2015.06.30
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親離れ、子離れ、どうする?

第74回目のテーマは「子どもが大学生以上になっても、親離れ・子離れできない親子。問題ないでしょうか?」です。

経済的依存が親離れできない要因

大学入試会場にある「保護者控室」。入社式会場に設けられた「保護者席」。昨今、子どもが大学生以上になってからも、色々な場面で親が子どもに同行する光景がよく見られます。親離れ・子離れの時期が遅くなると、子どもや社会全体にどのような影響があるのでしょうか。今月はこのことについて考えてみます。

なぜ、親離れ・子離れが遅くなっているのでしょうか。そもそも日本の社会システムでは、成人年齢は20歳。まずはそこに一つの要因があると思います。日本では、18歳で高校を卒業して大学に進学しても、親元から通学し、あるいは下宿代や学費は親頼みという学生が大半でしょう。そのような環境で「あなたは20歳だから、もう成人です」と言われても、あまり実感がわかないのは無理もありません。親側も「学生のうちは、息子・娘の面倒はまだ自分達がみるもの」と思ってしまうのが自然でしょう。

また、今の若者の親世代が経済的にわりと余裕がある、ということも一因に挙げられると思います。持家率が高く、経済的にそれほど切迫していないので、子どもが成人しても実家に居続けることが、親には負担になっていないのかもしれません。このように、子どもが経済的に自立できないことが、精神的に自立できない、つまり親離れできないことの一因になっているのだと思います。

デメリットは、晩婚化、向上心低下、社会の停滞

では、親離れ・子離れが遅れることで、どんなデメリットがあるでしょうか。一つは晩婚化・非婚化です。実家暮らしは家事全般を親が担ってくれるケースが多く、そうした生活に慣れてしまうと、なかなか結婚――他人と協力して家庭を持つ、という面倒臭いことはしたくないと考えてしまうでしょう。結婚したとしても、親離れ・子離れができていない場合、親がいつまでも我が子に構うことで、子どもも親に依存し続け、夫婦で新しい家庭を築くという作業に様々な障害が出てくるケースもあるようです。

これらは個人にとってのデメリットですが、社会全体にもデメリットが出てくると思います。経済的に子どもが親から自立しないと、子どもはがむしゃらに働く必要がなく、「どうせ親の家や遺産を相続するのだから、ほどほどに働いていればいいや」という心理になりがちです。すると、向上心や競争心は生まれませんから、若者に活気がなくなり、社会全体が停滞気味になると思います。

子育ての最終目的は、子どもを自立させること

どうすればうまく親離れ・子離れができるでしょうか。先述の通り、社会システム全体が変わることで親は子離れしやすくなり、それに従って子どもも親離れできるということはあるでしょう。

例えば、アメリカでは成人年齢は18歳。高校卒業と同時に親離れ・子離れをするという文化があります。高校を卒業したら、子どもは親元を離れ、大学に入る人は寮に入ったり、友人とルームシェアをしたりと、親元から通う学生は珍しいのです。大学の学費も、学生本人が納入します(親が子どもの口座にお金を振り込むとしても)。あるいは、教育ローンなら学生でも組めますし、必死に勉強して奨学金を勝ち取るなど、親に頼らず自分で工面する学生も大勢います。大学側も親へは一切連絡を取らず、すべて学生本人とやりとりをします。

また、18歳を過ぎると、交通事故に遭う、犯罪に巻き込まれる、犯罪者として逮捕されるというような場合も、病院や警察から親元へ連絡がいくことはありません。一人の大人として、すべての責任は本人にあると、社会がみなすからです。

日本でもこのほど選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることとなり、来年から適用されます。これを機に成人年齢も18歳に引き下げてはどうでしょうか。高校卒業を一つの区切りとして、親は子離れするものと社会全体が認識すれば、高校時代から社会人の準備をスタートさせるなど、親の心づもりもできるのではないでしょうか。

アメリカで働く我が家の次男は、就職してから「お母さん、お金って案外あっという間になくなってしまうものだね」と言っていました。それほど高くない初任給から、家賃を出し、その他の生活費も出し、時に友人にお祝いを贈るとなると、すぐに給料は底を突くと気づいたのです。しかし、大変な状況に投げ込まれれば、自分でどうにかしようと必死になり、それが成長にもつながると思います。アメリカの若者の多くは、家賃が高ければルームシェアをし、恋人がいれば「もう結婚しよう」となります。リストラの危険はいつもありますから、仕事をし続けるためにブラッシュアップを怠らない若者も多く、競争心や向上心を常に持ち続けているようです。

子育ての最終目的は、子どもを自立させることだと思います。そのためにはある区切りで親は子どもから離れることが大事でしょう。子どもが精神的に自立、つまり親離れするためには、まずは親がきちんと子離れすることが、このプロセスの中で一番のポイントかもしれません。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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