2014.11.04
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「産後クライシス」、子どもへの影響は?

第66回目のテーマは「第一子出産後、妻の態度が出産前と変わり、夫である私との関係がうまくいきません。育児に支障は出ませんか?」です。

出産後に訪れる夫婦の危機

第一子出産後、妻の態度が出産前と変わり、夫は困惑。夫婦間のコミュニケーションがうまくいかず関係が悪化し、最悪の場合は離婚の危機まで迎えてしまう「産後クライシス」。夫側からは「自分も家事・育児をできるだけしているのに、いつも妻がイライラしている」「妻は何か悩みがありそうな様子で塞いでいるが、話すきっかけがつかめない」等の声が上がっています。家族の核となる夫婦の仲がうまくいかなければ、家庭の雰囲気も悪くなり、離婚ともなれば子どもへの影響は非常に大きくなってしまいます。

今月は、こうした産後クライシスの原因と、子どもへの影響、解決策について考えます。

夫婦の関係修復は、子どもが8か月になるまでに!

妊娠すると女性の身体には様々な変化が起こります。ホルモンの変化や、お腹の子どもに何かあってはという気持ちから性的欲求が減退し、性行為を拒否するケースも多いようです。しかし、男性は妻が妊娠しても自分の性的欲求にはあまり変化がないため、中には浮気をする・したいという人もいるでしょう。このことが産後に発覚して夫婦の仲がこじれ、産後クライシスの原因となることもあるようです。

出産後は、女性は慣れない育児に手いっぱい。おまけに「子どもを守らなければ」という心身の状態になるため、とても夫のことまで気が回らない人も多くなります。産後うつで、自分の気持ちがうまくコントロールできず、塞ぎがちになる人も一定程度います。すると、男性は子どもが生まれたことへの喜びよりも、妻を失ったと思ってしまうケースもあるようです。

こうした様々なすれ違いから、お互いの心が離れてしまい、その関係がなかなか修復できない場合、子どもへはどのような影響があるのでしょうか。0~1歳頃の乳幼児は、言葉の意味や、周りのことを理解する能力はまだ少ないのでそれほど影響はないと思います。しかし、1歳を過ぎる頃から徐々に周りの状況を観察するようになり、2歳を過ぎたら言葉も理解できますし、場の空気を察知する力も長けてきますから、両親の不仲はすぐにキャッチする可能性があります。親の喧嘩は自分のせいかもしれないと不安になったり、親がどこかに行ってしまわないかと恐怖に駆られたりと、精神的に不安定になってしまうかもしれません。

夫婦関係は解消することができても、親子関係は解消することのできないもの。子どもとは一生親子関係が続くのです。我が子が心身共に安定して成長できるよう、もし産後クライシに陥ってしまったら、遅くとも子どもの生後8か月頃までには脱したいものです。

色々な「友」をつくり、悩みを打ち明ける

では、どうすれば産後クライシスを予防・解決できるでしょうか。第一に必要なのは仲間づくりだと思います。昔は地域コミュニティがまだ機能していたので、新婚夫婦に子どもが生まれると、近所のおじさんやおばさんが「良かったねえ」「これであんたも一人前だ」「家族はいいぞ~」等と、プラスの言葉掛けを惜しみなくしてくれました。子どもが生まれた夫婦はそれらに励まされ、「家族っていいものだ」「子どもってかわいいな」と、段々思えるようになったものです。また、子どもは地域で育てるという意識があり、ちょっとしたことでも手助けしてくれたり、相談に乗ってくれたりする隣近所の人がいました。

しかし、今は核家族化が進み、近所付き合いの煩わしさがなくなった代わりに、母親が孤立して子育てをしなければならない状況が増加傾向にあります。だからこそ、妊娠中からの積極的な仲間づくりが大切になると思うのです。

いわゆる「ママ友」「パパ友」というのは気が合う・合わないとか、派閥がある等で結構面倒な場合もあるでしょうから、尊敬できる先輩家族、あるいは未婚の同僚等でもいいのです。色々な「友」とつながっていれば、悩みを打ち明けて話を聴いてもらったり、場合によってはアドバイスをもらえたりするでしょう。それで夫婦が精神的に安定すれば、笑顔で子どもに接することができ、子どもも安心して伸び伸びと育っていくはずです。

第二に、夫婦は出産後もお互いの優しさをキャッチし合おうとすることが大事だと思います。例えば、夫は初めての育児にてんてこ舞いの妻に「子どもを産んでくれて本当にありがとう。とっても嬉しいよ」と声を掛ける。妻は夫に「なぜ私だけこんなに大変で、あなたは何もやってくれないの!」とキレるのではなく、「私、初めてのことが多すぎて、ついイライラしてしまうの。できればお皿洗いだけでもしてくれると、とっても助かるわ」と穏やかに話す。このように、夫は妻に常に感謝の気持ちを伝え、妻は夫に文句ではなく具体的な要望を伝えます。すると、妻のイライラを治めたいが何をしたらよいかわからない夫も、具体的に実行できる上、お互いが「ありがとう」とお礼を言うことで愛情を確認し合えるでしょう。こうしたコミュニケーションは、たとえ一時、性行為ができなくても、夫婦の危機の予防・解決につながると思います。また、子どもも両親が互いに思いやる姿を見て育つので、人に優しく接する子に自然となっていくのではないでしょうか。

子どもにとって良い環境で健やかに成長することが一番幸せなこと。せっかく誕生した子どもを、夫婦一緒に楽しく育てていけるよう、産後クライシスについての事前の勉強と、出産後の愛情表現を欠かさないことで乗り越えてほしいものです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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