2016.10.26
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読み聞かせと実験を融合させた「理科読」授業 ~すべての子どもに理科の楽しさを ―桐朋学園小学校―

新たな教育の手法が、今注目を集めている。「理科読」だ。平たく言えば、理科を学ぶのに科学的読み物を読むという方法を用いることだ。株式会社内田洋行ユビキタスライブラリー部の土井美香子氏は、この理科読の出前授業を全国各地で行っている。さて、どのような授業が展開され、子ども達の反応や教育効果はどうだったか? 授業者達へのインタビューも含め、詳しくリポートしよう。

授業リポート

「光」をテーマに“質問-読み聞かせー実験”を繰り返し、興味・意欲を喚起

桐朋学園小学校で実践された「理科読」の授業

桐朋学園小学校で実践された「理科読」の授業

理科教育が今、大きな課題に直面しているのをご存知だろうか? 子どもの学力低下? いや、学力向上の懸命な取り組みの甲斐あって、学力は伸びている。OECDが行った2012年のPISA(学習到達度調査)でも、日本の子どもの「科学的リテラシー」は、34の加盟国中1位に輝いた。

課題はもっと根深い所にある。実は日本の子どもは、理科への興味関心がとても低いのだ。文部科学省によると、「理科の勉強は楽しい」「理科の勉強をすると日常生活に役立つ」「将来理科を使うことが含まれる職業に就きたい」と答えた児童生徒の割合が、世界に比べて低いのだ。科学技術立国を目指す日本にとって、深刻な事態である。

この課題の解決につながる新たな教育の手法が、今注目を集めている。「理科読」だ。平たく言えば科学的読み物を読むことからも、科学に親しみ、積極的に理科を学ぼうというものだ。(株)内田洋行の土井美香子さんは、科学的な読み物の「読み聞かせ」と「理科の体験」を合体させた理科読の出前授業を全国各地で行っている。

【導入】「見える」とは何?「色」とは何?

「今日は光について学びます。皆、今この図書室が明るいのはどうして?」
挨拶に続いて、土井美香子さんが質問すると、子ども達はそんなの簡単とばかりに、口々に答えた。
「光があるから」
「天井のLEDが点いているから」
そこで土井さんは聞く。
「そうだね。じゃあ目を閉じてみて。どう? 私が見える?」
学校図書室に集まった3年生達は素直に目を閉じ、「見えませーん」と答えた。表情には、《目つぶったら見えないのは当たり前》と書いてある。

授業者の(株)内田洋行の土井美香子氏が開いた絵本のページは一面真っ黒

授業者の(株)内田洋行の土井美香子氏が開いた絵本のページは一面真っ黒

だが、土井さんが
「目を閉じると、どうして見えないの?」
と尋ねると、子ども達の顔色が変わった。返答に詰まり、首をかしげる子ども。何人かが恐る恐るといった様子で手を上げ、
「光が目に入ってこないから……?」
「まぶたが光を遮っているからかな?」
と述べると、土井さんは「そう!」と大きくうなずき、
「見える、とは光が目に入ってくることなのです」
と、解説した。

《なるほど……》と、感心している子どもたちにテンポよく、土井さんは次々と質問を繰り出した。
「私が着ている服、何色に見える?」
「白!」
簡単な質問に戻り、元気を取り戻した子ども達だったが、次の質問でまた考えこんでしまった。
「じゃあなぜ、私の服は白く見えるの?」
押し黙り、顔を見合わせる子ども達。
「……白い色が付いているから?」
と、自信なげなつぶやきも漏れてきた。

そんな子ども達を優しげな表情で土井さんは見渡し、言った。
「白く見えるのは、白い光が反射して、皆の目に入るからです。この本棚が茶色く見えるのは、茶色の光が反射して、皆の目に入るからです。黒色は、光を吸収して反射しません。だから黒く見えるのです。試しに実験してみましょう」
と、土井さんは一冊の絵本を取り出して開いた。そのページは、なんと一面真っ黒。いぶかしむ子ども達。
「黒く見えるけど、実はここには絵が描かれています。絵が描かれたフィルムの後ろに黒い台紙があって、それが光を吸収してしまうから、真っ黒に見えるだけ。フィルムと黒い台紙の間に、こうして白い紙を差し込んでみると……」
すると、どうだろう。白い紙を差した所だけ、鮮やかな色彩の絵画が浮かび上がったではないか。
「すごーーーい!!」
歓声が湧き上がり、教室内に響いた。授業開始からまだ5分程度。子ども達は、土井さんの授業にすっかり魅了されていた。

【展開1】子ども達の大好きな「虹」から、光を考える

虹を作る実験で使った分光シート。明るい部屋で見ると写真上、暗い部屋で見ると写真下

虹を作る実験で使った分光シート。明るい部屋で見ると写真上、暗い部屋で見ると写真下

「じゃあ、光って何色あると思う?」
子ども達の心をがっちりつかんだ土井さんが次の発問をすると、
「三色!」
「七つ!」
と、元気のいい答えが返ってきた。
「さて、何色あるのでしょうね。では、ちょっと本を読んでみましょう」
と、土井さんは『にじ』(さくらいじゅんじ 著 いせひでこ 絵 福音館書店)を読み聞かせ始めた。後ろの児童にもよく見えるよう、図書室に設備された大型テレビに読み聞かせする様子が映し出されている。このように、「読み聞かせ」が入るのが、土井さんの出前する「理科読」の特徴だ。子ども向けの絵本ではあるが、その中身はとても濃い。

■飛行機の上から虹を見たら、どう見えるのかな?
■虹を裏から見たら、どう見えるのかな?
■虹を横から見たら、どう見えるのかな?

こんな疑問が、たくさん書かれているのだ。子ども達は《裏からは見えないんじゃない……?》とブツブツとつぶやいていたが、土井さんは敢えて正解を教えなかった。そして本を読み終えると、こう告げたのだ。
「後で読んでみてね」
このセリフを、土井さんはこの後、何度も口にする。

音読を終えると、土井さんは再び、質問の雨を降らし始めた。
「皆、虹を見たことある?」
「どこで?」
「どんな大きさ?」
と。古今東西、虹が嫌いな子どもはいない。皆口々に、
「プールで見た!」
「登山している時に見たよ!」
と、次々に答えていく。

「皆、大きな虹を見てみたい?」
と土井さんが聞くと、
「見たい!!」
と子ども達。
「じゃあ、面白い本を教えてあげましょう。この本には、虹の作り方が書いてあります」
と、土井さんは『虹をつくる 虹の見え方と光の性質』(板倉聖宣・遠藤郁夫 著 小峰書店)という本を、実物投影機を使って紹介し始めた。
「この本には、虹を作る条件が書かれています。二重の虹や、まん丸い虹を作る方法も載っているのですよ」
パラパラとページをめくりながら土井さんが語る本の内容を、子ども達は「すごい!やってみたい!」と目を輝かせながら聞いていたが、内容をざっと伝えただけで土井さんは本を閉じ、またこう言った。
「後で読んでみてね」。
読み聞かせるだけでなく、理科読では本の紹介も行うのだ。

子ども達は一人一枚ずつ配られた分光シートを使って夢中で光を見る

子ども達は一人一枚ずつ配られた分光シートを使って夢中で光を見る

そして間をおかず、土井さんは実験を始めた。
「では、虹を作ってみましょう」
そう告げると、手に持ったCDに懐中電灯の光を当て、天井に反射させた。天井に浮かび上がった色とりどりの光に、子ども達は興奮気味に叫んだ。
「すごい! 虹だ!」
すると、土井さんは
「もっとすごい虹を見せてあげましょう。これは分光シートというものです。これにライトの光を当てると……」
大きく広げた透明のシートに光を当てると、シートいっぱいに、目にも鮮やかな虹が出現した。
「すごい!! きれい!!」
今日最大の歓声が、地鳴りのように湧き上がった。やはり実験の威力は、絶大だ。そんな子ども達が、さらに歓喜する展開が待っていた。
「この分光シートを、一人一枚ずつ皆にあげます。色々な光を見て、虹を探してください」
「やった!」
と、子ども達は小躍りせんばかりに配布された分光シートに飛びつき、天井の電灯にかざし始めた。
「ホントだ! 虹が見える!」
「すごくキレイ!」
興奮する子ども達に、土井さんは懐中電灯の光を向けた。
「皆、注目! この懐中電灯を見てみて。何色の光が見える?」
「赤! 緑! 紫!」
「赤、橙、黄、緑、青、濃い青、紫かな」
「天井の電灯を見た時と、色の順番は同じ? 違う?」
「同じになっている!」
という子ども達に土井さんは
「そうだね。光の色の順番は、いつも同じ。この光を組み合わせて、さまざまな色が作られているのです」
と説明。そして、興奮冷めやらぬ子ども達に、再び本の紹介を始めた。
「これは、生き物の中にある虹色を紹介した本です。ほら、こんな風に、貝殻の内側は虹のように光っていますね」
「こっちは、絵画に描かれた虹を紹介した本で……」
そして、最後にもちろんこう付け加えた。
「後で読んでみてくださいね」。

【展開2】人間の目に見えない「光」を考える

次々とテンポよく繰り出される土井さんの質問に答える児童達

次々とテンポよく繰り出される土井さんの質問に答える児童達

「光」をテーマに、まずは「見えるってどういうこと?」という話題から入り、「色が見えるのはなぜ?」と展開。そこから子ども達の大好きな「虹」について「読み聞かせ」と「実験」を行った土井さん。

続いて、子ども達にこう問い掛けた。
「虹は七色とよく言われるけれど、それは人間の目に見える光の話です。人間の目には見えない光もあるのよ。知っている?」
すると、何人かの男子児童達が、
「知っている! 紫外線でしょ」
「赤外線もそうだよね!」
と、ハキハキと答えた。まだ3年生なのに、よく知っている。相当な理科好きのようだ。
「その通り! でも、紫外線や赤外線を見ることのできる生き物がいます」
と、今度は『動物の目、人間の目 (びっくり、ふしぎ写真で科学)』(ガリレオ工房 編 滝沢美絵 著 伊知地国夫 写真 大月書店)という本の紹介を始めた。
「モンシロチョウは、紫外線を使って仲間を見分けているのですって」
と、土井さんが解説すると、子ども達は
「へぇ~!」
と感心。話題に合った本を次々紹介して子ども達の興味をくすぐる、土井さんの見識の広さと授業計画の見事さに、私も感心した。

最後の実験で使用したUVビーズ。紫外線ライトを当てると白いビーズが紫色や水色等、色とりどりに変色する

最後の実験で使用したUVビーズ。紫外線ライトを当てると白いビーズが紫色や水色等、色とりどりに変色する

「皆の家にも、赤外線を使った便利な道具が必ずあるのだけど、何かわかる?」
「テレビのリモコン!」
「正解! では、私達の身の回りにある紫外線を使った道具は何でしょう? ヒントは、魚屋さんやお寿司屋さんにあるものです」
「うーん……」
「魚やお刺身を陳列しているケースに、紫外線灯というものがついています。紫外線には、殺菌する効果があるのです」
「そうなの!? そういえば見たことあるかも!」
このように、必ず子どもに身近な話題に展開するのが、理科読の特徴だと、段々わかってきた。

「では、光の面白さを教えてくれる本を音読しますね」
と、土井さんは、『光ってどんなもの』( マリア・ゴードン 著、マイク・ゴードン 絵 ひかりのくに)を読み聞かせをし始めた。これも絵本だが、内容のレベルはかなり高い。

■光は1秒間に地球を7周半する
■光はものに当たると跳ね返る。これが反射。
■反射の仕組みを使ったのが、鏡。
■月が夜でも輝いて見えるのは、太陽の光を反射しているから

こんな話を、子ども達は目を輝かせながら聞き入っていた。もうすっかり光の面白さに目覚めたようだった。

UVビーズを使って紫外線量測定ピンバッジを作る

UVビーズを使って紫外線量測定ピンバッジを作る

「紫外線は人間の目には見えません。でも、目に見えるようになる道具は作ることができます。皆で作ってみましょう」
授業もいよいよ終盤。最後の実験に取り掛かった。紫外線を浴びると変色するUVビーズを使って、紫外線量測定ピンバッジを作るのだ。

ワイワイと楽しそうに子ども達は作業に取り組み、完成させると窓際に走り、日光を当てようとするも、あいにく外は雨。そこで今回は紫外線ライトを使用。土井さんがライトを片手に紫外線を当てて回ると、
「ホントだ! 色が変わった!」
「青くなったよ!」
と、あちこちで歓声が上がった。
「紫外線を浴びすぎると、身体に悪い影響が出ます。外で遊ぶ時、このバッジを使ってみてね」
そして土井さんは、あっという間の40分を、こう締めくくった。
「今日はたくさんの本を紹介しました。この本は図書室にあるので、ぜひ、後で読んでみてね」。

先生インタビュー

「理科読」で、理科好きの子どもが増えている!

「理科読」で、言葉を育み、科学的思考力を伸ばす

「科学的読み物の読み聞かせや紹介」と「理科の実験」を融合させた理科読。そのねらいや効果は何なのだろうか。授業を終えた土井さんと、桐朋学園小・司書教諭の畝迫里佳子先生に、話を聞いた。

株式会社内田洋行 営業本部 官公自治体ソリューション事業部 ユビキタスライブラリー部 図書館アドバイザー 土井美香子 氏

株式会社内田洋行 営業本部 官公自治体ソリューション事業部 ユビキタスライブラリー部 図書館アドバイザー 土井美香子 氏

――理科読の授業、とても興味深く拝見させていただきました。「本」と「実験」を組み合わせるのが、とてもユニークですね。実験の楽しさを体験させる理科の出前授業やワークショップはよく耳にしますが、なぜ理科読では本を取り入れているのですか?

土井さん(以下、土井)子ども達に、科学的読み物の面白さを知ってほしいからです。子ども達は、読んで面白い科学の本がたくさんあるのをあまり、知りません。図鑑なら読むという子は多いのですが、そこから先のハードルが高い。図鑑から一歩進んで、科学的読み物にも親しませたいのです。

畝迫先生(以下、畝迫)本校の子どもも、物語は大好きな一方で、科学的読み物は人気がありませんでした。科学的読み物にも親しんでほしいと思ってはいたのですが、どんな本を薦めればいいのか知識も不足しており、蔵書も十分ではないと感じていました。そんな時、土井さんにお会いして、3年前から理科読の授業を開始したのです。

――なぜ子どもに「科学的読み物」を読ませたいのですか?

土井理由はいくつかあります。まず科学的読み物に触れることが、「科学的思考力」を育むことにつながるからです。今、国も科学的思考力を育むことを重視しています。

桐朋学園小学校 司書教諭 畝迫(せざこ)里佳子 氏

桐朋学園小学校 司書教諭 畝迫(せざこ)里佳子 氏

――文部科学省が「科学的思考力の戦略的育成」を目標に掲げ、科学技術立国・日本を支える子どもを育成しようと力を入れていますね。

土井「思考する」とは「言語化」すること。科学的思考を育むには、まず科学的な言葉を養うことが必要であり、言葉を育てるには、科学的読み物を読み、実験するといった、言葉と見たことしたことが密接になる「体験」が必要なのです。理科の授業だけでは、この体験が足りません。

畝迫子どもは体験したことを元に、言葉を育みます。例えば本校では、全学年で日記指導を行っていますが、体験したことを書き表すことで、言葉を育み、思考力を育てることができると考えています。インプット(体験)とアウトプット(表現や思考)を繰り返すことで、力がついていくのです。

今日の授業のことも、子ども達は日記に書くでしょう。理科読で科学的な体験の機会を増やし、子ども達の言語を育み、ひいては科学的思考を育てたいと考えています。

――なぜ本だけでなく、実験も取り入れているのですか?

土井本を読み聞かせるだけでは、「ふぅん」「へぇ」で終わってしまいます。本に書いてあることが正しいかどうか確かめることができないので、知識が体験と結びつかないのです。 逆に実験だけだと、「すごい!」で終わってしまいます。「実験面白かったね」と楽しい思い出が残るのみで、体験が知識と結びつきません。本と実験を組み合わせることで、知識が体験とがしっかり結びつくのです。

――今日の授業では、たくさんの本を読み聞かせたり、紹介したりしていました。「光」の話から「色」の話。そして「虹」や「目に見えない光」など、次から次へと話題が広がっていくのが印象的でした。

土井たくさんの本や話題を提供することで、子ども達の心にどれか一つでも引っかかってくれれば、と考えているからです。

――と、言いますと?

土井昔から、理科好きの子どもはいましたよね。図鑑が愛読書だったり、実験や観察が趣味だったり。でもそういう子は、一握りです。また、星のことだけ、虫のことだけという風に狭い関心の中で満足してしまっている子もよくいます。私としては、科学の広がりにも興味を持ってほしい。だから、一つのテーマでも様々なジャンルに話題を広げるようにしています。

――なるほど! 今日の授業でも「チョウは紫外線で仲間を判別する」と、光の授業なのに生物寄りの話題を展開していました。あれも昆虫好きの子どもの興味関心を引くためですか。

畝迫お気づきになったと思いますが、今日のクラスには、理科にとても詳しい子どもが数名います。3年生なのに万有引力やニュートンをすでに知っていたでしょ? 恐らく、彼らは家庭や塾で理科を話題にしたり、学習したりする機会が多いのでしょう。その一方で、理科にあまり興味のない子もいます。教師としては、すべての子どもに、理科に親しみ、興味を持つ機会を作りたいと思っています。

土井私も同じで、皆に理科好きになってほしい。理科に関心を持ってほしい。この思いがとても強いです。

畝迫土井さんの授業が素晴らしいのは、取り上げるテーマや内容が、子ども達にとって身近で日常的な点。日常的な現象から、多岐にわたって展開されるので、興味を持ちやすいのです。

――今日の授業では、本を紹介するたびに、土井さんが「後で読んでみてね」と呼びかけているのが、とても印象的でした。

土井自ら進んで本を読んだり調べたりする習慣を身につけてほしいからです。受け身で教わるのではなく、自ら学ぶ。いわゆるアクティブ・ラーニングですね。

理科読の授業で面白いことを教わった、で終わるのではなく、興味が湧いた本を積極的にどんどん読むようになってほしい。「丸い虹を作る方法が載っているよ」とだけ紹介して、敢えて答えを教えないのも、自分で本を読み、答えを見つけてほしいからです。

――理科に興味を持つ子どもは増えていますか?

畝迫理科読の授業を行うようになって、確実に増えています。科学的読み物の貸出件数も増加していますし、読書感想文を科学的読み物で書いてくる子も出てきています。

――授業が終わった後、子ども達は土井さんが紹介した本の数々に群がり、熱心に読んでいましたね。

畝迫さっそく借りて帰った子どももいました。嬉しいですね。

中学校で本格的に理科を学習する前に、準備運動をさせたい

――今日の授業で不思議に感じたのは、子ども達はノートもメモも取っていなかったこと。「今日は使いませんので、片付けてください」と、筆記用具をしまわせていました。

土井今日の授業は、理科の授業じゃないからです。桐朋学園小学校では、読書の時間を使って、理科読を行っているのです。

――そうなのですか! でも、せっかく良い本に触れ、良い実験をしても、ノートを取らないと忘れてしまうのでは?

土井そもそも理科読は、専門用語を覚えたり、理科の知識を“習得”したりするのが目的ではありません。“慣れ親しませる”のが目的なのです。

今の理科教育は、中学校になると急にレベルが上がります。例えば、小学校では「音」について習いません。中学校で突然、音の学習が始まるのです。小学校では聞いたこともなかった専門用語が次々と登場し、難易度も上がる。その結果、理科嫌いになってしまう子どもが後を絶ちません。この悪い流れに、歯止めをかけたいのです。 理科読で小学校のうちに触れておけば、中学校に上がっても「あ、これ聞いたことがある」と安心するし、「もっと知りたい」と学習意欲も高まりますよね。

――なるほど。小学3年生対象にしては高度な話題が多いなと感じていたのですが、中学校で理科を本格的に学ぶための準備運動なのですね。

土井小学校理科と中学校理科をつなぎ、学びに連続性を持たせて、理科嫌いの子どもが出るのを防ぐ。これも理科読の目的です。

「理科読」を行う際のポイント。ストーリーを持たせる

――この授業リポートを読んで、「理科読をやってみたい!」と奮い立つ先生も多いと思います。理科読の授業を行う上での工夫点や注意点を教えてください。

畝迫まず本選びが難しいです。どんな本が出版されているのか広く知っていないと、授業で使う本も決められませんし、その本が学校図書館にないなら、揃える所から始める必要があります。本校が理科読の授業を始めた時も、蔵書の充実には苦労しましたし、土井さんからはたくさんアドバイスをいただきました。

――確かに、土井さんの見識の広さはすごいですよね。子どもの興味を引きそうな本を次から次へと取り上げられるのも、本をたくさん知っているからできることでしょう。

土井本選びのコツを一つ挙げるなら、「今の子どもに寄り添う本」であることです。科学は日進月歩で進化しています。昔の本の中には内容が古びてしまい、現代に生きる子どもの興味を引けなくなっているものもあります。例えば、今の子どもの身の回りはLEDばかりなのに、白熱球の解説しか載ってない本では、子どもは読みたいと思えないでしょう。

――実験も理科読の重要な要素ですが、どんな実験をすればいいですか?

土井子どもにとって身近な科学的事象を、実際に確かめることができる実験を心がけています。グループではなく、一人ひとりに実験させるには、実験用の機材を安価に揃えられることも重要です。今日の実験で使った機材は、ほとんどが身近なDIYショップや100円ショップで購入できるモノ。工夫さえすれば、高価な機材がなくても、子どもを引きつける実験を作れますよ。

――授業案を作る際には、どんなことに気をつければいいでしょう?

土井大事なのは、授業に「ストーリー」を持たせること。多様な話題を展開しつつも、その中心には必ず「明快なストーリー」が流れるように、授業を作っています。

今日の授業では、光を大テーマに、「見えるとは何?」「色が見えるのはなぜ?」「色って何だろう」「人間の目には見えない色の光もある」と、ストーリーを作りました。授業を貫くストーリーがあってこそ、子どもの興味関心は高まります。子どもが「なるほど!」「そうなんだ!」と、ワクワクできるようなストーリーを作りましょう。

――この記事を読んで、「土井さんにぜひ出前授業をしてほしい!」と熱望する先生や学校も出てくると思います。その時は、来ていただけるのでしょうか?

土井(株)内田洋行ユビキタスライブラリー部の土井までご連絡いただければ、ご相談に乗ります。有償ですが、それだけの価値はある授業だと、自負しています。 今日は、光を大テーマにしましたが、他にも、音、水、電気、タネ、天気、地形など、物理・化学・生物・地学の4分野すべてで理科読の授業を行っています。先生方のご要望に応じて、授業内容を選べますし、出前授業だけでなく、先生方が理科読の授業案を作る際のアドバイスやサポートも行っています。 理科読は、年1回経験するだけでも効果はあります。ぜひ多くの方に理科読の効果を知っていただき、理科好きの子ども達を育ててほしいと思います。

図書室を新築移転。ICTも整備し、「最新の授業ができる図書館」へ

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桐朋学園小では、今年9月に図書室が、新築校舎で開館した。科学的読み物を増やすなど蔵書の入れ替えを進めた他、ICTも充実整備し、最新の学校図書館の活用を図っている。デジタル図鑑や百科事典の閲覧やインターネット検索ができる端末を3台設置。さらに、タッチパネル式の蔵書検索システムも導入してある。調べ学習用の検索メニューがあり、キーワードで検索できるのが特徴。例えば「紫外線」や「虹」などのキーワードを入れれば、関連する内容を収録した書籍がヒットする。調べ学習がはかどりそうだ。 今回クラウド型の図書検索システムを導入することで図書室にある蔵書だけでなく、市販されているすべての書籍を対象に検索もできるようになった。図書室にない書籍は、リクエスト用紙を使って要望できるようにしているが、「この本を入れてほしい」との希望が殺到しているそうだ。子ども達の読書熱の高さがうかがえる。
「新築開館してまだ2週間余りですが、子ども達はもう使いこなしています。上級生が下級生に使い方を教えているようです。子ども同士の教え合いや学び合いが起きています」(畝迫先生)
また教員用のタブレットPCや無線LANルータ「wivia」も導入。図書室でタブレットPCを使った授業を行える環境も整えた。 「ICTを使った読書の授業や調べ学習の授業を、図書室を舞台に行うことで、子ども達の学習を、より良いものにできたらと考えています」(畝迫先生)

取材・文:長井 寛/写真:言美 歩

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