2012.11.06
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いじめのサインを見逃さないためには?

第42回目のテーマは「今再び、深刻な社会問題として注目される『いじめ』。我々大人は、教師は、どう対応すべきか?」です。

もう一度、真剣に考えよう

昨年10月に起きた大津市での中学2年生男子生徒の自殺問題をきっかけに、いじめの問題が大きく報じられています。文部科学省はいじめ緊急調査を実施。今年4月からの約半年間で、全国国公私立の小中高校が把握したいじめ件数は7万5千件を超え、昨年度1年間の約7万件を半年で上回ったことがわかりました。その中で、生命や身体に関わる重大ないじめは約250件とのことです。

これだけ多くの子どもたちがいじめによって大変な苦痛を受けている現在、私たち大人がすべきことを、今一度真剣に考える必要があります。今月は、いじめのサインをどうすれば見逃さないか、また主に学校ではいじめへの対応や予防にどのようなことができるかを考えてみます。

いじめのサインを見逃さない

アメリカなどでは、いじめは人前で行われることが多く、いじめられている側も教師やカウンセラーにはっきりと「どうすればよいか」と相談に行くケースが多いようです。しかし、文化の違いでしょうか、日本では多くのいじめは隠れた所で行われ、陰湿な嫌がらせが特徴のようです。そのため、いじめられた側は、自分が何をされているかを他人に訴えてもにわかに信じてもらえないのではないかという思いから、親や教師には相談しづらいという状況があるのでしょう。

だからこそ、学校では教師がいじめられている子のサインを見逃さず、大事に至る前に対処する必要があります。いじめられている子が出すサインはたくさんあります。たとえば、普段注意深い子が連続して物を紛失する、几帳面な子が宿題を忘れるようになる、メガネが割れた、暑いのに長袖を着ている、一人で昼食を取っている等々、ちょっとしたことですが、子どもが普段と違った様子の時は注視してみてください。そして「本当になくしたの?」「他の人には言わないから、本当のことを言ってみて」と優しく問い掛けてみましょう。

特に、体育の担当教師は子どもが体操服に着替えたら手足を注意して見てください。いじめっ子も賢いので、よく目につく顔などの部位には危害を加えませんが、手足にはアザをつけることがあります。不審な点があれば「その怪我、どうしたの?」と聞いてみましょう。子どもが「階段から落ちた」と言っても、子どもの嘘です、矛盾点や態度で大体見抜けるはずです。

ところで、教師であれば「自分のクラスの子たちは皆良い子」と信じたいものだと思います。しかし、このような意識は「いじめなんてあるはずがない」という心理を生み、上記のようなサインを見逃すことにつながります。そこで、まず1週間、「本当にいじめのサインがないかどうか」を意識的に見る訓練をしてみてください。すると、子どものちょっとしたサインを敏感に感じられるようになります。

また、子どもは「担任の教師は自分の成績や内申を握っている」という思いから、本当の事を隠そうとする傾向もあります。子どもとは利害関係のない担任以外の教師が学校全体を見回るようにすれば、子どもが放ついじめのサインをキャッチする可能性も大いにあるでしょう。私が高校時代にいじめられた時もそうでした。ある教師が昼休みに毎日学校中を見回っていて、図書館で隠れて一人で昼食を取っていた私を見つけてくれたのです。いじめのサインは教師間で連携し、自分のクラスだけでなく、他のクラスや学年についても意識して見ていくこと。そして、子ども側がいじめに気づいたら、担任を通さず報告できる「投書箱」のようなものを設置するのもよいでしょう。

いじめっ子の心理を理解する

いじめられている子へのケアはもちろん大事ですが、それ以上に大きな課題がいじめっ子へのケアだと考えます。いじめの原点を支援できれば、解決にも近づくはずです。

いじめっ子の心理に多いのは、「優越感を得たい」というものです。家来を作って従わせたり、自分より弱い子をいじめたりして優越感を得、その快感に浸ります。ただ、この快感は刹那的。なぜなら優越感と同時に、いじめへの罪悪感も持つからです。このため、いじめは継続し、いじめ自体もエスカレートしていきます。

いじめっ子が優越感を得たいと思う心理は、セルフエスティーム(自己肯定感)が低いことが多くの場合関連しています。セルフエスティームを持っている子、つまり自分にプライドを持ち、自分を好きになれる子は一般に、優越感を得たいとは思わないものです。当然、自分より下の存在を作ろう、誰かをいじめようとは思わないでしょう。

従って、いじめっ子への対処は、まずその子の長所を見つけ、それを活かせる何かに夢中にさせ、「いじめなんてしなくても、君にはこういう良い所がある」と、その子の良い部分を褒め、伸ばすアドバイスを与えるのです。そうすることで、その子は次第に「自分はとてもスペシャルな存在だ」と気づくようになり、確固たる自信――セルフエスティームを持てるようになり、むやみに他人をいじめて刹那的な快感に浸る必要はなくなるはずです。これは、いじめ問題の対処療法ではありませんが、根本解決に有効な方法だと思います。

いじめを予防するには

中学校で深刻ないじめが多発する一因に、思春期のホルモンバランスの変化があります。自分の身体が急に大人になっていくこの時期はイライラしやすいもの。そこで、小学5~6年生の頃に学校教育でも、性教育を兼ねて思春期にホルモンが変化すること、その影響でイライラしやすいこと等を教えるべきだと思います。この成長システムを子どもに理解させることで、彼ら自身がイライラしてキレそうになっても「そうか、これはホルモンのせいだ」と、落ち着いて受け止めセルフコントロールすることにつながります。

人権教育もいじめの予防策になると思います。いつでもどこでも同じ自分でいること、それが精神のバランスをとるためにも大切。そして、人がいつでもありのままの自分でいるためには互いの特徴や違いを認め合い、人権を認め合うこと。つまり異質だという理由で他人を差別しないことを子どもたちに理解させるのです。

ただ、これらのことを教師だけで教えていくのは大変ですから、外部の専門家に出張授業をしてもらってはいかがでしょうか。アメリカでは、思春期によく問題になる「いじめ」「薬物」「酒」「たばこ」について、医者や看護師、警察官、消防士等に来校してもらい、それぞれ話をしてもらうという取り組みがあります。たとえば警察官には、いじめの暴力で相手に怪我をさせた場合、起訴され裁判になる場合もあること、医者・看護師にはホルモンバランスの話やセルフエスティームの必要性等を教えてもらいます。子どもたちにとっても、いつもとは違う先生たちの話は新鮮で、興味深く聞くというメリットもあります。日本の教師はただでさえ多忙なので、いじめ予防策に専門家による出張授業をお勧めしたいと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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