2014.05.06
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

母親の過干渉に悩む娘、対策は?

第60回目のテーマは「長年、母親から過干渉を受け、悩む娘がいます。どうすればよいでしょうか?」です。

母親を「重い」と感じる娘

親の育児放棄という問題がある一方、子どもが親からの過干渉によって精神的に追いつめられるという問題があります。特に、母親の娘への過干渉は少なくないようです。例えば、母親が娘を幼い頃から自分の思い通りに育てようとレールを敷き、将来の進路も勝手に決めたり、「娘のため」と言いながら尽くし過ぎるほど尽くす反面、娘の意思は徹底的に無視したり。まるで娘を自分の所有物のように管理し、過剰な期待をかける母親。

その結果、娘は成長するに連れ、母親の存在を「重い」と感じ始め、次第に「もう干渉してほしくない」等と、母親との関係に軋轢が生じるようになり、中には「母親とは絶対会いたくない」と、決定的な溝ができてしまうこともあるようです。

今月は、母と娘が良好な関係を築くために、両者はどうすればよいのかを考えます。

女性の生き方は常に進化している

なぜ母親が娘に過干渉になったり、過剰な期待をかけたりするのでしょうか。

過干渉になりがちな母親は、現在60代以上の専業主婦をやっていた女性に多い傾向があるようです。つまり、「勤めに出る夫」「家で家事・子育てをする妻」という図式が当たり前の時代に子育てをしてきた世代です。そういった方たちの中には、「自分の人生を肯定したい」「自分は幸せだった」という思いを抱く人もいるでしょう。すると、娘が自分と同性であるがゆえ、「私と同じような人生を歩めば、娘も幸せになれるはず」と信じ、つい過干渉になってしまうのかもしれません。また、娘を自分の思い通りに育てることで、「子育ての成果を実感したい」と思うのかもしれません。

これは、「自己実現」の履き違えだと思います。恐らく、過干渉傾向にある母親はどの世代であっても、このような心理が働いているのではないでしょうか。

このような母親たちには、まず「女性の生き方にはどの時代にもこれという明確な正解はなく、常に進化し続けている」ことを意識してほしいです。社会は、夫婦共働きが当たり前になりつつあります。今を生きる娘たちは干渉されればされるほど、「母親の人生と私の人生は違う。母親のようにはなりたくない」と思ってしまうはずです。

娘はもう母親の想像を超えた社会で生きている、違う人生観を持っている、そう考えてください。事前にレールを敷くのではなく、娘が進学や就職、結婚等で悩んでいたら、良き理解者となり、励ます側に回ってあげたらいかがでしょう。

私にもし娘がいたとしたら、息子と同じように育てたいと思います。自立して強く、優しい人間になるよう。そして、私はいつもあなたの味方ですよ、相談したいときはいつでもしてね、という姿勢でいようと思います。

むしろ、子どもが主導権を握る

過干渉の母親との関係に、すでに軋轢が生じている娘はどうすればよいでしょうか。

私の母は今年90歳になりますが、「○○してちょうだい」「○○すればよいのに。あなたのためを思って言っているのよ」等々、要求や干渉の多い母親でした。以前は、私が里帰りすると、朝から晩まで取材やイベントの予定を勝手に入れているのです。せっかく帰省したのだから、母とゆっくり話したいのに、母は「娘のスケジュールは自分が決めて当たり前」と思っていたようです。

そこで、要求の多い母親に振り回されないためにどうすればよいか、姉や弟たちと相談しました。子への要求が多いのは、親が年配の場合「自分に構ってほしい」と思うことが主な原因であるようです。このため、母になるべく忙しく暮らしてもらうことで、「構ってコール」は減ると考えつきました。母の健康に良さそうな活動を毎日のスケジュールに組み入れて、そのように過ごしてもらうのです。

週2回のマッサージ、週1回のソーシャルワーカーの方とのカンファレンス、視力低下予防のための鍼治療、飲茶、毎朝の散歩、毎晩の足湯……等々。母は現在、これらスケジュールをこなしています。おかげで忙しい日々となり、私たち子どもに何かを要求してくることはなくなりました。子どもが先手を打って、主導権を握る。これは、過干渉傾向の親にはかなり効果があると思います。

私自身は、もし自力で生活するのが難しくなったときは、明るい雰囲気の高齢者用マンションに入れてくださいと、息子たちに言っています。自分のせいで、子どもたちに不自由な思いをさせたくないからです。年をとったら、子どもを自由にしてあげることが、親の一番の愛情だと思います。

3月の本欄にも書きましたが、中学校進学以降の進路は子ども自身の選択に任せ、親は見守り、励ます側に回りましょう。親も子も自立した一個人として、自分の人生を自分で進めるように。それが本当の子離れ、親離れの一歩になるのではないでしょうか。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop