2013.04.02
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きょうだいを育てるには?

第47回目のテーマは「きょうだいを育てていると、つい上の子に厳しく、下の子に甘くなってしまいます。きょうだいはどう育てるべきでしょうか?」です。

無意識のうちに、きょうだいに差をつけている?

子どもが二人以上いるご家庭では、きょうだいをどう育てていこうかと考えたことがありますか? 特に意識していない方も多いかと思います。社会心理学の研究では、長子は責任感があって神経質、末っ子は要領がよくて明るい、真ん中は周りを気にせず実行する力があるので社会的に成功する人が多い、という傾向が出ています。これらの特徴は、親が無意識のうちに子どもたちへの対応に差をつけていることも一因かもしれません。
では、どの子も心身共に健康に育てていくためには、親は何を意識し、どう対応すればよいでしょうか。今月は、きょうだいの育て方について考えます。

比べないこと、そして「be there」一緒にいること

きょうだいを育てる上で最も大事だと思うのは、比べないこと。「そんなことは当たり前」と思われるでしょう。しかし、「えこひいきは絶対しない」と固く決めていた私でさえ、3人の息子の子育てに苦い経験があります。

次男が20歳を過ぎた頃、私に「ママはいつも僕だけを可愛がってくれなかった」と言い出したのです。もう私は大、大、大ショック! 3人を分け隔てなく育ててきた自負があったからです。でも、そう言われた理由を考えてみました。

我が家は、「子どもはパパの子でもあるので、私はパパの子育てに口出ししない」という方針です。そのため、自分自身きょうだいの真ん中だった夫が、次男をついつい可愛がりがちなのを、私はじっと見守っていました。それが知らず知らずのうちに、私の次男に対する“遠慮”になっていたようです。

さらに大きな出来事もありました。アマチュアで音楽活動をしていた次男に、高校生の時、メジャーデビューの話が来たのです。けれど、芸能業界の厳しさを熟知する夫は猛反対。私は、「たとえ失敗しても、何もしないで終わるより、挑戦してみる方が後悔しないだろう」と思ったのですが、それまでと同じく何も言わなかったのです。結局、デビューの話は消え、次男は「ママがフォローしてくれなかったからだ」と思い込んだようです。

それ以来、私は必死で次男との関係修復に努めました。その方法は、「be there(そこにいること)」。なるべく長い時間、彼と一緒にいるようにしたのです。彼が出演する大学のミュージカル公演をすべて観に行ったり、留学先のアパートで1か月間一緒に暮らしたり。丸々2年間、次男中心の生活にシフトしたのです。そのうち、彼にも私の気持ちが徐々に伝わったのでしょうか。ある時、「色々言いたいこともあるけれど、でもママは最高。I love you」と言ってくれました。

子どもとの間に何かつまずきがあった時、同じ場所で同じ時間を過ごすことが、「比べないこと」と同じくらい大事だと思います。時間はかかるかもしれませんが、親が真剣に向き合えばその気持ちは子どもに伝わるはず。子どもは何歳になっても「親に認めてほしい、自分の方を向いてほしい」という欲求を持っているものです。失敗に気づいたその時から関係修復の努力を始めましょう。

透明性のある家族関係を築きましょう

私と次男との関係性にこのようなつまずきがあったものの、そのことで彼が兄や弟を攻撃することは一切ありませんでした。3人は小さい頃からとても仲が良く、誰か一人が叱られていると他の二人が必死で謝るほど。

どうしてそうなったのでしょう。一つには、小さい頃から皆一緒に育ててきた、ということがあると思います。下の子に片手でオッパイをあげていたら、もう一方の手で上の子を抱っこする。そして上の子が下の子をあやしたり、お世話を手伝ってくれたりしたら感謝し、下の子に「●●ちゃんがお兄ちゃんでよかったね」と言葉で伝えました。上の子はそれを聞いて嬉しそうでした。そうした積み重ねで、兄弟全員がお互いを大切に思い、仲良く育ってきてくれたのかなと思います。

もう一つは、透明性のある家族になることです。透明性とは、家族の中で隠し事がないこと。つまり誰かにだけ特定の情報を伝えて、もう一方には伝えない、なんてことはもってのほか。あるいは、母親が次女に「長女のこういう点が困るのよね」と言えば、次女は長女をそういう目で見るようになるでしょう。そして、このような蓄積がきょうだい間の軋轢を生むことにつながります。きょうだいの仲が悪いのは、親が原因をつくっていることがほとんどなのでは? 家族間で透明性のある関係づくりを心掛けると、きょうだい同士、信頼関係が育まれ、仲良くなるものです。

多くの場合、親は子どもよりも先に死にます。後に残る子どもたちが、きょうだい仲良く、支え合って生きていってほしい、というのは多くの親御さんの望みだと思います。私はそれが実現できたので、ホッとしています。どうぞ皆さんも、きょうだい同士が良い関係を築けるよう心掛けてみてください。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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