2012.12.04
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子どもを虐待から守るためには?

第43回目のテーマは「子どもを虐待から守るためには、我々大人はどうすればよいか?」です。

自分が育てられなければ、他人に頼む勇気を!

ここ数年、児童虐待の報道を目にする機会が増えました。特に、虐待によって亡くなる子どもが毎年必ずいることには、とても胸が痛みます。今月はこうした児童虐待の中でも虐待死にまで至るような深刻なケースについて、私たち大人が、社会全体で予防や対応として何ができるのかを考えます。

厚生労働省のデータ「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第8次報告)平成24年7月」では、就学後より、就学前の子どもの虐待が多くなっています。平成22年度の心中以外で虐待死した子どもの年齢は、51人中0歳が23人(45.1%)、3歳以下を合わせると43人(84.3%)と、就学前の子どもが大部分を占めていることがわかります。主たる加害者は実母が30人(58.8%)、続いて実父7人(13.7%)、実母の交際相手4人(7.8%)と続きます。加害実母の抱える問題として多かった回答は、「若年妊娠」「望まない妊娠」「妊婦健康診査未受診」などで、妊娠時からのリスクが児童虐待につながっていることがわかります。

また、ここにはありませんが、私は核家族が多くなっていることも原因の一つではないかと思っています。なぜなら、大家族の中では虐待は起こりにくいからです。家族が大勢いれば、子どもの面倒を母親以外の人に見てもらえますし、人目がある所では虐待は起こりにくいでしょう。

不幸にも、上記のような環境や問題を抱え、すでに虐待をしてしまっている人は、自分で育てられないのであれば、他の人に育児を任せる勇気を持ってください。児童相談所などへ行って「自分はこのままではずっと子どもを虐待してしまう心配があるから、子どもを預かってほしい」と言ってください。少子化の今の時代、子どもは社会の宝です。実の両親が育てられない時、他人の力を借りる、それでよいと思うのです。

たとえば、一時的にでも預けて、親の気持ちや状況がすっかり落ち着いたら、また子どもを戻してもらえばよいでしょう。児童相談所だけでなく、市区町村の窓口やNPO団体など頼れる機関を利用して、とにかく助けを求めてほしいと思います。

地域で母親を支えていこう!

虐待をしてしまう人の周囲の人々には何ができるでしょうか。まず、先のデータにもあるように、死に至る虐待の中でリスクが高いのは、妊娠期に何らかの問題を抱えている母親であることがわかります。若年妊娠のリスクについては、市区町村が妊娠期からフォローをしていく試みもなされています。一般の私たちにできることは、近所に妊婦さんがいたら、妊娠中から声を掛けていくこと。そうすれば妊婦さんは「自分は一人じゃない、助けてもらえる」という気持ちになり、出産や育児への不安が軽減されるはずです。

近所の妊婦さんが出産後、あまり姿を見せない、赤ん坊の泣き声がひどいなど、気になることがあれば児童相談所などに通告しましょう。万が一、間違っていてもいいのです。アメリカでは「虐待ではないか?」との通告のうち、実際に虐待だったケースは全体の約5%だったというデータがあります。ですが、その5%の子どもの命は救えたのです。自分の名前を知られたくなければ、今は匿名でも通告できますから、少しでも気になることがあれば、電話をすることが大切です。

近隣の人の協力については、海外の事例も参考になります。たとえば私が次男を出産したカナダでは、出産後帰宅すると近所の女性が「おめでとう! 産後は大丈夫? 心配なことは何でも相談してね」と自宅に訪ねてくるシステムがありました。産後、色々と大変な時期に、とてもありがたかった記憶があります。

ただ以前、「日本でもこれを導入しては?」と提案した所、ある方から「日本のお母さんたちは、他人に家に入ってほしくないのだから、無理」と言われました。でも、本当にそうでしょうか。孤独な子育てに苦しんでいる母親が増えている今、こうした海外のシステムの導入も考えてみてはどうかと思います。

学校でできることもある!

では、学校は何ができるでしょうか。小学校以上で虐待されている子の多くには、次のような特徴が見られることがあります。身なりが汚い、年齢の割に身体が小さい、体にアザがある、大人にこびる、他の子の家に遊びに行かせてもらっていない、後ろ側で手を叩いただけでびくっとする、子どもの頭の方に手を持っていくだけで身構える、給食を異常に早食いする、などです。こうしたサインが見られる場合は、虐待されている可能性が高いことを教師の皆さんは覚えておいてください。

先月取り上げたいじめ問題には、クラス担任よりも他の教師の方が利害関係がない分、子どもたちが本当のことを言いやすいという特徴がありましたが、虐待については逆。担任教師が一番の発見者になる可能性が高いのです。なぜなら、子どもたちと一緒にいる時間が長いから。担任教師は、年度始めにクラスの子どもたちの家族構成などを確認し、母子家庭など、虐待リスクの高そうな子どもについては特に注意しておくことも必要だと思います。

先の厚労省のデータによれば、死に至る虐待ケースの原因に「若年妊娠」や「望まない妊娠」が挙げられています。こうした妊娠の予防のためにも、中学生頃からの正しい性教育は必要不可欠でしょう。

多くの人が「子どもは社会全体で育てていく」という意識を持つことで、虐待の予防・対応がより一層進められると思います。大人は自分の立場でできることを常に考え実行していきましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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