2013.12.03
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「親友」って何?

第55回目のテーマは「今の子どもたちはネット上で広く浅い交友関係を持っていますが、これで『親友』はできるのでしょうか?」です。

広く浅い交友関係も悪くありません

今の中高生は、生まれた時からパソコンや携帯電話等、インターネットを利用できる情報通信機器が当たり前にある世代です。これらの機器を使って、多くの友だちと広く浅くつながっている子も少なくないでしょう。一方、それを見ている大人たちの中には「そんなつながり方では、“親友”と呼べるような友だちができないのではないか」と心配している人もいるでしょう。今月は、この「親友」について、私の考えをお伝えします。

まず、私が考える親友とは、お互いに何でも話せ、良い所・悪い所を指摘し合え、何かあれば助け合える、心がつながっている関係の友だちのこと。その意味では、私の親友はすぐ上の姉と夫と言えます。

次に、先述したような大人の心配ですが、私は、ネット上でたくさんの人とつながっていることは悪くないと思っています。私自身、ブログやホームページを通して、多くの人とつながっています。何か困ったことがあれば、彼らから色々とアドバイスをもらうことができ、逆に自分も相手を励ましたり、相談に乗ったりと、「支え合っている」という実感が持てます。つながることで、安心感や自信が得られるのです。

ただ、こうした機器を通じてのみの交友関係の中から、親友を得るのは難しいと思います。ネット上の文字のみのやりとりでは、相手が本当に何を考えているのかは対面よりもわかりにくく、誤解が生じることもあるからです。そうした関係性では、心から信頼し合える親友はできにくいでしょう。

日本人は親友を作るのが苦手?

では、ネットの世界でなく、現実世界なら誰でも親友ができるのでしょうか? それも、人の性格によって差があると思います。たとえば、私の出身地・中国の香港人は、何か相手に気になることがあれば、はっきり「今のはどういうこと?」と問いただす傾向があります。ケンカもしょっちゅうで、かなり激しい言い合いにもなることも。これは一見大変そうではありますが、思ったことをすぐに口に出すので、お互いの考えていることがストレートにわかる、ため込まないので後々根を持たない、という効果をもたらし親友にもなりやすいのです。

また、私が次男を出産した米国では、「大好き」「愛している」という、日本人には照れ臭いような言葉も平気で言える人が多くいました。そして、相手に好意を持つと、「good will(善意)」をどんどん発揮してくれるのです。子どもを預かってくれる、料理を作ってきてくれる、大学の勉強を手伝ってくれる等、私は彼らの善意に本当に助けられました。こうした言葉や行動も、親友を作りやすい要素だと思います。

一方、日本人はどちらかというと遠慮がちで、自己表現が苦手な人が多いように感じます。すると、お互いの本音を知ることが難しく、親友もできにくいのではないでしょうか。特に、仕事等の公の場では、本音と立前を使い分けるのが当たり前、なかなか腹を割って自分の思っていることをストレートにぶつけたり、ぶつけられたり、という場面はありません。そうなると、現実社会で直接対話をしても、親友を作ることは難しそうです。

やはり、お互いの考えや思いを率直に伝え合い、信頼関係を築いていき、その結果として双方がかけがえのない存在になっていく――そのような過程が親友を作るには必要なのではないでしょうか。

親友はいなくても大丈夫

ネット上の交友関係では親友はできにくい。そうした子どもたちを見て大人は心配している。しかし、現実世界においても、日本人社会は親友を作りにくい。と、ここまで書いてきたことを読み返すと、あたかも「親友はいなければならないもの」という前提があるように感じるかもしれません。ですが、私は、人生に親友が絶対に必要とは思いません。

親友と呼べるソウルメイト(心の友)に出会えた人はラッキーな人。出会えない人もいるのです。出会えなかった人でも、自分の周りの人を大事にしていれば、何か困った時には助けてもらえますし、励ましてもらいたい時には温かい声をかけてくれるはず。親友がいなくても心配することはないと思います。

親友と友だちの違いは、お互いが相手を親友と思っているかどうかによるでしょう。自分も相手も双方向に大切だと感じていることが大前提なので、ひとりよがりではできないもの。簡単には成立できない関係ではないでしょうか。

それでも、親友が絶対欲しいと思っている人は、「いつでもあなたの親友になりますよ」というオープンマインドでいることが、心を開ける友だち、つまり親友ができるコツではないかと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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