2015.08.04
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家庭でできるアクティブ・ラーニングは?

第75回目のテーマは「学校教育で話題のアクティブ・ラーニング。家庭でもできるでしょうか?」です。

教育界で話題のアクティブ・ラーニング

昨今、日本の学校教育は、アクティブ・ラーニングという学習方法を推進する方向にあります。アクティブ・ラーニングとは、教師からの一方通行の授業ではなく、児童生徒自身が課題解決に向けて能動的に取り組む学習方法。例えば、児童生徒同士によるディベート、グループ・ワークやディスカッション、体験学習等がそれです。この学習法で身につくのは、自ら疑問を持ち、課題を見つけ、その解決に向けて自分自身で答えを導き出す力。そして、その答えを第三者にも説明でき、相手から質問を投げ掛けられても責任を持って答えられる力です。「なるほど、このような力なら、我が子にも身につけてほしい」と思う保護者の方もいらっしゃるでしょう。では、家庭でもアクティブ・ラーニングはできるのか、その方法等について、今月は考えてみたいと思います。

家庭でできるアクティブ・ラーニングは?

私は家庭でもアクティブ・ラーニングはできると思います。私自身、3人の息子を育てる中で実践してきました。絵本を読んだら、「パパに説明してきてごらん」と、今読んだ本の内容を父親(つまり第三者)に説明させていました。そこで父親から何か質問されたら、子ども自身で答えるように仕向けていました。

また、子どもが「ママ、どうしてCDって音が出るの?」と聞いてきたら、「どうしてだろう?」と、親子で百科事典等を見て一緒に調べてみました。ここで大事なのは、子どもの質問をないがしろにしないこと。どんな質問でも、「面白いことに気がついたね」とまずは受け止めます。すると、子どもの自己肯定感は高まり、より積極的に質問しようと思えるようになるはずです。こうしたことの繰り返しによって、子ども自身「疑問を持つのはよいことなのだ」「知らないことを調べるのは楽しい」「自分の考えを言葉にして伝えるのは面白い」など、自然と学びに積極的になっていくと思います。

中には、自分自身で疑問を見つけられない子どももいるかもしれません。その場合は、親が少し助け舟を出してあげてはいかがでしょう。例えば、公園にナメクジがいたとします。すでにカタツムリを見たことがあるなら、「あれ、どうしてこの子にはお家(殻)がないのだろう?」と子どもに問い掛けてみます。このように身近な例で質問をしてみると、子どもは「こんな所にも不思議なことってあるのか」と気づくきっかけになるでしょうし、そこから子ども自身が興味を持って調べ始めることができると思います。未就学の頃から質問する子、疑問を持つことができる子に育てるようにすれば、学校に上がってから勉強や研究にその力を発揮できることと思います。

21世紀を生き抜く力を身につけるために

現在、私が香港の大学で教鞭をとっていて感じるのは、日本の学生よりも香港の学生の方が授業に積極的に参加する傾向があるということです。香港の学生は授業中よく質問してきますし、こちらからの問い掛けにもよく答えます。学生同士のディスカッションも非常に活発です。恐らく、高校までにアクティブ・ラーニングを経験しているからでしょう。逆に、日本の学生は高校までにアクティブ・ラーニングを経験していないせいか、授業への態度があまり積極的ではないように感じます。

子ども達がこれからのグローバル社会を生き抜くために必要な資質・能力を、「21世紀型能力」と呼び、やはり教育界で話題になっていますが、まさにアクティブ・ラーニングで身につける力だと思います。例えば、テクノロジーが今まで以上に発達し、その中で人間が仕事をしていくためには、機械やコンピュータにはできないこと、つまり自ら問題を発見し解決していく力が必要になるでしょう。そして、それを他者に説明でき、実践し、その結果について最終的にきちんと責任を持てる人。このような21世紀を生き抜く力を持った人を育てるためには、アクティブ・ラーニングは非常に有効だと思います。

これからの職場は、管理職であっても自分の知らない分野を部下が知っていれば、その部下に聞き、自らも勉強しつつ同時に舵取りもしていくというケースが当たり前になっていくでしょう。また、プロジェクトを立ち上げたら、年齢や在職年数に関係なく誰もがリーダーになり得るようになるでしょう。このような社会の変化に対応できる能力を、子ども達には身につけてもらいたい。そのためには学校のみならず、家庭でもアクティブ・ラーニングを実践していただければと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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