2014.02.04
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

思春期の娘への父親の愛情表現、留意点は?

第57回目のテーマは「父親は、娘が思春期に差し掛かったら、接し方を変えるべきでしょうか?」です。

思春期になったら、一人の女性として接する

幼い娘を持つ父親が「この子といつまで一緒にお風呂に入れるかな……」と言うことがあります。娘がまだ乳幼児であれば、キスしたり、一緒にお風呂に入ったりというのは自然な愛情表現かもしれませんが、思春期に差し掛かったら気をつけなくてはなりません。今月は、思春期の娘への、父親の愛情表現の留意点を考えます。

今は昔よりも栄養状態が良いこともあり、子どもの身体の成長が早い傾向にあります。女の子は小学4年生くらいから徐々に第二次性徴期に入り、女性ホルモンの働きにより胸が膨らむ等の身体の変化や、モヤモヤ、イライラといった精神的に不安定な状態が起こりやすくなります。また、初潮を迎えると、生理前は怒りっぽくなったり、生理中は疲れやすくなったりする子もいます。娘を持つ父親は第一に、こうした基礎的な知識を押え、娘が思春期に差し掛かったら、もう立派な一人の女性として接するように心掛けるべきでしょう。

愛情表現は、家庭の文化によって異なる

次にスキンシップについて考えます。キスしたりハグしたりというのは、アメリカの家庭等では一般的な習慣ですから、成長した娘と父親がそのような愛情表現をしても自然なことでしょう。しかし、日本では夫婦間でもキスやハグを日常的に行うことは、あまり多くありません。

すると、自分の父親が母親に対してキスやハグをしないのに、娘である自分に対してだけ行うとしたら、娘から「気持ち悪い」と思われても仕方ありません。その家庭にキスやハグの習慣がなければ当然でしょう。入浴も同じです。普段から夫婦で一緒に入ったり、家族全員で入ったりする家庭であれば、父娘が一緒に入ることに抵抗はないかもしれません。しかし、そんな習慣もないのに娘の入浴中に父親が入ってくれば、その娘は非常に嫌悪を感じるはずです。

思春期の娘を持つ父親は、娘に愛情表現、特にスキンシップをしたいと思ったら、普段から同じことを妻にしているかどうかを振り返ってください。妻にしていないことを、いきなり娘にするのは、相手にとって苦痛でしかありません。愛情表現の方法はそれぞれの家庭の文化によることを自覚する。これが二つ目の留意点と言えるでしょう。

また、父親が思春期の娘の身体に触ったり、裸を見たりという行動を、「我が子を愛しているからだ」と言うのは、自分の勝手な思い込みかもしれません。子どもにとっては、虐待になっているかもしれないのです。そのことをぜひ気に留めていただきたいと思います。

悲しいことに、一部にはそうした性癖のある男性がいることも事実です。そのような場合は、母親が娘を守る必要があります。娘の味方になって、父親に「それはおかしい」と厳重に抗議すべきです。状況が改善されなければ、娘が男性不信に陥り、将来恋愛や結婚に踏み出せなくなる可能性もあります。このようなケースを予防するためにも、娘が思春期に差し掛かった時から、一人の大人の女性として接することを家庭のルールにしてはいかがでしょう。

スキンシップ以外にも、愛情表現はある

では、父親が思春期以降の娘に愛情表現をしたい場合、どうすればよいでしょうか。スキンシップの習慣がない家庭なら、違う方法を取る必要があるでしょう。ポイントは、父娘二人の時間を持つことだと思います。

例えば、通学と出勤の時間を合わせて駅まで一緒に歩く。そうしながら自分の仕事の話をしたり、娘の学校の話を聞いたりしてもよいでしょう。また、休日には話題のスイーツを買いに一緒に出掛けてはいかがでしょう。妻とだけでなく、娘も一緒に携帯メールで連絡を取り、「これから塾帰り? じゃあ私も残業だったから、駅から一緒に帰ろうか」と誘ってみる等。このようなコミュニケーションを通して互いを理解し合えれば、娘にとって「素敵なお父さん」になれるのではないでしょうか。

いつも忙しくて、家に帰ればメシ、風呂、寝る。休日もゴルフで不在では、娘が父親と接する時間はなく、娘の心が父親から離れていくのも自然なこと。父親は、意識的に娘との時間を作り、丁寧に関係を築いていくことが大事だと思います。

我が家は息子3人ですが、夫は子どもと一緒の時間を充実したものにしようと、よく努力していました。趣味の釣りに連れて行ったり、温泉に行ったり。それも、子どもたちが心ゆくまで楽しめるよう完璧に下調べをして行くのです。すると子どもたちは父親を尊敬し、全幅の信頼を寄せます。このような交流も、子どもへの親の愛情表現にもなるのだと、私は思います

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop