べられない!」と後から気づく。こうした失敗こそが納得感のある学びにつながります。子どもたちは自分たちのアイデアで実験が進められることを楽しみ、目的意識を持って取り組んでいました。
これからの課題
同校は各学年1クラスの単学級のため、学年を受け持つ先生が、ほとんどの教科の授業準備や資料作成をすべて一人で行う必要がある。「他の先生に相談したいけれど、学年が違う上に先生も自分のクラスのすべきことが多く、相談する時間が取れない」という、小規模校特有のしんどさがあるそうだ。
後編では同校の取組や工夫について、関田校長にインタビューする。
取材・文・写真:学びの場.com編集部
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