2012.06.05
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

親が病気になった時、子育てはどうする?

第38回目のテーマは「病気にかかり育児にエネルギーを回せない。こんな時、どうすればよい?」です。

いつも元気でいたいけれど…

子育てをしている親にとって病気は大敵。もしも、親が子育てにまでエネルギーを回せないほどの病気になったら、核家族化が進む現代社会ではまさに親子共々、死活問題です。

私は子どもができて以来、体調管理に留意し、特に食事には気をつけ病 気にならないように努めてきました。それでも熱を出し疲労困憊になることもありますが、それは自分の中では病気とは考えていません。他の家事の手を抜いて でも、子育ての手は抜かずにやってきました。なぜなら、子育てには命がかかっているからです。大切な子どもの命を守るのは親の責任。そう思って、子育てを 最優先にやってきました。

子育て中は、自分の食生活に気をつけ、病気を予防するのが一番です。しかし、万が一、育児にエネルギーを傾けられない程の病気になった時どうすればよいか。今月はこれを考えてみましょう。

家庭での「危機管理」が重要

まず、日頃から家庭の防災、つまり危機管理をしっかりと準備しておくことが大事でしょう。

シングルマザー・シングルファザーの場合、もし自分が病気で倒れた ら、誰に子どものことを頼むかを決めておくことです。その際大事なのは、なるべく多くの頼れる先を確保しておくこと。自分の親だけしか想定していないと、 その親が何らかの事情で戦力にならないこともありますから、心配です。自分が住んでいる自治体の子育てサービス(緊急一時保育)等の連絡先を調べておく、 普段から隣近所の人たちとのネットワークをつくっておくというのも危機管理の一環になるでしょう。

父親・母親共に揃っている場合、まず母親が倒れた際に、父親が全面的 に子育てをできるかどうか、チェックしてみましょう。たとえば、子ども服はどこに何があるのか、ミルクはどこでどのメーカーのものを買っているのか、お風 呂の入れ方は? 食事の世話は? 等、日常欠かせない細々とした事柄は確実に共有しておいてください。訓練として、母親が元気な時に父子だけで過ごせるか を試してみるのもよいかもしれません。

逆に、父親が倒れたり、亡くなったりする場合もあります。その際、母 親は仕事をして家計を支えることができるか、ということも想定しておきましょう。また、普段は両親が揃っていても、どちらかの出張中に何が起きるかわかり ません。シングルの場合と同様、地域の人とのネットワークを普段から大事にしておくことは重要といえるでしょう。

時には、命にかかわる病気の可能性もないとは言えません。それも当然 想定内にすべきでしょう。私は数年前、乳ガンになりました。その時、アメリカで大学受験の準備をしていた次男は大変なショックを受け、勉強が手につかない ほどになってしまいました。この反応は想定外でした。その後、次男には私から病気の現状(早期発見でまずは心配ないこと)を伝え、今は次男にとって大切な 時だから、勉強をぜひ頑張ってほしいと話し、理解を得ました。そして大学にも無事合格し、ホッとしました。

とはいえ、ガンは常に再発の危険と隣り合わせです。私たち親は病気だけでなく、自分の死についても常にシミュレーションしておく必要もあると思います。それは、家族と一緒に今をどう生きていくかを考えるよい機会にもなるでしょう。

普段から「give」を大事に!

前章に、「普段から地域の人々とのネットワークを大事にする」と書きました。これは、日頃から 自分ができることを相手に惜しみなくしていく、ということです。近所の人に挨拶をきちんとするのは当たり前、自治会等の活動も積極的に参加しましょう。子 育て中のお母さんがそれこそ病気になった時は、子どもを預かったり、買い物を買って出たり、料理を差し入れたり。「give & take」とい いますが、普段からgive、give、give、つまり与えることを惜しまずにいれば、いざ自分が困った時に協力してくれる人が自然と現れてくるはず。 「困った時はお互い様」という気持ちで助け合うのです。そのためにも、自分が危機に陥った時のことを想定しておくことと、常に困っている人を助ける姿勢を 忘れずにいることが大切だと思います。

これは、家族・親族に対しても同様です。私は3人の息子に惜しみない愛情を注いで育ててきました。それは、彼らが大人になって人を好きになった時、あるいは親になった時、“愛する”とは何か、それはどういう行動かがわかるために必要だと思ったからです。

かつて長男が10歳、次男が7歳、三男がまだ赤ん坊だった頃のこと。 三男をお風呂に入れていた時、私はうっかり足を滑らせ転倒してしまい、起き上がれないほどの傷を負ってしまいました。あいにく夫は帰りが遅く、家には子ど もと私しかいません。その時、長男が消毒薬等を持ってきて私の傷の手当をし、次男は赤ん坊を抱っこしてあやしてくれたのです。普段、私が彼らにしていたこ とを、そのまま私にしてくれた一例です。

ぜひ皆さんも、自分が病気や事故に遭ったら、もしもこの世からいなくなってしまったら……と、様々な事態をシミュレーションしておいてください。そして、愛情を持って人間関係を作っておくことが、万が一の時の備えにつながるということも覚えておいてほしいと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop