個別最適な学びの充実をめざして(後編) 特別支援教育をベースに、学び方や進度を自己決定

自然豊かな神戸市北西部に位置する神戸市立木津小学校は、すべての学年が単学級の小規模校。常勤の教職員13名(管理職を含む)という体制で、子どもたちの主体性と教職員の働きやすさを両立させる学校運営が進められている。後編では、以前、教育つれづれ日誌でも連載されていた関田聖和校長に、単元内自己決定型学習や、震災学習、コミュニティ・スクールとの連携、教職員の働き方改革などについてインタビューした。
単元内自己決定型学習とは
より主体的・対話的で深い学びへと誘う一つの手段

関田 聖和 校長
—まず校内研修について伺いたいのですが、「単元内自己決定型学習」を導入されてから、子どもたちにどのような変化がありましたか。
関田校長(以下、関田) 一言で言えば、子どもたちが学習に対して前のめりになりました。小規模校は一人ひとりに目が届くという大きな利点があります。そこで、自分のペースで学習を進めるこのスタイルを導入したところ、普段学習についていくのが大変な子ほど、自ら意欲的に取り組む姿が見られるようになりました。
多様性を包摂しながら、子どもたちが学ぶ場、学び方、学ぶスピード、学ぶ量を自己調整・自己決定していく中で、より主体的・対話的で深い学びへと誘う一つの手段が単元内自己決定型学習(自由進度学習)だと考えています。
単元内自己決定型学習は全国で取り組まれていますが、成功のカギは「特別支援教育をベースに置いているか否か」だと思っています。特別支援教育がもとになってこそ、個別最適な学びがあるんです。
個別最適な学びにするためには、子ども一人ひとりの状態を把握し、どうしてそのような言動をとるのかという背景理解が欠かせなくなるのです。特別支援教育で言われる「実態把握」と「背景理解」です。授業の準備をするときに、我々教師は、つまずき予想をします。その際に「あの子は、こうすると取り組みやすくなるかな」と教材を準備していくことになります。これが指導の個別化になります。そして子どもたちは、いくつかの教材の中から自身で選択し、計画することで、学習を進めていきます。つまり学習の個別化が生まれます。本日は、祝日明けの5、6校時の授業時間でした。それでも教科学習に前のめりになるのは、先生方の子どもの「実態把握」と「背景理解」の成せるわざです。
今年度、加賀市立山代小学校・愛知県東浦町立緒川小学校・奈良女子大学附属小学校、そして、神戸市立長田中学校の研究会へ参加しました。本校の教員も参加しています。これらの実践を全教職員と共有し、まずは模倣するところから始めています。
子どもたち同士で学習を進めていると、自然な形で、協働的な学び姿を見せることがあります。奈須正裕先生(上智大学)が言われる「情報技術パラダイム」のような授業になっていくんです。
震災を自分ごととして語り継げる「共事者」を増やす
教員も震災後生まれに

—阪神・淡路大震災の授業について、お聞かせください。
関田 今年は避難訓練をしたあと、震災当時の話をしました。避難訓練の設定は、「地震が起こりグラウンドが地割れしたので外に避難できない」という想定です。子どもたちにとって安全・安心な小学校ですが、今回は耐震工事が終了している校舎が一番安全なので、教室で避難するという想定で行いました。
「震災30年限界説」と言われますが、教員として阪神・淡路大震災を経験した世代は定年を迎えはじめ、震災経験者は学校現場から減ってきています。私自身、震災当時は本山第三小学校(神戸市東灘区)に勤務していました。目の前で高速道路が倒壊するような凄まじい被害でした。6名が亡くなり*、けがをした子どももたくさんいました。
*兵庫県教育委員会:阪神・淡路大震災で亡くなった公立学校の教職員・児童生徒
教師としてあの場にいた私の「生の声」を伝えること、そこで大切にしているのが「共事者(きょうじしゃ)」という考え方です。
—「共事者」には、どのような意味がありますか。
関田 この言葉は、東日本大震災を経験した福島県出身の大学生たちが立ち上げた大学生の団体「トウテン」の代表から教えてもらった言葉です。
直接被災していなくても、その出来事に関心を持ち、一緒に考えてくれる人のことを指します。子どもたちには「君たちもこの教材で勉強することで、ともに考え、共事者になっていこうね」と話しています。
震災から20年目の節目のときに、ようやく震災のことをオープンに話せるようになりました。ふたつめの神戸市歌『しあわせ運べるように』は、当時の光景を思い出して胸が詰まる思いで、最後まで歌えません。どうしても止まってしまって……震災から31年目を迎えた今も変わりません。
だからこそ、震災経験の有無で線を引くのではなく、同じ目線で震災を「自分ごと」として捉えてくれる人を一人でも増やしたいんです。今年度も、各先生方が取り組んでくれた授業では、子どもたちもいつもより真剣に取り組んでいました。
働き方改革の推進
職員室に「木津カフェ」を設置

—先生方の「働き方改革」の取組についてもお聞かせください。
関田 今年度の重点目標にしている「笑顔いっぱいの学校」を実現するためには、まず先生たちが笑顔でなければなりません。そして笑顔になるためには、余白と余裕が必要だと考えています。そこで、職員室の中にコーヒーマシンを置いた休憩スペース「木津カフェ」を作りました。 神戸市の多くの学校では、16時から16時45分までは「休憩時間」と設定されています。本校では、会議や業務をできるだけ入れないようにしています。
昔の教職員は、休憩なんて取らずに会議や業務をしていましたが、今はあえて「何もしない時間」を確保するようにしています。コーヒーを飲みながら先生同士が顔を合わせ、そこで何気ない雑談が生まれる。そして余白・余裕が生まれることで、お互いを知る時間も増えると考えています。
また、昨年度、学校だよりで「先生の勤務時間は8時15分から17時まで」と明示しました。あるコミュニティースクールの方からは、「知らなかった」「教えてもらってよかった」との声をいただきました。だから子供たちが教室へ入室する時刻も8時15分からです。8時10分頃に集まってきて、待ってくれています。おおむね保護者の方々、子どもたちも受け入れてくれていて、本当に有難いです。
17時には、学校の電話は留守番電話に切り替わります。こちらも保護者の皆さんも理解してくださっています。「休憩時間に電話をして、申し訳ありません」と、こちらが恐縮するような電話をいただくこともあります。
先生たちも、朝から自分の子どもを保育所へ送ることができ、適切な時間に授業の準備をすることができているようです。また、フレックス勤務や代休も柔軟に取ってもらっています。先生方も「自分の子どものために休みます」と言いやすい雰囲気をつくりたいので、校長である私も、我が子の授業参観や行事の見送りにのために、休みを取っています。担任の先生が休むときには、担任を持たない先生が代わりに授業に入るなど、お互いにフォローし合える体制を整えています。
学校運営協議会 木津-CS の支援

—コミュニティ・スクールであることを活かして、運動会の運営方法を変えたとお聞きしました。
関田 木津小学校には、フルタイムの教職員が私を含めて13人しかいません。この人数で、運動会の準備から校外学習の引率まで、すべての教育活動を従来通りに行うのは物理的に限界が来ています。PTAや保護者の会(今年度末発展的解消)もなく、本校では学校運営協議会の木津-CS(木津コミュニティースクール)と連携して取り組むことになりました。
「笑顔いっぱいの学校」をと、木津小学校の卒業生で、世界的なブレイキンのダンサーを招いたイベントでは、準備や当日のMC、運営に至るまで、すべて木津-CSの方々が担当してくださいました。学校側は完全にノータッチで、純粋に教育活動の部分だけを楽しむことができました。
また学校の申し込みで取り組んだ「ごはん塾(校庭に設置した釜で、全員の昼食用のご飯を炊いた)」では、たくさんの大人の支援者が必要だったのですが、木津-CS委員長の呼びかけでたくさんの保護者や地域の方が、お手伝いに来てくれました。
先日、今年度の第5回運営会議を行い、来年度の取組や運動会の具体案を協議しました。従来通りの行事に近づけるために「地域の力を借りたい」という実情を確認し、保護者だけではなく、地域の方々もに助っ人として入ってもらうことを願っています。
運動会実施を4月に前倒しする予定です。そのため、入学したての一年生が練習で取り組むことは、かけっこのみ。その他の学年も走競技の取組にして、リレーの走り方などの指導は先生が行います。他の競技は練習のいらないものにして、木津-CSの運営委員の方や地域の方々が中心となって、当日、用具出しや進行をしてもらう計画でいます。うまくいくように木津-CSと協力しながら取り組んでいきます。
―一方で、今の学校現場には、先生の努力だけでは解決できない課題も多いと伺いました。
関田 そうなんです。実は、先生が一番時間を割きたい「授業準備」や「教材作成」は、勤務時間内にはほとんどできていません。本校では、先生方の授業の持ちコマ数を週20時間前後に減らす工夫はしていますが、それでも準備や丸付けなどは、依然として自宅に持ち帰ったり早朝の時間を使ったりして行っているのが現状です。
―大変な状況でも前向きなメンバーばかりなのは、やっぱり子どもたちと向き合うこの仕事が好きだからでしょうね。
関田 私がこれから挑戦したいのは、先生たちが雑務から解放され、プロとして「教育そのもの」に100%専念できる環境を突き詰めていくことです。当たり前にあったものも、一度見つめ直しながら、神戸市校長会が目指す「子供をまんなかに」置いた学校づくり・特別支援教育をベースに置いた「個別最適な学びのある授業の充実」とともに、この木津小学校の子どもたちがのびのびと過ごし、保護者も先生も地域の皆さんもみんな笑顔になれる。そんな学校の形をこれからも模索し続けたいと思っています。
記者の目
先生の声かけで子どもたちが主体的に学びたい部屋に移動し、先生がいない時間帯も、集中して学習に取り組んでいる姿に圧倒された。小規模校でも、タブレットを使いこなして、多様な学び方を実現しており、先生が一方的に教え、子どもたちは教わる立場という、従来の学校イメージが覆された。
取材・文・写真:学びの場.com編集部
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