2019.07.19
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「考え、議論する道徳」を実践する(後編) ―印西市立原小学校 道徳科・校内授業研究会リポートー

千葉県の印西市立原小学校で行われた道徳科校内授業研究会。前編では、研究主任の今野みさ子教諭による『ロレンゾの友達』を題材とした5年生の授業を紹介した。
後編では、授業後に行われた協議会の模様をリポートする。校内授業研究会の外部講師として招聘された成田市立新山小学校・石川昭代校長は、今野教諭の授業をどのように評価したのだろうか。また、授業者のインタビューでは、今回の授業者であり、今年度の研究主任である今野教諭と昨年の研究主任である沼田和江教諭、また、原小学校の道徳教育の中心的な役割を果たす道徳教育推進教師の山本靖子教諭によるインタビューを対談形式でお送りする。

協議会で授業を振り返る

「考え、議論する道徳」であったかを検証

協議会は、授業者の今野みさ子教諭の振り返りからスタート。

「最初は少なかったニコライへの賛成意見が途中から増えました。なぜ意見が変わったのか、そこをもう少し拾っていたらその後の展開がもっとスムーズだっかもしれません。あと、最後の終わり方はあれでよかったのか。私ひとりが『友だち』の詩にジンときていて、子どもたちはいまひとつピンときていないようでした」

他の教員からは「中心発問へのもっていき方が自然。急に質問が入ったわけではなかったので、うまく流れていったのではないかと思う」と評価する声があがった。

石川校長は「原小の子どもたちは本当によく発言をするし、鍛えられていて素晴らしいと感じました。先生との人間関係がいいからでしょう」と評価を述べたうえで、授業を展開するうえでのポイントについて助言・指導を行った。

「3人の考えを理解し、自分はどの人の意見に近いのか考える部分に大半の時間を割いてきたのが従来の授業です。ですが、『考え、議論する道徳』ではもう一歩踏み込む必要がある。ポイントは3人ともロレンゾが罪を犯した前提で話し合っていること。つまり3人ともロレンゾを心底信じていないのです。授業ではこの部分についてたっぷりと時間を割くべきでしょう」

さらに、原小学校の子どもたちのポテンシャルを見込み、石川校長は次のような提案も述べた。
「指導書には載っていませんが、『困っている友達がいたらどうしたらいいのか』をテーマに議論してもいいのでは。このテーマだったら、ロレンゾが罪を犯して帰ってきた場合を想定してもいいでしょう。本当に困っているロレンゾに対し、友達としてできることは何なのか? 原小の子どもたちならきっと3人を超える考えを述べると思います」

また、評価に関するアドバイスとして、「子どもたちの発言を板書し、誰がどの意見を言ったのか分かるようにネームプレートを貼ってはどうか。そうすれば授業のキーとなるような発言をしたのが誰なのかがひと目で分かるし、最後に板書を写真に撮ることで評価材料を整理するための時間が短縮できる」と語った。

授業者に聞く

本音を引き出すには素地作りが重要

――道徳が教科化され、1年がたちました。去年と比べて子どもたちに変化は見られますか? 

今野みさ子(敬称略 以下、今野) 活発に話し合う原小の道徳に、子どもたちが慣れてきているのを感じます。当初は周りを気にして本音を言えない子が多かったのですが、最近は大分本音が出せるようになってきました。それも、ただ自分の意見を言うだけでなく、相手の意見を受け止めながら「なるほど、でも自分はこう思う」と言えるようになってきたのは大きな進歩です。

――授業の見学に来ていた他校の先生方や講師の方が口々に「原小はすばらしい」と言っていたのが印象的でした。それはまさに「考え、議論する道徳」が実践できているからだと思うのですが、どのように子どもたちの本音を引き出していったのですか?

山本靖子(敬称略 以下、山本) 去年の夏ごろまでは本音を言えない子が多かったですよね。

沼田和江(敬称略 以下、沼田) 夏休みに「どうしたらいいのだろう」と先生方と話し合いましたよね。それで歌でもつくろうかということになり、原小オリジナルの歌『すてきななかまに』をつくりました。また、発言しやすいかどうかは聴く側の受け入れ体勢にもよるので、『あいのそなたさ』という聴き方のスキルを何度も意識させました。

山本 「間違えてもいいんだよ、うまく言えなくてもいいんだよ」という素地をつくるまでに苦労しましたが、おかげさまで今では「手をあげすぎるのが原小の課題」と言われるまでになりました(笑)。

「すてきななかまに」
星清彦 作詞 山本早苗 作曲


あのね
聞かせてよ
みんなの気持ちを

あのね
聞かせてよ
みんなの心を

だれにもきっとあるでしょう
いろんな思いが
はずかしがらずに
手をあげよう
まちがいなんてないんだから

だれにもきっとあるでしょう
いろんな思いが
さあみんなでいっしょに
考えよう
そして
すてきななかまになろうよ

――あれだけ子どもたちの発言が多いと、1時間で授業を終わらせるのは難しそうですね。

今野 子どもたちの意見をなるべく拾い上げたいとは思いますが、言いたい放題にさせてしまうと時間内にまとめられないため、論点をずらさないよう心がけています。たとえば『ロレンゾの友達』の狙いは3人の意見のどれが正しいかを考えることではなく、3人が「友達として真剣に考えているのか」を話し合うことにあります。そのため、ひとりが発言した後、その発言に反する意見を支持している子どもを指名していくことで、話し合いの論点がぶれずに済み、時間内に終わらせることができました。

主体的で深い学びの実践

沼田和江教諭

――原小学校の子どもたちは「対話」に関しては素地がすでに出来上がっているように感じます。主体的な学びについてはどのような点を意識して授業をしていますか?

沼田 「自我関与」という言葉がキーワードになるのではないでしょうか。授業のテーマを自分ごととして捉えられるよう、指導内容を工夫していく必要がある。

山本 テーマ選びも大事ですよね。子どもたちが考えたくないようなテーマだと、授業が白けますから(笑)。いかに興味をひくテーマを見つけ、授業の導入部分へと組み込んでいくのかが鍵だと思います。

――深い学びについてはいかがでしょうか?

今野 今回の『ロレンゾの友達』でいえば、3人それぞれの意見に対して子どもたちが意見を述べたところで、切り返しの発問をしたり、問い返しの発問をして揺さぶりをかけることで、より深い学びへとつなげていくことを意識しました。「主体的な学び」が「対話的な学び」によって広がり、自ずと「深い学び」につながっていくことを目指しています。

即効性を求めず、諦めず、いじめ問題と向き合っていく

今野みさ子教諭

――道徳が教科化された背景には「いじめ問題」がありますよね。いじめ問題に対してはどのようにアプローチしていますか?

今野 道徳の授業では「いじめ問題」が直接的なテーマではない教材だとしても、いろいろなところでつながっています。たとえば『ロレンゾの友達』なら、本当に相手のことを考え、思いやるとはどういうことなのかを考えていくと、おのずといじめ問題へとつながっていく。

山本 いじめは結局、相手のことを考えていないから起こるんですよね。

沼田 でも、「相手を考える心をもとう」と言ったところで、すぐにできるようにはならない。道徳は直接的な学級指導とは異なり、根本になる考え方を育てる学問。即効性はありません。誰でも「分かっているけれどもできない」ということがあるはず。行動にはなかなか出ないけれども、子どもたちがいつかできるようになると私たち教員が信じ、諦めない姿勢でいることが大事なのではないでしょうか。

山本 いじめがいけないことは誰でも分かっているのに、なぜなくならないのか。考え、議論し続けるしかない。

今野 いじめをしないのはもちろん、「傍観者になってはいけない」と伝えていくことも重要ですよね。

沼田 たとえいじめが起きても「それっておかしいよね」と言える人が増えれば、周囲が抑止力になっていじめが起きにくくなっていくはずです。そんな人をひとりでも増やしていくのが道徳の役目だと思っています。

子どもたちの実態に合わせてテーマを投げかける

山本靖子教諭

ーー授業において大切にしていることを教えてください。

山本 指導書に頼りすぎず、子どもたちとの対話を通して授業をつくっていく意識です。道徳には一応指導書がありますが、それ通りにやるとつまらない授業になります。議論が活発になるのか、白けた雰囲気になるのかは教員の力量次第であるところが、道徳の難しさであり、楽しさでもあると思っています。

沼田 教材の持っているテーマを、できるだけ子どもたちの実態に合わせて設定することが大事です。たとえば「いじめ」が大きなテーマとなっているなら、「実際にいじめが起きているとき」「いじめは起きていないけれども、つながる要素が見られるとき」「いじめの兆候がないとき」というように、それぞれの状況に合わせたテーマ設定をする。そこの部分がずれていると、何度同じ教材で授業をしてもうまくいかず、議論が深まっていきません。日々子どもたちの様子を観察し、授業の中で子どもたちの実態に合っていると思われる発問を考え、ずれていたら修正する。これを繰り返していくしかない。

ーー今後の課題を教えてください。

沼田 もっと教材を研究していきたいと思っています。教科書にかぎらず、映像やTV番組なども含め、子どもたちの実態に合ったものを見つけ、自分たちで開発していくことも、これからの道徳の授業では大切なことではないでしょうか。

――ありがとうございました。

取材・文・写真:学びの場.com編集

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