2013.07.02
  • twitter
  • facebook
  • google+
  • はてなブックマーク
  • 印刷

ナイジェリアの教育事情は?

第50回目は今年4月、日本ユニセフ協会大使として視察したナイジェリアの教育事情をお伝えします。経済成長率7%のアフリカの優等生、ナイジェリア。ところが、激しい格差社会の下、貧困層の子どもたちはゴミ捨て場で暮らし、1クラスに180人もが詰め込まれる学校に通っていました。

一つの教室に180人もの子ども

今年の4月に、日本ユニセフ協会大使としてナイジェリアを訪れました。今月は、ナイジェリアの教育と子どもの様子についてお伝えします。

ナイジェリアはアフリカ最大の産油国で、天然資源に恵まれた国ですが、教育現場は過酷を極めていました。今回視察したある公立学校(小・中一貫校)は、全校生徒が3,000人。日本と同じくらいの広さの教室に180人もの小学校低学年の子どもたちがぎゅうぎゅうに詰め込まれていました。児童のノートや文房具はもちろん、黒板用のチョークもない中、教師はまともな授業ができずに疲れ切っていました。

ダストビン(ゴミ箱)と呼ばれるスラムで立ちつくすアグネスさん

こうした状況の理由の一つに、若者の人口の多さが挙げられます。ナイジェリアは人口が約1億6,000万人。そのうち15歳以下の人口が43%でおよそ7,000万人います。小中学校が義務教育ですが、就学率は小学校が60%、中学校が20%と低くなっています。そもそも大勢の学齢期の子どもたちを収容するための学校が足りていないのです。

また、国内最大都市のラゴスでは、1日1ドル以下で暮らす貧困層が全人口の約7割もいます。小学校中学年頃になると子どもも労働力として使われ、学校に行けなくなってしまうことも就学率を低くしている要因の一つです。今回訪れたラゴスにあるダストビンとマココというスラム地域では、そうした傾向が顕著に表れていました。

ゴミの上を裸足で走る回る子どもたち

ラゴスは、ナイジェリアの中でも商業都市として発展しており、現在1,600万人の人口は3年後には2,500万人にまで膨らむだろう(1日1万人増のペース)と予測されています。それは、ここに来れば何か仕事に就けるのではという期待から、国内の近隣地域や国外から、ラゴスを目指す人が絶えないからです。

しかし実際にはそれほど仕事はありません。石油関連の利権は全人口の1%が握っているだけで、中流階層以下にそうした仕事が配分されることはなく、上流階級のみが甘い汁を吸い続けています。物価は高く、ペットボトル500mlの水1本が日本円で約180円。それなのに公務員の給料は、警察官の月給が約1万5千円、小学校教師にいたっては1万2千円ほどです。公務員が生活していくのも大変な中、ラゴスへ移住を目指してきた人たちは住む場所さえ見つけられないことが多く、ゴミの埋め立て地にできたスラムへ住みつくしかないのです。ラゴスだけでもこうしたスラムが100以上あります。

ナイジェリアは女性の合計特殊出生率が5.38(日本は1.41〈2012年〉)と非常に高いので、大家族が多く、私がスラムで出会った一家は18人家族でした。子どもたちは、腐敗臭の中、ゴミから出るガスで泡立つ水たまりの上を裸足で駆け回り、衛生状態は非常に悪くなっています。それでも親たちは教育を受けさせるために、または保育所がわりに、小学校低学年までの子どもは学校へ行かせます。しかし、行ったとしても前述のように、児童数が多すぎてまともな授業ができないため、小学校を出たのにまともに読み書きができない子がたくさんいるのです。

そうした状況下、スラム出身者で大学まで出た二人の若者が地元に戻り、それぞれ学校や塾を作っていました。彼らはそこで子どもたちに「自分を“人生における敗者”と思ってほしくない。勉強をして、自力でスラムを脱出してほしい」ということを伝えています。塾に通う12歳の男の子に、「何か本を読んで」と言うと、彼はアメリカの不動産王、ドナルド・トランプが大富豪になるまでを書いた本を持ってきました。ここを脱出して、勝者になるんだという強い意志が、少年の心にもすでに宿っているように感じました。

ストリートチルドレンが10万人

貧困層が住むスラムの向こうには高層ビル群が林立する。格差社会ナイジェリアの象徴だ

日々の食事にも困るような暮らしを続けると、人の心は荒んでいきます。ナイジェリアは治安が悪く、強盗や殺人、誘拐などが日常的に行われています。在留日本人も90年代は1,000人いたのが現在では30人です。ストリートチルドレンもラゴスだけで10万人いると言われ、彼らの多くは、男子の場合マフィアの手下として麻薬の密売に使われ、女子の場合は買春者に売り飛ばされることが多いと聞きました。ストリートチルドレンのシェルターに行きましたが、彼らは縫製などの何か技術を学んで仕事に就きたいと言っていました。ただ、学びたいと思っても、今の国の状況では、それがかなえられることはありません。

豊富な天然資源を抱え、経済成長率7%というアフリカの中でも優等生のナイジェリア。しかし、天然資源の利権を握ったほんの一部の億万長者と、それ以外の、毎日の食事も満足にとれないような貧困層との格差は歴然としています。潤沢な資源による資金が全国民に平等に配分されるようにするためにも、教育は重要です。現在はまだそこへの道のりは遠く、厳しいと言わざるを得ないですが、まずは日本を含む国際社会がナイジェリアの現状を知り、治安やインフラ、人材を投資していくことが解決の第一歩になると思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・お悩み、お待ちしています!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育や子育てのお悩み等を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご要望やお悩みは、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※学びの場.comから個別に回答をお返しすることはありません。

pagetop