2019.01.30
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ロボット教材を活用した課題解決のためのプログラムを考えよう!(後編) 全教職員でプログラミング教育研究に挑む茨城県古河市立大和田小学校

2015年9月、茨城県古河市の全小学校にタブレット端末が導入され、今年度は「茨城県小学校プログラミング教育推進事業」の重点校に認定された大和田小学校。現在約4年間をかけて教職員全員でプログラミング教育の研究を行っている。後半では引き続き、具体的な取り組み内容や、授業デザインにおいて大切なことなどをお届けする。5年生の理科・単元「流れる水のはたらき」にてプログラミング教材を導入し、授業を行った飯田敏夫教諭にインタビューさせていただいた。

授業者に聞く

学校組織としてプログラミング教育の授業構想を考える

古河市立大和田小学校 飯田敏夫教諭

―プログラミング教育を進めていくきっかけを教えてください。

飯田敏夫(敬称略 以下、飯田)2015年の9月に古河市にタブレット端末(iPad)が導入され、本校は小規模校ということもあり、全校生徒に一人1台ずつタブレットが整備されました。初めのうちは教育機器のツールとして取り入れ、徐々にプログラミング教育をどのように教科に入れていくかを考えるようになりました。

―具体的には、プログラミング教育をどのように推進されているのですか?

飯田 月に一度の職員研修で、授業検討会や模擬授業を繰り返して授業の改善を図っています。一教師としての授業イメージではなく、学校組織として授業構想を考えていくことがねらいです。職員がそれぞれ児童役と教師役を務め、授業の「導入」「展開」「まとめ」そして「振り返り」までを実践し、改善点をその場で話し合うという流れになってます。‟自分が授業者だったら”という当事者意識を持つことで、職員全員が授業デザインを共有しつつ改善を図っていくことができました。こういった事前の取り組みが、私たち授業者にとっても安心して授業ができることにつながっていると思います。前例がないので、トライ・アンド・エラーの繰り返しです。ときには「本当にこの授業にプログラミングは必要か」と、導入予定だった授業を変更することもあります。

プログラミングの授業の選定、事前準備が授業成功のカギ

ー今回、「流れる水のはたらき」でプログラミングを導入した背景を教えてください。
飯田 どの単元で、どんなプログラミング教材を導入するかについてはとても悩みましたね。「電流がうみ出す力」で電磁石の動きを理解したり、「ふりこのきまり」の単元でふりこを制作することも考えていました。他にもプログラミング教材を導入できる候補があり、教材と単元の相性や教材そのものの難易度を見極めました。今回の単元と教材に絞ったのは、洪水災害という身近な問題を扱うことと、慣れ親しんだブロックで感覚的に作業が進められたので、取り入れやすかったことが決め手でした。

ー授業にふさわしいプログラミング教材の選定も大切なのですね。
飯田 レゴ®WeDo2.0は児童にとって初めて扱うプログラミング教材でしたが、今までに行われたプログラミング授業の反省と、積み重ねてきた模擬授業での協議を活かし、実施するのにふさわしい単元・教材を選定することができたと思っています。また、総合的な学習の時間(以下、‟総合”とする)の授業との連携により効率的な授業計画が立案できたことも功を奏しています。

―児童たちは授業中スムーズにプログラミング教材を操作していたようですが、事前にどのような準備をしたのでしょうか?
飯田 授業は45分間という限られた時間なので、総合的な学習の時間とあわせてプログラミング教材の操作方法の指導を行い、理科の授業では洪水対策を中心に行うように分けて準備をしました。

―初めてレゴ®WeDo2.0に触れた時の、子供たちの反応はどうでしたか?
飯田 実際にブロックを手にすると、いとも簡単にパーツを組み立て、タブレット端末から操作を始めたことに驚きました。教師は理屈を考えるので操作に手間取りますが、児童は直感的に考え、意図した動きを加えていきます。オリジナルのアイデアを出し、どんどんロボット作りと操作を改良しスキルアップしていきました。

教科のねらいは洪水対策を考えること。目的から目をそらさない工夫が必要

ー今回の授業成功のために工夫した点を教えてください。
飯田 子供たちの学びの深まりや協働学習の場面を考慮して、3〜4人のグループで取り組ませたことです。背景にあるのは、事前に行っていた総合的な学習の時間でのプログラミング教材の技術指導ですね。2人でペアを組ませたところ、片方が黙々と作業をして個人的な作業になりがちだったのです。3〜4人とすることで、自然とグループ内で声を掛け合い、役割を決めながら話し合う場面が見られるようになりました。また、ワークシートやホワイトボードなどを取り入れ、考えたことをみんなで共有し、整理しやすい環境を作ったことも授業づくりに良い結果をもたらしてくれたと思います。

―ホワイトボードやワークシートはどのように活用したのでしょうか?
飯田 本時のねらいは洪水対策方法を考えることであり、プログラミングの操作ではありません。ですから、それを忘れないために以下のような手順を取りました。

①ワークシートに「洪水が起こり、人がどう動いて、どんな課題が考えられるのか」のストーリーを記入する。
②ホワイトボードで、「ロボットがどんな動きをしたら課題が解決できそうか」を考える。
③タブレット端末で、「ロボットの操作手順」を組み立てる。

課題解決のストーリーとロボットの動きを考え、仮設を立ててからプログラミングを進めました。どうしてもロボットやタブレット端末に触れているとそちらに気を取られて目的が変わってしまうからです。常に授業の目的を考え、みんなで話し合う協働学習の環境を作るために、ワークシートやホワイトボードは効果的だったと思います。

単元最後の授業で実施したワークシート

―反省点はありますか?
飯田 これだけ目的意識を持つように促しても、振り返りでプログラミングの操作に気を取られている児童もいました。それを反省して完結編の理科「第7時」では、ワークシートを手直しし、「理科の振り返り」と「プログラミングの振り返り」の2本柱にしました。

―児童は理解してくれましたか?
はい、ワークシートで頭の中を整理して、教科のねらいに即した振り返りをしていたようです。

ープログラミングを導入したことで、今回の授業は理解がより深まったと思いますか?
今までは教科書を中心に災害対策を考えていましたが、今回の授業のように洪水対策の一場面を想定し、ロボット教材で具現化したことで児童の意識の高まりにつながったと考えています。また、思考過程を可視化して整理しながら授業展開ができることも良い点ではないでしょうか。今回の授業にプログラミング教育を取り入れたことで、学習の理解が一歩進んだと感じています。

日頃から規則性を意識して、プログラミング的思考を養う

ープログラミングを授業に取り入れてみて、子たちにどんな力が身につくと実感されていますか?
物事を順序立てて考える力が身に付くと思います。協働学習を通して児童同士の対話も深まります。まだプログラミング教育の結果がどう出ているのかははっきりとは言えませんが、児童の中には「シーケンス(順序性)」などプログラミング用語を何気なく口にする子も出てきました。子供たちは臆せず何にでもチャレンジします。大人はつい先を読んで考え、進みが遅いこともありますから、子供たちの失敗を恐れない気持ちは大切にしたいです。

ープログラミング教育を通して、先生にも何か変化はありましたか?
授業を組み立てる側として、順序や規則性を意識するようになりました。物事の考え方も「正確に・簡単に・早く」と効率的に考えるよう心がけています。プログラミング教育導入当初は、正直なところ「難しいプログラミング用語を覚えるのだろうか」と困惑しました。けれど今ではそのような誤解も解けて、全職員でプログラミング教育と向き合い、授業づくりに奮闘しています。

ー最後に、これからプログラミングを授業に取り入れる先生方にメッセージをお願いします。
プログラミング教育の必修化に向けて、戸惑いながらも模索を続けておられることかと思います。学級の規模や教育環境も異なるので、導入される機器は適したものを選ぶことが大切だと思います。また、ICT機器を使用しないプログラミング教育を導入していくことで敷居も低くなるのではないでしょうか。
今回はロボット教材を使用した授業でしたが、本校の事例が他校の一助となれば幸いです。未来を担う子供たちのプログラミング的思考が育まれるよう、私たちも学校一丸となってさらに努力していきたいと考えています。

記者の目

何事も前例がないことにチャレンジするのは困難だ。それでも学校全体で新しい教育を模索されている姿に敬服する。野尻勝校長は「大和田小学校にいる先生が、異動先の学校でもプログラミング教育を牽引していけるようになってほしい」と語り、教員育成に力を入れているそうだ。プログラミング教育の研究は始まったばかりだが、大和田小学校の教員の方々の努力がさらなる発展に貢献することは間違いないだろう。

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