2015.11.03
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夫婦喧嘩や面前DV、子どもへの影響は?

第78回目のテーマは「子どもの前で夫婦喧嘩やDVを起こすと、子どもにどんな影響があるでしょうか?」です。

夫婦喧嘩、面前DVは子どもに深刻なダメージを与える

子どもの目の前で配偶者やパートナーに暴力を振るう「面前DV」が起き、子どもが心に傷を負うケースが増えています。警察庁の発表によると、2015年1~6月に面前DVの被害を受けていると警察から児童相談所に通告された子どもの人数は7273人(前年同期比42.2%増)に上り、記録を取り始めた2012年上半期の約3倍になったそうです。

一方、強者が弱者を力で押さえつけるDVとは違い、夫婦が同等の立場で行う、いわゆる“夫婦喧嘩”を子どもに見られてしまった場合はどうでしょう。目の前で両親が言い争ったり怒鳴り合ったり、時に殴り合ったりすれば、子どもは緊張し、不安感や恐怖感に駆られます。つまり、これも子どもに少なからず悪影響を及ぼすということです。

面前DVも夫婦喧嘩も、子ども自身が身体的な傷を負うわけではないため、他人には気づかれにくいという特徴があります。しかし、精神的なダメージはかなり深刻で、適切なケアをしなくてはならないでしょう。

今月は、子どもが夫婦喧嘩やDVを目撃したら、どのような影響を受けるのか、また、そうした子どもに気づいた周りの大人はどうすればよいのかを考えます。

いじめっ子、いじめられっ子になりやすい

夫婦喧嘩と面前DVによる子どもへの精神的ダメージの程度は、やはりDVの方が深刻ではありますが、夫婦喧嘩はDVよりも発生頻度が高いので、その分、より多くの子どもが影響を受けていると言えるでしょう。日常的に両親間の争いや暴力を目にした子どもは、次のような言動を起こす可能性があります。

まず、全般的に「人間関係がうまく作れない」という特徴が見られます。例えば、友達を自分の思い通りに従わせたいと思い暴力を振るう、「いじめっ子」になる。これは、子どもが親のDVを見て、片方が一方的に暴力を振るい、振るわれた側がやり返さないため、「人を従わせるには暴力が有効だ」と思い込んでしまうためです。友達にひどい言葉を浴びせる子どもも、夫婦喧嘩での暴言や、言葉によるDVを聞いているためでしょう。自分がいじめられないためには、先に誰かをいじめて、自分の強さをアピールするという心理もこれらの影響から生じるものでしょう。

逆に、「いじめられっ子」になる場合もあります。暴力を振るわれる側の真似をしてしまうのです。誰かに怒られないようにと、いつもおどおどして他人の顔色をうかがい、その結果、いじめのターゲットになることがあります。

次に、家庭内の不和を見ているので、「一刻も早く、家を出たい」と考える。つまり、外に温かさを求めるというものです。女子の場合は家を出るために、早く結婚しようとする子も少なくありません。この場合、結婚を急ぐ余り、あまり時間をかけずに相手を選ぶので、妊娠・出産後すぐ離婚してシングルマザーになってしまうパターンも多いようです。そうなると、経済的に困窮する可能性が高くなります。家出をしたために、性的搾取の対象になるリスクも生じるでしょう。

男子も家出をする、急に非行に走るという傾向が見られます。また、男女共通の現象で、学校の成績が急に下がる、なかなか家に帰りたがらないというケースもあるようです。

「君のせいではない」と伝える

子どもにこのような現象が見られた場合、もしかしたら両親に何かあったのかもしれません。ただ、DVが起きていることを自分から言う子どもはまずいません。聞き出すのはかなり難しいと言えます。まずは異変に気づいた大人がその子に寄り添い、「家で何か辛いことがあるのかな?」「お父さんお母さんはどうしている?」と声掛けしてあげましょう。それでも何も言わない場合が多いので、「私の親戚でも、親同士が喧嘩ばかりしていて、その子どもが辛くて家出してしまったことがあって……」等と、同様の体験談を話すことで、その子は「自分の家だけのことではないのか」と少しホッとし、話し出してくれるかもしれません。

そしてもし、両親の不和が原因であることがわかったら、「ご両親の喧嘩は、決して君のせいではないよ」と、その子に伝えてあげましょう。喧嘩の理由やDVを理解できない子どもは「お父さんとお母さんの仲が悪いのは、自分が良い子でないからだ」「この前のテストの成績が悪かったから、お母さんがお父さんに叱られている」等と、自分が原因だと思い込んでいることが多いようです。

このような子には、仲の良い家庭を見せてあげることも大切だと思います。家庭というものに期待できなくなっている場合が多いので、「君のご両親がすべての夫婦の形ではない。愛する人と幸せな家庭を築くことはできるのだよ」と希望を与えてあげないと、その子は将来、恋愛や結婚生活を否定的に考えるようになるかもしれません。

他方、当事者である母親や父親も、事実は言わないでしょう。特に、DVは隠すはずです。しかし、面前DVは我が子に多大な悪影響を及ぼすことを受け止め、専門家によるカウンセリングを受けてもらいたいと思います。親子一緒が難しければ、暴力を受けている親だけでもいいです。子どもとどう接すればよいか等を教えてもらってください。学校にはスクールカウンセラーがいます。ぜひ相談してみてください。

子どもは両親のことをよく見ています。あらゆることを両親から学び取ろうとするためです。たとえ子どものいない部屋であっても、声や物音は聞こえますから、喧嘩や暴力は控えるべきでしょう。愛する我が子のため、夫婦は仲良く暮らす努力をしなくてはならないと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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