2013.06.04
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「父性」って何でしょう?

第49回目のテーマは「イクメンの社会的認知度が高まってきました。では父性とは、父親の役割とは何でしょうか?」です。

父性は不要!?

育児に参加する父親が「イクメン」と呼ばれるようになり、この言葉の社会的認知度も高まってきました。ただその一方で、「母親的な父親が増えた」、「一つの家にお母さんは二人いらない」といった声も聞かれます。では、父性とは何でしょうか? 育児に必要なものなのでしょうか?

私の考えでは、父性、つまり父親としての威厳という意味の性質を持つ男性が、育児の場に絶対に必要とは思いません。なぜなら、父性や母性というのは、生まれもって備わった性質ではなく、生まれた後に教え込まれるものだからです。今はたくましい女性も多くいますし、優しい男性もいます。男だから父性、女だから母性という決まりはないでしょう。育児において、優しさ・厳しさのバランスが取れていれば十分だと思います。

心理学の分野でも、以前は「母親は優しく、父親は厳しく」が理想となっていました。これは、いつも家にいる専業主婦の母親は主に、優しく子どもたちを育てる役を担い、外で忙しく働く父親は育児をほぼ妻に任せきりにし、しつけとしてたまに厳しくする役を担った時代の考え方であり、働く女性が増えてきた現代にはそぐわないでしょう。

父親による育児が浸透し始め、イクメンが社会的にも認知されてきていることは、女性のみならず男性にとっても、大変よいことだと思います。なぜなら育児はとても幸福な活動だと思うからです。子どもは、ほとんど何もできない乳児期から、ほんの数年でダイナミックな成長を遂げます。子育ては、それを間近で感じられる、他では得難い機会なのです。また、物言わぬ我が子の要求を何とか満たそうとする日々の中で、忍耐力や柔軟性も身につき、結果的にその後の仕事へもよい影響を与えることでしょう。

父母が互いに尊重し合う育児を心がける

育児にとって、ステレオタイプにはまった父性・母性という役割分担はあまり意味がないと考えます。むしろ大事なのは、父親・母親がお互いにリスペクト(尊重)し合うことではないでしょうか。

子どもに対しても、その子が男だから、女だからと育てるのではなく、「人間を育てる」という意識を持つことが大事だと思います。父母が互いに人間として尊重し合い、それぞれ率先して家事や育児をこなす姿を見て育った子どもは、大人になった時、男の子でも自然と子育てをし、女の子でも躊躇なく仕事を続けることでしょう。

では、片親家庭など両親が揃っていない環境の子どもはどうでしょうか。そのような環境でも、厳しさ・優しさのバランスが取れた育児であれば全く問題なく、子どもは健やかに育つものです。

とはいえ、片親家庭では仕事に追われ、子どもと接する時間がとりにくいかもしれません。であれば、一緒にいられる時間を充実させ、コミュニケーションをしっかりとってください。電話やメールなどのツールを上手に使い、「あなたを大切に思っている」という想いを常に伝えて、短くても密度の濃い関係づくりを実践してほしいと思います。並大抵の苦労ではありませんが、きっと育て上げた時、子どもは人の気持ちをわかろうとする、思いやりのある人間に育ち、親本人は苦労の分、一般家庭の倍以上の喜びを得られることでしょう。

男女が皆平等に仕事も育児も経験できる社会

ステレオタイプの父性・母性という性別役割分担を社会から払しょくするためには、学校教育の役割も大きいようです。最近は家庭科共修を始め、参観日なども父親が参加できる日程を組む学校が増えています。昔は、授業参観は母親が行くのが一般的でしたが、昨今は、父親も参観できて当たり前、という意識に変わってきているように感じます。学校がこうした改革を進めることは、子どもの人格形成に大きな影響を与えるでしょう。

しかしながら、女性が出産後も働き続けるにはまだまだ大変な部分があります。出産後、7割の女性が仕事を辞めているというデータもあります。一方、芸能界では出産後も働き続ける女性芸能人が増えてきました。20年以上も前に、赤ん坊の長男を連れて仕事場に行っていた私にとっては、感慨深いことです。

当時は子連れ出勤が珍しかったこともあり賛否両論を呼びましたが、あきらめずに次男、三男の時も続けました。私には、「これからは子どもを産みたい人が皆、産める世の中にしていかないといけない」という意識があったからです。

そういえば、安倍政権も「女性活用」を成長戦略の中核に据えていました。待機児童解消プランや育休期間延長、職場復帰プログラム等が盛り込まれるようです。確かに、男女が皆平等に仕事も育児も経験できる社会にしていくことは、皆が豊かに暮らせることにつながると、私も思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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