2013.02.05
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

教師のうつ病、対策は?

第45回目のテーマは「精神疾患により休職・退職する教師が増えています。予防や対策は?」です。

小学校にも教科担任制を導入しては?

文部科学省の調査によると、2010年度に精神疾患で休職した教師は5,458人、精神疾患で退職した教師は980人だったそうです。特に多いと思われるのがうつ病。その原因の一つが教師の多忙化です。たくさんの事務作業に時間をとられ、なかなか授業研究ができない、保護者対応が大変……等々、教師の多忙化については様々な報道でも知ることができます。大量の仕事に疲弊し、教師が生き生きできないのは、先進国でありながら非常に残念です。今月は、どうすれば教師たちが精神的に追い詰められることなく、元気に本来の仕事ができるのかを考えてみたいと思います。

まず小学校について考えてみます。私は、日本の小学校でも教科担任制をとるのがよいのではないかと思っています。日本の小学校は学級担任制のため、基本的にすべての教科を一人の教師が教える形をとっています。そのため、自分の得意教科だけでなく、様々な教科の授業準備をする必要があり、それはかなり大変なことだからです。海外の小学校では教科担任制をとっている国も多くあります。ホームルーム担任を一人置き、その教師も自分の教科は教えますが、他の教科はそれぞれの担当教師が教えるという形にすれば、自分の担当科目についてより深く授業研究をすることができるでしょう。

保護者対応も手分けすることで、負担は軽減できると思います。たとえば親が「子どもの算数の成績について聞きたいことがあるのですが」と言ってくれば、ホームルーム担任の教師は「わかりました。では算数の担当教師に聞いてみましょう」とつなげばよいのです。保護者も全ての教科について一人の教師とやりとりする必要がなく、納得するケースが増えるでしょう。学級担任制では、保護者が担任教師とうまくコミュニケーションがとれない場合でも、すべてその教師に相談しなければならないため、納得しにくいこともあると聞きます。

もちろん現在の学級担任制にも、クラスの児童の様々な面を見ることができるなど、よい部分も多いのですが、これほどまでに教師が多忙化しているのであれば、教科担任制の導入を検討してはどうかと思います。

校務の負担を軽減するICTシステムの活用を

中学校ではすでに教科担任制がとられていますが、教師は部活動や生徒指導、進路指導などにも時間をとられ、多忙を極めているようです。そこで、次のようなシステムがあるのをご存知ですか?

現在、米国の学校や日本のインターナショナルスクールの多くは、ネット上に児童生徒一人ずつにページを割り当て、本人と保護者はIDとパスワードを使ってそのページを閲覧するというシステムを採用しています。そこには、成績などの個別の情報をはじめ、宿題やテスト返却、子どもの様子などの日々の出来事、担任教師からのお知らせなどが書き込まれています。つまり通信簿と学級通信を兼ねたようなものがネット上にアップされ、保護者はいつでもどこからでも子どもの状況を知ることができます。実際、米国留学中の私の三男が通っている高校でも導入しており、私は離れていても彼の今の様子を認識できています。

このシステムを活用すると紙の文書を作る必要がないので、教師の業務負担の軽減につながると思います。中学校だけでなく、小学校、高校でも導入されてはいかがでしょうか。

社会に実情を訴えることが大事

私自身、育児と仕事の両立がとても忙しくて大変だなと感じた時もありました。ですがその時は、「時間がない」と言うことをやめ、「時間はつくるもの」と考えるようにしました。それには、すべきことに優先順位をつけること。億劫だなと思う事柄から先に済ませると、精神的にかなり楽になりました。

また、ひどく落ち込んだ時には、家族や身近な人たちからのちょっとした働きかけがとてもよいクスリになりました。ガンを発症し心身共に落ち込んでいた時、当時まだ小学生だった三男が毎晩ベッドの横に来て「今日のジョーク」を披露してくれました。本当にたわいないジョークなのですが、それを聞いて笑うことで、かなり気分が切り替えられました。学校でも、たとえば朝のホームルームの時間に1分でもいいので、子どもたちが交代で楽しい話や面白いジョークを披露するのはどうでしょう。日々の活動の中にこうしたスパイスを入れることで、教師の皆さんも子どもたちも元気になれると思います。教師が笑顔でいることが、子どもたちにとってもよいことなのです。

現在忙しくて辛い思いをしている教師の方は、声を上げて実情を訴えていく必要もあると思います。地域や教育委員会などに対して、現状を変えたいと行動することが大事。それにより社会は、ただ「もっとがんばれ」と言うだけではなく、具体的にどうすべきかを考えるようになると思います。

体調が深刻な方は早めに医療を受けるべきですが、そうなる前にこれらの対策をとってみることをお勧めします。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop