2020.02.26
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教師が自主的に楽しんで取り組む研究授業(前編) 京都市立岩倉北小学校の主体的能動的な研修「公募型研究授業」

京都市左京区にある京都市立岩倉北小学校は、教職経験5年未満若手教員が6割を占めています。「子供が活躍する授業を︕」「授業で勝負できる教師になろう︕」を合言葉に毎年多数の研究授業が行われてきました。
2020年1月29日、無記名で提出された15の単元指導計画の中から、「この授業を聞いてみたい」という声が集まった4つが選ばれ、公開授業が行われました。今回、教頭の牧紀彦先生が企画した「IKS総選挙公開授業/公募型研究授業」を取材しました。記事の前編では、トップ当選をした森裕美子先生の授業をリポートします。

トップ当選者の授業を拝見!

世界の子どもたちに起きている問題を解決するための方法を考える

学年・教科:小学校6年 社会科

単元:世界の中の日本「世界の未来とわたしたち」(全8時間中6時間目)

単元の目標:地球規模で発生している課題の解決に向けた連携・協力などに着目して、国際連合の取り組みやODA(政府開発援助)、企業のCSR活動などを手掛かり に、我が国が平和な世界の実現のために国際連合の一員として重要な役割を果たしたり、諸外国の発展のために援助や協力を行ったりしていることを理解することを通して、世界の人々と共に生きていくために大切なことや、今後、我が国が国際社会において果たすべき役割などを多角的に考え、表現し、平和な国際社会の実現を目指して努力を続けていくことが必要であると自覚する。

本時の目標:世界の子どもたちを取り巻く問題の解決のため、わが国が国際社会において果たすべき役割について考えたことや選択・判断したことを説明する。

授業者:森裕美子 教諭

使用教材・教具:ホワイトボード、大型ディスプレイ、教員作成のユニセフや企業の国際支援事業紹介カード資料、子どもたちがグループで資料整理と考察をするためのボード

前時の振り返り

ホワイトボードに書かれた研究授業のテーマ

子どもたちの机はコの字型に並べられており、中央にある大きな台に、森先生が作成したユニセフや企業の国際支援事業紹介のカード資料が置かれていています。このカード資料はこの単元の中盤の調べ学習から使用しているそうです。

授業は元気なあいさつでスタート。森先生に指名された子どもたちが「みんな笑顔になるから、森永製菓やユニクロなどのプロジェクトが良いと思いました」「フェアトレード製品を買うなど小さなことも、みんなで協力すれば大きくなると思いました」など、前時に考えたことを発表します。1人あたり5文程度でそれぞれの思いをまとめていました。

導入:新しく建設された学校が廃屋に変わってしまったのはなぜ?

子どもたちに呼びかける森先生

森先生は、5歳未満の子供たちの死亡数のデータを映し出しました。1990年には1260万人が亡くなっていましたが、2017年には560万人まで死亡者数が減少していることに子どもたちからは「減ってる」「でもまだ多い」と意見が出ます。
続いて森先生は、廃屋に変わってしまった学校の写真を示します。「世界各国や企業がいろいろな努力をして、学校がなかった地域に学校を建てました。せっかく建てたこの学校ですが、実は、数年後には使われなくなってしまいました。なぜでしょうか?」という森先生の言葉に、子どもたちはしーんと静まり返ります。

その後、森先生の呼び掛けで、子どもたちから意見が出始めます。「行く人がいない」「子どもが働いているから行けない」「遠くて行けない」「子どもが学校に行くという認識がない」「勉強道具がない」「お金がない」「先生にお給料が払えない」「かしこい人、教える人がいない」などです。
これらの意見を板書した森先生は、続けて今日考えていくテーマ「世界の子どもたちを助け、よりよい未来をつくっていくにはどうすればいいのだろう。」を板書し、子どもたちはノートに書き写します。

少人数グループで「なぜだろう?」の議論が始まる

テーマに沿って子どもたちが議論を行う

次のような「ワールドカフェ方式」で子どもたちが4人ずつの班に分かれて話し合います。

①4人1組で席に着く
②一定時間の議論の後にメンバーを入れ替える。1人はそのままグループに残り、他のメンバーは席を移動して他のグループに移る
③議論で出されたアイディアはテーブルの中央にある大きなボードに書く
④最後には教室全体でアイディアを共有する

議論を進める子どもたちは、自分たちの主張の根拠となる資料を中央の台からとってボードに貼りつけたり、自分たちの意見を書いた紙をボードに貼りつけたりして、整理していきます。
班の子どもたちは、誰もが人任せにすることなく、話し合いに参加していました。公開授業を参観している大人が、テーブルをのぞき込んでも動揺することなく、自分のやるべきことに集中しているのが印象的でした。森先生は各班の様子を見回りながら、議論の進捗状況を確かめ、「話し合いは進んでいる?」「どんな資料があれば進むと思う?」「前の授業のノートがあれば進むと思う?」など短い言葉で助言していきます。

「違う班の意見を聞いてみよう」の言葉で席を移動

  • 森先生も議論を促す

班での議論開始から10分ほど経過し、先生は「行き詰まっている班はありませんか?」「他の班の考えを聞いてみよう」と促します。子どもたちは1人がそのまま班に残り、他の3人は別の班の机に移動して、他の班の考えを説明してもらいます。子どもたちは、ほかの班の考えを楽しそうに聞き入り、また、説明のためにそのまま班に残った子どももイキイキと説明しています。

各班の意見をまとめ代表者が発表する

堂々と発表する男子児童

席の移動から7分が経過したころ、先生は「元の班に戻って班としての考えをまとめ、発表してください」と促します。子どもたちからは次のような趣旨の発表がありました。

1班目:助け合いの精神が大事。東日本大震災のときは他の国が日本を助けてくれたので、日本も助けていくことが大事だと思う。
2班目:助け合いと国際協力が大事。日本の人が現地に教えに行くことも重要。
3班目:フェアトレード商品の販売量が日本は少ないので、その状況を改善していくべき。
4班目:フェアトレードマークのついた商品は、ついていない商品に比べて高い。
この意見を発表している男子児童が自分で調べたところ、チョコレートの場合は50円くらいの差がある。安い商品を買うのもよいが、国際的な問題を解決するにはフェアトレードマークがついている商品を選ぶほうがいい。(この発表に、子どもたちからは「おお~」と感嘆の声が上がりました)
5班目:先の班が言ったように、寄付とはちょっと違う形だけれど、フェアトレード商品を選んでいきたい。

各班が発表を終えるごとに、聞いている子どもたちは「よいと思います」と声を上げていました。

今日の授業の振り返り

今日の振り返りをノートにまとめる

森先生が「今日の授業を通して考えたことを、ノートにまとめてください」と促し、子どもたちは静かに鉛筆を走らせます。授業の締めくくりには、森先生が指名した子どもが、「1円や100円の寄付で何になると思うより、その1円や100円で誰かの力になるということを頭に入れながら行動していきたい」「大人も、現状について学んでいくことが大事だと思う」など自分の考えを発表しました。短い文章ではありましたが、子どもたちの真剣な思いがあふれていました。

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